アメフト・品川CCブルザイズのX Premier リーグへ向けたリスタート「30年前同様、諦めず這い上がるのみ」

アメフト・品川CCブルザイズ(以下ブルザイズ)が大きな壁に直面している。Xリーグの規定改変で、最高位リーグ X Premier 参入のハードルが限りなく高くなってしまったのだ。
しかし、可能性を信じて戦い続ける気持ちは変わらない。文字通りの新たなフェーズに突入する、同クラブ共同代表・GMの岸原直人氏に話を聞いた。

~アメフト・X Premier 参入へのGRIT宣言
「現状では勝ち続けても、チームとして2億円以上の運営費が必要な X Premier参入はできません。でも、諦めるつもりはありません。可能性を信じて、自ら道を拓き続ける姿こそが、“グレーター品川のヒーロー”の姿だと信じています」
アメフト・Xリーグは、2026年からトップリーグを現在の『X1SUPER』から『X Premier』と改名。運営費2億円以上、プロ選手/コーチ義務化などを参入条件として、リーグ運営の活性化を図ることにした。
「ブルザイズは『10万人の市民チーム』を目指し、複数オーナー制度を導入しています。NFLグリーンベイ・パッカーズの市民株主(オーナー)制度を応用したものです。時間をかけて地域に根付き、オーナーを増やしている最中でした」
「ブルザイズの運営活動費は年間約2,000万円。これを約5,000万円にできれば、X1AREAを勝ち抜き、X1SUPER昇格も可能だと思っていた。全てのプランを考え直さないといけなくなりました」
運営活動費に関しては、X1SUPER上位チームとは大きな差がある。しかし昇格することさえできれば、勝ち続けることでプレーオフ進出、さらには日本一になれる可能性もあった。
「『予算規模が小さいクラブが結果を出すことに夢がある』と思っています。昨年はチームスローガン『CHANGE』の元、ディビジョン準優勝の結果も残した。選手・関係者の誰もが手応えを感じ始めているので、諦める気持ちはありません」
チームスローガン『GRIT(やり抜く)』を掲げ、まずは「X1AREA全勝優勝」を目指して今季の戦いに挑む。

~“グレーター品川エリア”との関係性をずっと大事にする
ブルザイズは、当時の松下電器産業株式会社(現:パナソニックグループ)の東京メンバーを中心に、1993年に発足、翌94年に日本社会人アメリカンフットボール協会(当時)へ準加盟、95年に4部へ正式加盟を果たす。98年からはXリーグ参入、2022年から現在のX1AREAが主戦場となった。
当初の活動拠点は、自ら会社の遊休地を開墾して作った横浜市戸塚のグラウンドだったが、2001年からは品川エリアへ移った。2022年からは同エリアで活動している地域総合スポーツクラブ「株式会社品川カルチャークラブ(品川CC)」にアメフト部門として合流を果たした。
「大好きなアメフトを続けたい思いからクラブは発足。諸事情があった中で素晴らしい縁があり、活動拠点を品川エリアへ移すことになりました。品川CCはサッカー、3×3 バスケ、チアの部門があり、他競技との共闘体制も整っています」
「品川区と港区の行政区を超えた生活経済文化圏“グレーター品川エリア”が我々のホーム。地域活動へ積極的に参加するなど、地元との関係を大切にしてきました。規模感や知名度も少しずつ高まっていますので、このやり方を大事にしていきたいと考えています」
“グレーター品川エリア”とは、港区港南の企業が一同に所属する“港南振興会”が提唱する表現。東京都内で最も成長しているエリアであり、その地で受け入れられているのはブルザイズにとって大きな武器だ。
「『3年以内でのX1SUPER昇格』を1度は目指しました。地元との関係性も含め、『可能性あり』と信じていたからです。しかしその計画は難しくなったので、現実的な道を模索し始めています。ただ、その中でも変わらないのは“グレーター品川エリア”との深い関係性です」
スポチュニティコラム『アメフト・品川CCブルザイズ「動き続けることで、グレーター品川のヒーローに近付けるはず』参照

~YC&ACと大学アメフト部との協力関係
『3年以内でのX1SUPER昇格』という、当初ビジョンへ向けて着実に足元を固めてきたこと。その結果、プレー環境が良くなっているのが大きな希望だ。
「少し前までは特定の練習場を持たない“ジプシー集団”。各地の公共・民間グラウンドを転々としていました。YOKOHAMA COUNTRY&ATHLETIC CLUB(以下YC&AC)さんが賛同してくれ、練習場の定期確保ができるようになりました」
1968年創設のYC&AC(神奈川県横浜市)は、40ヵ国以上の会員からなる国内で最も歴史あるスポーツクラブ。練習場利用と共に、YC&AC会員家族向けのフラッグフットボール教室、練習見学イベント等も行う。
「強豪クラブとの差はリクルート、練習環境(時間)が大きい。YC&ACを利用できることで、効率的にアメフトへ打ち込める環境ができた。新規選手等のリクルートに関しても、大きなセールスポイントになるはずです」

YC&ACの定期グラウンド利用と共に、大学アメリカンフットボール部との提携もスタート。関東学生2、3部のチームのグラウンドを訪問、時に合同練習も行うことで双方にとってプラスになっている。
「ブルザイズは練習場所の確保ができる。学生側は人数不足で満足な練習がこなせない状況を打破できる。また、学生側のニーズに応じた支援(タックルダミーやハンドダミー等の寄贈)もします。加えて、新人勧誘時に活用してもらえるよう、必要に応じてブルザイズの公式戦チケットも準備します」
アメフト界における“循環”を重視した取り組みは、ブルザイズと学生側の両方にとって“Win-Win”の効果をもたらしている。プレー環境は着実に良化しており、この先のチーム力向上にも繋がるはずだ。

~“ネーミングライツ”をやる覚悟だって持っている
「今、30年前と同じような状況に陥っています」と岸原氏は振り返る。
ブルザイズはリーグ準加盟の1994年に全勝。正式加盟となった95年には4部(当時)で結果を残し、入替戦でも勝利。96年から3部へ昇格予定だったが、運営基盤が脆弱とみなされ「メトロポリタンリーグ」という別リーグ所属とされた。
「当時のブルザイズには大手企業のスポンサーがなかった。リーグ側から資金力が脆弱と判断され、正式加入が見送られました。勝ち続けても上のカテゴリーに進めないのは、当時と同じ。でも、30年前も諦めずに前進を続けたから今がある。今回も絶対に挫けません」
リーグ側が示した運営資金に関しては、現状では圧倒的に足りない状況。それでも“グレーター品川エリア”のクラブとしての矜持と誇りを持ち、最高峰リーグへの参入を追い続ける。
「“グレーター品川エリア”には多くの企業が進出している。新規住居もどんどん増え人口も右肩上がり。地元との強固な関係を少しずつでも作り上げることで、もしかしたら協力スポンサーが登場するかもしれません。焦らず実直に、一歩ずつです」
「全国大会等の表舞台に縁がない学生リーグ2、3部の選手の中に、すごい逸材がいる。そういった選手達が、大学卒業後もプレーを続けていけるようになって欲しい。その受け皿がブルザイズになれば、チーム力もどんどん上がるはずです。実際にブルザイズではそうした選手がスタメンで活躍し、リーグの優秀選手にも多数選出されている。」
「手っ取り早く多額のお金を投入しなくてもチーム強化はできる」と信じている。「地道にやっていれば“ホワイトナイト”が現れるかもしれない」との希望もある。「『いつまでに…』と言えないのが悔しいですが、いつの日か必ず上り詰めて見せます」と語る表情には、希望が宿っているように見えた。

困難に何度、直面しても諦めないブルザイズのスピリットには見習うべき点が多い。スポットライトが当たらなくなって久しい日本アメフト界にとって、今まさに必要なもののようにも感じられる。
「“ネーミングライツ”をやっても良いと思っている。〇〇(企業名)品川CCブルザイズにする覚悟だってあります」
追い込まれたフットボーラー達による意地の結集が見られそうだ。品川CCブルザイズ、2025年からの“リスタート”に注目だ。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・品川CCブルザイズ、港南振興会、YOKOHAMA COUNTRY&ATHLETIC CLUB)