野球未経験者、ソフトボール部出身者、元マネージャー…大学で硬式野球を選んだ女子選手たちの挑戦~仙台大女子硬式野球部、いざ全国へ(前編)
今年4月、仙台大(宮城県柴田町)に東北の大学では初となる女子硬式野球部が発足した。1年生10人、2年生4人、4年生1人の計15人(うち2人はトレーナーと戦略スタッフ)が入部。仙台大硬式野球部も使用するグラウンドや室内練習場のほか、柴田町、角田市、白石市と大学近辺の施設で、週1日のオフ日以外は全部員が集まって練習を行っている。
4月末からは東北の高校女子チームを中心とした東北女子硬式野球リーグや女子野球の大会に参加し、公式戦の経験も積んでいる。5月18日からは初の全国大会となる全日本大学女子硬式野球選手権大会に参戦する予定だ。
強豪高校の女子硬式野球部でプレーしていた選手も多数在籍する一方、野球未経験者やソフトボール部出身者もいる。そして経験豊富な選手もそうでない選手もみな、入部して間もない中、「野球が楽しい」と声を揃える。彼女たちはなぜ、大学で硬式野球の道を選んだのか。前編では、多種多様な経歴を持つ3選手を取材した。
野球未経験でも欠かせない存在に
試合中、ベンチから誰よりも目立つ大きな声を出し続ける選手がいる。綱川穂乃歌外野手(4年=矢板)。持ち前の明るさで後輩たちを引っ張る、チーム唯一の4年生だ。
中高は陸上部に所属し、高校時代はハンマー投げの選手として活躍した。大学進学後は体の小ささを不利に感じたこともあり、競技を引退。部活には入らず、「普通の大学生と変わらない」日々を送っていた。そんなある日、女子硬式野球部が新たに発足することを知る。野球は高校野球を時折テレビで観戦する程度で馴染みの薄い競技だったものの、「今までやったことのないことに挑戦してみよう」との思いで入部を決めた。
部が正式に発足する前の今年1月から自主練習を開始し、打撃、守備ともに基礎練習をひたすら繰り返してきた。また大学に入学したばかりの1年生からも野球の技術を教わるなど、学年関係なく後輩たちと積極的にコミュニケーションを図る中で、自分に合った練習方法を探っている。ここまでは主に代打で出場機会を得ており、早くも安打や四球で出塁する活躍を見せている。
そして何より光るのが、仲間を鼓舞する声。「初心者なので競技面ではみんなに教えてもらいながらスキルアップしていきたい。でも学年は一番上なので、礼儀や挨拶、声出しは率先してやって、お手本になれればと思う」と話すように、最上級生の自覚を胸に果たすべき役割を全うしている。「高校までは個人競技で、試合になると一人だった。今はベンチにいてもみんなで頑張れて、励まし合えるので楽しい」。大学最後の1年、硬式野球の魅力を味わい尽くすつもりだ。
初代主将はソフトボール部出身
主将の浦山萌衣内野手(2年=山形北)は、小学3年の頃に軟式野球を始め、中高はソフトボール部に所属していた。大学では入る予定だった女子軟式野球の同好会が休部していたため、新しく創部されることとなった女子硬式野球部に入部。硬式野球をプレーするのは初めてだが、中高で主将を務めていたことなどから仙台大女子硬式野球部の初代主将として白羽の矢が立った。
自主練習期間中は硬式球に慣れるべく、室内練習場で打撃練習をしたり、入澤裕樹監督のノックを受けたりして汗を流した。ソフトボールとは球の硬さや大きさ、バウンドの仕方が異なるため順応に苦戦しながらも、徐々に感覚を掴んできた。綱川同様、1年生がチームに合流してからは後輩たちに自分から質問を投げかけ、技術を盗んでいる。
「自分はエラーもたくさんするし、プレーで引っ張れるタイプの主将ではない。後輩たちがすごく頼もしいので、声出しを頑張って、一人一人に声をかけて良いプレーはたくさん褒めることで、気持ちの面でケアできる主将になりたい」。その思い通り、試合中は守備位置から幾度となくポジティブな言葉を発し、チームの雰囲気を盛り立てている。ソフトボールであろうと、硬式野球であろうと、グラウンドでの主将としての姿勢は変わらない。
諦めなかった“大学で硬式野球”
鈴木和花外野手(1年=惺山)は、小中時代は選手としてソフトボールに打ち込み、高校では男子野球部のマネージャーを務めていた。高校3年の春、新たに創部された女子野球部に助っ人選手として加入。当初はフライを捕ることやバットにボールを当てることさえままならなかったものの、マネージャー業と掛け持ちしながら練習に励み、夏までには基本的な技術を身につけた。
大学でも野球を続けたい気持ちを抱きつつも、「東北には女子硬式野球部のある大学がなかったし、自分のレベルでは大学で続けられるほどの実力はないから無理だろう」と諦めかけていた矢先、高校の男子野球部の監督に仙台大を勧められた。入部したばかりの頃は女子硬式野球の第一線で活躍していた同期と自らを比較し悩むこともあったが、初の公式戦となる母校・惺山戦でコールド勝ちを決める適時打を放つなど、攻守でスタメン起用に応えている。
「(チームメイトは)みんな励ましてくれるし、ダメなところは何がダメだと教えてくれる。それを受けて、できないことができるようになっていくことが今は楽しい」。競技歴が浅く、実力の差を感じようとも、間違いなくチームの一員になれている。硬式野球の道に進んだ選択に後悔はない。
前編では大学から硬式野球を始めた3選手に話を聞いたが、仙台大には他にも様々な経歴を持つ選手たちがいる。初めて臨む全国大会を前に、後編では女子硬式野球強豪校出身者の大学野球にかける思いに迫る。
(取材・文・写真 川浪康太郎)