今年の目標は「育成」 新たなスタートを切った愛媛マンダリンパイレーツを率いる元スター投手
四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツは今季、弓岡敬二郎前監督がオリックス・バファローズの2軍育成統轄コーチとして転出し、2012年から同球団でプレーした元巨人、中日、西武の河原純一氏が新監督に就任した。
2017年前期リーグは11勝20敗3分けで勝率.355。首位・徳島インディゴソックスから10.5差の4位に終わった。前期リーグを戦い終えて新監督はどう感じたのか。指揮官に話を聞いた。
河原純一監督
野球人口の減少に、危機感を抱いた!
――河原監督は、愛媛では4年間、投手としてプレーしましたが?
「最後の年は投げられなかったので実質3年ですが、一昨年に引退して、去年は愛媛マンダリンパイレーツ運営会社である広告会社の星企画で仕事をさせてもらいました。野球人口が少なくなっている中、子どもたちに野球を普及させる仕事です。幼稚園などで野球教室をしたり、講演をしたりしました。
競技人口の減少は、レベルの低下につながりかねません。私は愛媛県は野球が盛んなのかなと思っていたのですが、そうでもないんですね。
最近は愛媛県からプロ野球選手が出ていない印象です。それに、愛媛はもともと野球とともにソフトボールをやる習慣がありました。僕が育った神奈川県では、ソフトボールはしなかったのですが。男の子でも野球ではなくソフトボールをやるんです。それに最近は、サッカーやいろんな競技が盛んになったので、昔みたいに運動神経がいい子は野球をやるという時代ではなくなっています。
それではいけないとの思いから、去年は普及活動をさせてもらいました、もちろん、指導者になりたいという気持ちはありました。今年からとは思っていなかったのですが、弓岡監督も転出されたこともあって、オファーをお受けすることにしました」
――愛媛マンダリンパイレーツの野球についてどんな印象を持っていますか?
「思ったよりレベルが低いということですね。独立リーグは、地域を盛り上げるという使命を持っています。その部分はいいかもしれないけれど、プロ野球選手を一人でも多く輩出するという目的は、このレベルじゃ難しいかなと思いました。そこを何とかしたい、指導者を引き受けたのはそういう気持ちもありました。
NPBの指導者なら1軍に上がれるように指導するのでしょうが、ここでは違います。
僕自身、駒澤大学時代に厳しい指導を受けてプロ野球選手に慣れました。それに近いレベルかなと思いました。NPBの選手の指導とは違って、それ以前から教えないといけないな、とは現役時代から思っていました。より遠くに投げる、速い球を投げる、速く走る、そのための体力がない。技術の向上も当然必要ですが、その土台になる体力も出来上がっていないから、そこから始めないと。だから選手は基礎からみっちり鍛えています」
投手陣に熱いまなざしを注ぐ
NPBに人材を送り出すためにも、若手を伸ばさないと!
――オファーを受けた時点で、チームの方針は、育成優先だったわけですね。
「そうですね。もちろん優勝を目指すのも大事ですが、同時にNPBに選手を送り出したいとのことでした。
今年、高卒の選手が3人入ってきましたが、そういう若い選手をみっちり鍛えて試合に出していくことが大事です。選手を育てないと、安定したチームもできません。NPBに送り出すことを考えても、若くていい選手を作らないと、と思います。そういう流れを作らないとダメですね。いくら力があるからと言っても、24、5歳の子をとってきて成績を上げさせても、プロ入りは厳しい。NPBだって将来性を考えます。
単にこのリーグで勝つためなら年配の選手や、外国人選手でチームを作ればいいですが、それではNPBに選手を輩出するという目的は果たせません。
もちろん、若い選手を育てるのは簡単ではありません。高卒の3人のうち、打者の堀尾晃生は4番で使いましたが、投手は投げていない。1つ上の2人の投手もまだまだです。そういう試合に出ていない選手たちが、来年、再来年にどうなっていくのか、が大事です。年上の選手は、若い選手の見本として必要です。正田樹(投手、元日本ハム、ヤクルトなど)もお手本ですね」
前期よりも成長した野球を!
――後期に向けて、どのような展望を持っていますか?
「前期より少しでも成長したものをお見せしたいと思います。試合の勝敗もそうですが、野球に取り組む姿勢、考え方も成長してほしい。前期の負けを教訓として、中断する期間に練習していきます。具体的にな順位や勝ち星はまだわかりませんが、成長が感じられないと、何もかも無駄になります。勝ち星だけでなく、負けたことも無駄になります。いつまでも同じことをさせないように、指導していきたい。独立リーグは個々がプロを目指す場であるとともに、野球をあきらめる場でもあります。厳しさの中で教えていかないといけないでしょう」
――今季のドラフトで注目の選手は?
「四戸洋明(投手)には、一応スカウトの方々が注目してくれています。彼は3年目、1年目は僕も現役でチームメイトでした。面白いのかな、とは思うけど、まだまだ足りない部分がある。まだ21歳ですが、育成枠で指名されるのはもったいない。ドラフトで指名された選手は横一線のように言いますが、1位と8位ではチャンスの数が違いますし、育成枠はもっとチャンスが少ない。本指名をしてもらわないと仕方がないんです。
四国アイランドリーグplusから本指名でとってもらったのは又吉克樹(香川オリーブガイナーズからドラフト2位で中日)くらいです。うちでなくてもいいから、そういう選手が毎年、出てほしい。そうなるためには、あ、こいつほしいなと思ってもらわないとだめです。だから四戸をはじめ、NPBを目指す選手はさらに頑張ってほしいと思います」
――四国での生活も5年目ですが。
「僕は神奈川で生まれて、駒澤大学、巨人、西武とずっと地元関東でした。そのあと中日で3年プレーしましたが、愛媛県はもう5年、これまでで2番目に長く生活していることになります。プロ野球選手はキャンプや遠征もあるので、いろいろなところで生活することには慣れています。でも、愛媛のみなさんに、喜んでいただけるよう、チーム、選手を成長させたいですね」
香川オリーブガイナーズとの公式戦
「県民球団」として、人材を輩出したいからリセットした
愛媛マンダリンパイレーツは、県民球団だ。オーナーは「愛媛県民」。この球団を預かって運営している星企画の取締役で、球団の統括マネージャーである田室和紀氏にも話を聞いた。
――過去2年総合優勝していましたが、今季は一転最下位。チームの方針が変わったとのことですね。
「おかげさまで2015、16年は総合優勝し、2015年には独立リーグチャンピオンシップでも優勝しましたが、その反面、うちは2012年に巨人に行った土田瑞起(投手)を最後にNPBに選手を送り出していません。2013年には、金森敬之(投手)がロッテに行きましたが、彼は元日本ハムですから、ドラフトではなくNPBへの出戻りです。
金森を入れても実質3年間、NPBに選手を輩出していない。ここにやってくる選手の第1の目標が“プロ野球に行きたい”であることを考えると、これではいけないんじゃないか、と考えたのです。今年、監督コーチに第1に期待したのはドラフトにかかるような選手を育成することでした。個々の選手の能力を上げてドラフトで指名される選手を作って、それが結果としてチーム力を上げて優勝につながるという優先順位で、再びチーム作りをリセットしたわけです」
――河原純一新監督が就任するまでの経緯は?
「河原監督は、2012年から15年まで愛媛マンダリンパイレーツで投手としてプレーして引退しました。若い選手のお手本として、本当に貢献してくれました。
引退時にお話をうかがうと、NPB12球団の監督、コーチ業には、あまり関心を持っていなくて、もっと子どもたちに野球を普及したいと考えておられたんです。場所にもこだわりを持っておられなかったので、だったら愛媛でセカンドキャリアをはじめませんかとお声がけをしました。愛媛マンダリンパイレーツの親会社は、星企画という広告会社なので、その使命の一つとして野球の普及事業を担当していただくことにしたんです。
子どもたちのソフトボール投げの記録は、全国的にもどんどん下がっていますが、愛媛県はその平均よりもさらに下になりました。子どもの運動能力の低下は深刻ですし、野球離れも進んでいます。そんな子供にボールの持ち方から教えて、野球の楽しさを教えてほしい、そういう仕事を担当していただいたんです。1年間で幼稚園だけでも何十園も回ってもらいました。経済団体などでの講演活動も含めて、幅広く活動していただきました。
現役時代から折に触れて話をして、しっかりした育成理論を持っておられると思っていましたが、1年間の普及活動を通して、指導者として本物だと思ったので、監督をお願いしました。四国アイランドリーグplusで野球をしているのは、プロ野球に行けなかった選手たちです。そういう選手たちの殻を破るような指導ができるのではないかと思いました。NPBの選手に対する指導ではなく、一つも二つも目線を下げたところから指導ができる上に、理論を持っている。その力をうちに貸してほしい、とお願いしました」
本拠地、坊っちゃんスタジアム
自然に勝てるレベルになっていく
――新体制になって前期が終了しましたが、手ごたえはいかがですか?
「河原監督からも、7月いっぱいまでは2月のキャンプの延長だと思ってほしいと言われました。選手にも地味な走り込みを含めた練習をしていくから、と伝えています。徹底的に基礎を鍛えていく段階でした。後期は、勝てるレベルには自然に上がっていくと思います。8月、9月には勝ちにつながっていくと思います。ただ、観客動員は、去年、一昨年に比べると苦戦しました。勝つことに慣れているお客さんは、負けが込むと来ていただけなくなります。厳しいご意見もいただいています。仕方がないところですが、この部分も努力していきます」
――11月のNPBドラフトに向けて期待が高まります
「うちだけじゃなくて、四国アイランドリーグplusからはNPBに多くの選手を輩出していますが、育成契約が多いんです。育成から支配下登録され、1軍の試合に出るのは狭き門です。NPBに行くことが目的ではなく、行って活躍してほしいので、育成ではなく本指名でとってもらえるような選手を育成したいと思います。
河原監督もおっしゃっておられるように、今年のドラフトでは、四戸洋明(投手)に期待しています。四戸には、去年も育成でNPB球団から調査書が来ていたましたが、今年こそはという思いは本人も強いようで、オフの間に体重も7キロ増えてプロの体になりました。ぜひ、本指名でプロに行ってほしいです。後期は勝利を目指しつつ、人材も輩出したい。大いに期待しています」
愛媛マンダリンパイレーツ 田室和紀統括
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スポチュニティコラム編集部より:
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