「米国に匹敵するエンタメ空間でのアメフト体験」アサヒ飲料クラブチャレンジャーズが尼崎ボウルを開催
6月18日、「尼崎信用金庫プレゼンツ第8回尼崎ボウル」が開催された。
同イベントは、「アメリカンフットボール(以下アメフト)を本場・米国式で楽しむ」ことにこだわっている。特殊効果演出や大型ビジョンを活用して作り出すエンタメ空間では、非日常の世界を感じることができた。
アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ(以下チャレンジャーズ)によるアメフトの祭典が今年も開催された。XリーグAREA所属アズワン・ブラックイーグルスを迎えた一戦、尼崎・ベイコム陸上競技場には昨年の2500人を超える観客が集まった。
「多くの人が来てくれて最高の環境で試合ができます。しかしチームにとっては秋のリーグ戦へ向け大事な一戦。できるだけ多くの選手を起用して戦力を把握したい。試合が始まったら真剣勝負を体感して欲しいです」(正重高志ヘッドコーチ)
チームにとって重要な試合である一方、足を運んでくれた人たちに楽しんでもらう。尼崎ボウルには2つのミッションを並行して行うことが求められる。同イベントを任されるクラブ副代表・川口陽生氏がこだわるのが、米国式のエンタメ演出だった。
~アメフトで非日常を感じてもらいたい
「米国スポーツは盛り上げ方が上手くて、異次元の世界にいる感じすらする。試合前イベントでは涙が出そうになる。接戦の試合終盤にはスタジアム中で地鳴りが起こっている感じがする。そういう環境を作りたいと思いました」
関西学院大アメフト部でプレー後、現役を退いてUCLA(カリフォルニア大LA校)へ学業留学。本場のスポーツ環境に触れる機会に恵まれた。帰国後はチャレンジャーズで現役復帰、現在は副代表として裏方からチームを支える。
「米国で初めてアメフトを観たのがローズボウルでのUCLAとスタンフォード大、Pac-12(米国西部6州12校が参加するディビジョン)内のライバル対決でした。10万人収容の箱がほぼ満員で埋まり盛り上がりがすごかった。僕の原体験です」
「関西学院大もアメフト熱は高くて恵まれた環境でした。でも米国は別物でエンタメにかなり特化した印象を受けました。言ってみれば日本式と米国式の違い。チャレンジャーズの試合を米国のように盛り上げたいと思いました」
~220インチ・ビジョンが尼崎ボウルの最適サイズ
前回から尼崎ボウル担当となり、真っ先に手を付けたのがエンタメ部門だった。ビジョン設置と派手な選手入場、そしてハーフタイムショーの充実。そのために協賛スポンサーを集め、クラウドファンディングを行うなど、費用捻出に走り回った。
「以前はチャレンジャーズの予算内でやっており、できないことも多々あった。まずはスポンサー様を増やすことから始めました。想像以上に多くの方々に賛同していただき、本当に感謝しかありません」
「アメフトはプレーが頻繁に止まり細かい反則も多い。わかりにくい競技だと思います。尼崎ボウルに来る人は初めて観る人が多いはずです。リプレー映像を流すなどして、何が起きているかをしっかり伝えるべきだと思いました」
「会場の広さやスタンドとの距離を考えた設置場所。映像コンテンツをどうするか。わからないことだらけだったので、業者さんと相談しながらゼロからのスタートでした。設置費用も無理を聞いていただき助かっています」
ビジョンを担当したのは株式会社T&Tビジョン。隅田川花火大会や大阪広域防災訓練での実績を誇る第一人者だ。同社の渡辺洋氏は、アメフトとビジョンの親和性について語ってくれた。
「使用するのは220インチ(4480mm×3200mm)のLEDトラックビジョン(トラックにビジョンが乗ったもの)。250インチもありますが、高さの問題で競技場内へ搬入できない。スタンドからの距離や映像の明瞭さを考えれば、220インチは最適な大きさです」
「メインスタンド脇にいる中継担当者とトラックにいる我々が連携して操作します。プレー中の映像はスタンドとフィールド上のカメラで追っていて中継担当者が映像を選びます。選手紹介画像等は、トラックにいる我々がPCを使って映し出します」
「ビジョン設置は素晴らしい試みです。スポーツ観戦にも多くの情報が必要な時代です。少なくともリプレーを通じて見返せないと、スタンド内の満足度も高まりません。今後はビジョン数を増やしたりできれば、場内全ての人々がより楽しめますね」
~尼崎ボウルらしい派手な選手入場
選手入場時の盛り上げにも力を入れた。川口氏は選手としてのプレー経験があるため、テンションを高めることの重要性がわかる。そしてスタンドからの注目が最も集まる瞬間というのも知っている。
「選手入場はアメフトの華です。試合に向けて会場中全ての人が注目する瞬間です。礼儀作法を重視する日本では、試合前に派手なことを行うのを嫌う傾向もあります。相手へのリスペクトの気持ちを持ちつつ、エンタメとして最も力を入れたい部分です」
「選手入場を派手にすることで観にきた人たちはグラウンド上に引き込まれます。尼崎ボウルに足を運ぶ人は必ずしもアメフトに興味がある人ばかりではありません。そういう人たちに対するインパクト、アピールを大事にしようと思いました」
「アメフトのNFL、カレッジ(大学)、MLB(野球)、NBA(バスケット)…。世界中のエンタメの動画を見まくって、尼崎ボウルでできそうなものを探しました。選手からの評判も良くて嬉しいです」
特殊効果演出を担当したのは、スポーツ、音楽から町のイベントまで様々な演出を手掛けてきたプロ集団の株式会社ギミック。担当した播井克也氏は、細部にまでこだわりを持って尼崎ボウルを盛り上げた。
「昨年は初めてだったので手探り部分もあったが、今年は段取りもスムーズ。川口氏の中で方向性が固まっていて、多くの動画を見せてくれたのでやりやすかった。昨年は入場時に火花を使ったが目立たなかったので、炎と火薬を使った爆発音の演出に特化しました」
「メインスタンド前はチアリーダーとの距離が近いので、コンプレッサーを使用して炎を高く上げることにした。そうすれば風で流れた際でも安全を確保することができます。また見栄えを良くすることもできて一石二鳥です」
「音の大きさに関しては気を配りました。周囲の反響、風向き等によって想定外になることもあります。設営時にはスタッフが手を叩きながら確認して細かい修正を加えた。今回は地面に大きく響かせ低音が効くようなセッティングにしました」
~血の通った温かい関係性を目指す
ビジョンや特殊効果演出のみでなく、尼崎双星高吹奏楽部の演奏はグラウンド上に彩りを加えてくれた。尼崎出身のお笑い芸人の矢野パイセンがマイクで場内を盛り上げ、ハーフタイムには同じくローカル(地元)のレゲエ・アーティストTHUNDERがパフォーマンスを披露した。
「大事にしたいのは『Made in 尼崎』。尼崎には様々な文化があって、その道のスペシャリストが揃っています。そういった方々が一堂に集まることで、とてつもないパワーを発揮できる。チャレンジャーズがプラットフォーム的役割をできれば嬉しいです」
エンタメ化を進めることは各方面へのプレゼンも兼ねている。アメフトはやる人だけのものではなく、観る人も楽しめることを多くの人々に理解してもらう。日本アメフト界の盛り上げにもつながると信じている。
「2020年10月にチャレンジャーズと尼崎市は包括連携協定を締結、実質的本拠地となりました。今後はベイコム陸上競技場の使用頻度を増やしたいとも考えています。常設ビジョンの設置を市の方々に考えていただければ良いなと(笑)」
形だけの包括提携協定ではなく血の通った温かみのある関係になりたい。チャレンジャーズは尼崎と共に歩みを進めたいと思っている。
「尼崎に関連している人に集まって欲しい。例えばサッカー・堂安律やダウンタウンが来てくれるようなイベントになれば最高。第10回の記念大会では、そういう規模になっていれば良いですね」
「『本物のアメフトが体験できる』となれば、多くの人が足を運んでくれるはず。尼崎は大阪から電車ですぐの好立地。活かすも殺すもソフト次第なので、チャレンジャーズが町を代表する娯楽になれば最高です。町おこしに少しでも貢献できれば、チームの存在価値にもなるはず」
尼崎といえば阪神タイガースのお膝元。日本を代表する娯楽に追い付くのは並大抵ではない。しかしエンタメにこだわった、これまでとは異なったアプローチで楽しみを提供していくつもりだ。
「まさに継続は力なり、続けることが大事です」(川口氏)
尼崎ボウルの回数が増え地元の人々に欠かせない存在になった頃、チームは日本一を争う強豪チームに成熟しているはず。尼崎市とチャレンジャーズの未来には光が見え始めている。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ)