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「部内リーグ」実施で選手間競争激化、部員約250人の大所帯・仙台大硬式野球部が勝てる理由〜仙台大、2度目の神宮へ(後編)

 仙台大は19日、第53回明治神宮野球大会初戦の国学院大戦に臨む。明治神宮大会出場は昨年が初めてで、今年は2年連続2度目の出場。所属する仙台六大学野球連盟では東北福祉大が長く「一強」時代を築いていたが、近年は仙台大がその牙城を崩す程の実力をつけてきた。また宇田川優希投手(オリックス・バファローズ)、大関友久投手(福岡ソフトバンクホークス)ら、NPBで活躍する選手も続々と輩出している。  

 今年のチームは、大学日本代表で来秋のドラフト候補に挙がる辻本倫太郎内野手(3年=北海)ら個の力が光る一方、選手層の厚さも武器に持つ。その背景には、急激な部員増加に伴う部内、選手間競争の活発化があった。仙台大はいかにして、勝てるチームになったのか。後編では、その理由や歩んできた歴史を探る。

全国大会出場を機に部員急増、名門・東北福祉大と双璧をなす存在に

 仙台大は宮城県柴田町にある体育大学。硬式野球部は1968年に愛好会として発足し、その翌年には部に昇格した。リーグ戦では1980年秋の優勝後は長年、東北福祉大に独走を許していたが、2014年に潮目が変わり始める。春、当時3年のエース・熊原健人投手を擁し67季ぶりのリーグ優勝を果たすと、全日本大学野球選手権に初出場。福岡大との初戦に勝利し、全国大会初白星も手にした。

森本吉謙監督の話に聞き入る仙台大の選手たち

 さらに千葉ロッテマリーンズで投手だった坪井俊樹氏がコーチとして加わった翌年は、2年連続で全日本選手権に出場。この年も活躍した熊原はドラフトで横浜DeNAベイスターズから2位指名を受け、仙台大初のプロ野球選手が誕生した。  

 全国デビュー後は東北福祉大と毎シーズンのように優勝を争うようになり、NPBにも多数の選手を送り込んだ。東京六大学野球や社会人野球で内野手、外野手として活躍した小野寺和也氏がコーチに就任してからは、野手のドラフト指名も増えてきた。また2014、15年の快進撃を機に大学の名が全国区となったことで、入部希望者が急増。仙台大広報課によると、現在は4学年計約250人が在籍しており、2014年の総部員数と比べるとおよそ倍増となっている。

「部内リーグ」の発足で競争加速

 部員数が増えたこと受け、4年前からは「部内リーグ」を実施するようになった。実施時期は春季リーグ戦後、秋季リーグ戦前に当たる6〜8月。上位リーグと下位リーグに分け、各リーグ、4チームが総当たりでそれぞれ12試合ずつ戦い、真剣勝負を繰り広げる。昇格制度や表彰制度も設けており、全日程終了後には最高殊勲選手や各部門のタイトルも決める。

部内リーグから好調を維持している佐藤亜蓮。今大会もキーマンの一人だ

 この時期は監督、コーチ陣がスカウト活動などで大学を離れる機会が多いこともあり、部内リーグは学生主体で行う。各チームの監督は学生コーチが務め、指導者が運営に携わることはない。坪井コーチは「我々指導者が固定概念を持たずに、一旦フラットな状態にして選手を見ることができる」と話す。  

 また坪井コーチは部内リーグの意義について、「部員が増え、リーグ戦に絡まない選手も多くなった。そういった選手の実戦の機会を増やすことができるし、部内競争があれば目標もでき、練習の中身が変わってくる」と考えている。実際に選手間の競争意識は年々高まっており、部内リーグでの活躍を機に飛躍した選手も少なくない。

競争を勝ち抜いた先にある進化

 今や絶対的エースとなった長久保滉成投手(4年=弘前学院聖愛)は、1年次の部内リーグで頭角を現した投手。今年の部内リーグで最高殊勲選手に選ばれた佐藤亜蓮投手(4年=由利工)は秋リーグで先発デビューを果たし、明治神宮大会出場を決めた東北地区代表決定戦では先発、中継ぎでフル回転の活躍を見せた。  

 野手では石丸未来人捕手(3年=東北)や竹ノ内康外野手(3年=中部大春日丘)が部内リーグで結果を残し、出場機会をつかんだ。石丸は秋リーグの東北工業大1回戦に代打で登場し、決勝2ランをマーク。竹ノ内は東北地区代表決定戦で2試合ともに「9番・右翼」でスタメン出場すると、準決勝の青森大戦で先制打を放つなど、計3安打3打点と起用に応えた。

東北地区代表決定戦ではバットで勝利に貢献した竹ノ内

 また部内リーグの個人成績や指標は部内で共有しており、例えば投手の球速も全員が把握できるようになっている。投手にとって球速が全てではないが、自分の立ち位置を知り、目標を設定することが、個々のスキルのレベルアップにつながっているようだ。特に下級生の成長は著しく、渡邉一生投手(1年=日本航空/BBCスカイホークス)、浦野冬聖投手(2年=東農大二)は左で150キロ以上を出し、右でも秋季新人戦決勝で自己最速148キロを計測した武者倫太郎投手(2年=帝京)らが急速にスピードを上げている。

チームを救う「日替わりヒーロー」は神宮にも現れるか

 森本吉謙監督は部内リーグのみならず、普段の練習や練習試合で好調な選手を見極め、勝負所で積極的に起用してきた。選手層の厚さが顕著に現れたのが、神宮切符を勝ち取った東北地区代表決定戦の2試合。投手、野手ともに怪我人が出る中、戦力ダウンを感じさせない戦いぶりを披露した。

 リーグ戦では主に下位を打っていた鹿野航生内野手(3年=日大山形)は、2試合連続で「5番・一塁」に抜擢され計4安打と奮闘。エース長久保が早期に降板した決勝では、公式戦初登板となった篠塚太稀投手(2年=千葉黎明)ら中継ぎ陣が好救援し、逆転勝利を呼び込んだ。

明治神宮大会出場を決めた選手たちを労う森本監督

 代表決定戦同様DH制がない明治神宮大会は、リーグ戦以上に継投策や代打策が勝敗の鍵を握る。森本監督は「どの選手がチームを救ってくれるか楽しみ。『誰?』というような選手かもしれない」と、次なる「日替わりヒーロー」の出現に期待を寄せている。指揮官が采配に自信を持てるのは、レギュラー組はもちろん、出番を信じ準備を続けてきた250人の選手たちがいるからこそ。仙台大が見せる本当の「全員野球」は、観る者をも楽しませてくれるに違いない。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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