ヴェルディが覆したスポンサーシップの常識

今回はサッカー・Jリーグに所属する「東京ヴェルディ」が取り組む「スポンサーシップ」について書いてみたいと思います。

東京ヴェルディといえば、Jリーグが設立された1993年から「強豪クラブ」としての地位を確立し(当時「ヴェルディ川崎」)、カズ(三浦知良:現横浜FC)選手や、ラモス瑠偉選手(現ビーチサッカー日本代表監督)など、スター選手を多く輩出したクラブとして有名です。

また、このブログを書いている「ゼロからのスポーツビジネス入門」の管理人の須賀優樹も、大学時代に東京ヴェルディさんにインターンをさせて頂いたご縁があったりするので、東京ヴェルディの取り組みにはずっと注目をしています。

さて、今回は東京ヴェルディが2020年にリリースした「新ユニフォーム」をメインに考えていきたいと思います。

この「新ユニフォーム」はこれまでの「クラブと企業」の間で取り交わされる「スポンサーシップ」の常識を覆したのです。

関連記事:スポーツのスポンサーシップってなに? スポーツと企業の共存

東京ヴェルディは、いったい何をしたのでしょうか?

どんなユニフォームなのか?

では、早速話題の「新ユニフォーム」をご覧いただきましょう。

これが東京ヴェルディの2020年版 新ユニフォームです!

じゃん!!

東京ヴェルディの2020年 新ユニフォーム

※ユニフォームはサポーターの方から写真をご提供頂きました。

どうですか、このユニフォーム!!

めちゃくちゃカッコいいですよね!

疾走感のある緑のコントラストと、ゴールドの首元、袖がとても素敵ですね!

でも、スゴいのは、そこじゃないんです

いいですか、もう一度、上記のユニフォームをよく見てみてください。

他のクラブのユニフォームと、明らかに違う何かがあるんです。

これをちゃんと見つけることができた方は、とっても観察力がある方です。

このユニフォーム、いったい何が違うんでしょうか??

じーっと見ても、よく分からない」という方のために、大ヒントを差し上げましょう。

それがこちら。

ここまでくれば、もうわかりますよね!

そうです、赤い枠で囲った部分をよく見てください。

ヴェルディにスポンサーしている企業の名前やロゴマークが入っているな」というのはわかりますよね。

でも、それだけだったらどこのクラブもやってます。

え、まだよく分からない?

もうここまで来たら答えを言っちゃいますが、「色」です。

ああ、確かに全部同じ色ですね。でも、たまたまスポンサーの企業名やロゴマークが金色だったんじゃないんですか??

ってお考えの方、そんなわけないですよ!!

ヴェルディ以外のサポーターや他のスポーツが好きな方は、ご自分の好きなチームのユニフォームや、日本代表選手が来ているようなジャージなどをよく思い出してください。

きっと、こんな風になっているはずです。

こんな感じのユニフォーム、よく見ますよね??

普通、企業の「ロゴマーク」や「会社名」といったものは、その企業によって色合いが違ったりしてバラバラです。

なので、スポンサーしてもらっている企業の「ロゴマーク」や「会社名」をそのままユニフォームに貼りつけると、上のユニフォームみたいに、色々な色合いでごちゃごちゃした印象になってしまいます。

もちろん、これはこれでアリなわけですし、企業としてはスポーツを通じて自社の宣伝をしたいのですから、自社の「ロゴマーク」や「会社名」をそのままユニフォームに貼ってほしい、というのは当然のことです。

普通、企業にとってロゴのカラーは企業イメージに繋がる大切なものです。

Youtubeは「赤」、Twitterは「水色」、というように企業として「どんな色を使うか」は、人々に知ってもらう上で大きく関係してくるのです。

ところが、ヴェルディの新ユニフォームに貼ってあるスポンサーのロゴマークや会社名の色は、「すべてゴールド」で統一されています。

これは、たまたま全部の会社が「ゴールド」だったわけではなく、元々違う色合いである、各社のマークや文字を、すべて「ゴールド」色に染めたのです。

同クラブに対しては、2012年からスポーツ用品メーカーの「ATHLETA(アスレタ)」がユニフォームを提供していますが、過去のユニフォームと比較してもその違いは一目瞭然でしょう。(ヴェルディの過去のユニフォームはGoogleなどで検索してみてください。)

なぜヴェルディは、せっかくスポンサーになってくれている企業の、大切なイメージにも関わる「ロゴマーク」や「企業名」をゴールド一色に染めてしまったのでしょうか?

そこには深い理由があるのです。

ヴェルディが「ゴールド」に染めた理由

上記までにご紹介した、東京ヴェルディの2020年・新ユニフォームは、1月に発表し、2月に販売が開始されました。

瞬く間に、かっこいいと話題になり、なんと販売開始2日間で前年比160%と飛ぶように売れたとのことです。

なぜ、スポンサーにとって大切なロゴマークや企業名までも、ゴールド一色で染めてしまったのか。

それは、クラブの「パートナー」(ヴェルディでは「スポンサー」ではなく「パートナー」と呼んでいる)に対する考え方が反映されているのです。

スポンサーが、クラブのユニフォームにロゴや企業名を掲出するには数千万円から数億円単位のお金をクラブに払う必要があるとされています。

しかし、クラブ側がそのお金に見合った価値をスポンサーに対して提供できているかどうかは、明確な基準がなく、評価をするのがなかなか難しいものでもあります。

そこで、ヴェルディではこれまでのように「スポンサー企業のロゴマークや会社名をそのままユニフォームに貼りつける」のではなく、ヴェルディのカラーに統一してもらうことによって、ヴェルディの理念に対する共感や、様々な活動での協力関係、ともに戦う仲間などの、新たな価値」を提供することを目指したのです。

これまで、スポンサーがクラブのユニフォームに対して企業名やロゴマークを入れることは、「露出効果を狙う」ということがメインであるとされてきました。

「露出効果」というのは、どれだけ多くの人の目に留まるか、ということです。

Jリーグの試合は全国でテレビ放送やネット配信などをされますので、企業がユニフォームに企業名やロゴマークを入れれば、日本中の人の目に入るチャンスが増えるわけです。

でも、「ユニフォームに企業名を入れることは、企業にとって本当に価値があることなのか?」ということは、これまでのスポーツ界でも議論になってきました。

色々な娯楽やサービスが溢れている現代において、単純にユニフォームにロゴを貼るだけでは、企業として金額に見合った価値があるのか? というのは、多くの企業やスポーツ関係者が疑問に感じていたことでもあります。

ヴェルディは、そうしたスポーツ界の状況を打開し、スポンサー(パートナー)企業に対する新たな価値を開拓したのです。

言葉で書くのは簡単ですが、これは簡単なことではありません。

先ほどもお伝えしたように、企業にとってロゴのカラーは企業イメージに繋がる大切なものです。

それを「ゴールドにしてほしい」とお願いするには、スポンサー(パートナー)に対して、

クラブの理念や理想とする姿に深く共感してもらうこと
◎クラブが提供できる価値を具体的に提示すること
◎一緒に歩んでいく仲間としての信頼関係を築くこと

といった、スポーツ業界だけではなく、一般の企業であっても大変な努力が必要とされることをやり遂げなければ実現できないことです。

ヴェルディでは、ユニフォーム以外のことでも、しっかりとスポンサー(パートナー)に価値を提供するために様々な取り組みを行っているようです。

スポンサー(パートナー)は、「露出を増やしたい」や「課題解決に直結させたい」、など様々な思いでクラブにお金を払います。

ヴェルディでは。そういった企業ごとの目的によって提供するメニューをカスタイマイズしているとのことです。

そして、2019シーズンだけでも新たに25社がパートナー企業に加わったようです。

1年間で25社も新たなスポンサー(パートナー)を獲得するというのは、並大抵のことではないでしょう。

スポンサーを多く獲得できれば、クラブは財政的に安定します。

チケット収入などは、「実際に試合をやってみないと分からない」部分が多く、対戦カードやスタジアムの立地、気候や季節などによっても大きく左右されます。

しかし、スポンサー収入は、チケット収入に比べるとそうした要因に左右されにくく、クラブとしては安定した収益にすることができます。

着々と経営力を高めているヴェルディが、ピッチの内外でさらなる「緑の革命」を起こすことは、そう遠くない時期にやってくるかもしれません。

ロゴやエンブレムを刷新!ヴェルディが取り組むリブランディング

ヴェルディは2020シーズンから、これまでの「ロゴ」と「エンブレム」を新しいものに変え、リブランディングに取り組んでいます。

2020シーズンのユニフォームも新しいロゴ仕様になっています。

先ほども触れましたが、企業にとってロゴは人々に認知される上で非常に重要なものです。

それは当然、クラブにとっても同じで、ロゴやエンブレムはクラブにとってのシンボルになります。

それを新しくするのは、簡単なことではなく、クラブにとっても覚悟が必要だったはずです。

ちなみに、「リブランディング(Rebranding)」という言葉は、マーケティングで使われる用語です。

ブランディング(Branding)」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、ブランディングというのは、企業が持っている商品やサービスを、お客さんに認知してもらう取り組みのことを言います。

例えば、「洋服といえばユニクロだよね」とか、「コーヒーといえばスタバだよね」といった会話をすることがあると思いますが、そういった「○○といえば●●だよね」ということをお客さんに深く認知させる活動をひっくるめて「ブランディング」と呼びます。

「あそこのブランドは質が高いよね」とか「あのブランドは高級感あるよね」といったときに使う「ブランド」という言葉がもとになっています。

ブランディングによるお客さんの認識

リブランディング(Rebranding)」という言葉は、「ブランディング(Branding)」という言葉の先頭に「Re」という単語がついていますよね。

この「Re」というのは、「再びなにかをする」という意味で使われることが多いです。

例えば、ゴミを再利用するような「リサイクル(recycle)」とか、Twitterで誰かがつぶやいたことを、自分がもう一回広めるようなことを「リツイート(Retweet)」などと呼んだりしますよね。

なので、「リブランディング(Rebranding)」という言葉は、「一度作ったブランドのイメージを、もう一度作り直す」という意味になります。

ヴェルディは「リブランディング」を通じて、過去にない新たなクラブを作っていこう、としています。

ヴェルディはリブランディングに合わせて、新たにブランドサイト(ホームページ)を作っています。

同サイトによると、ヴェルディは「世界で輝く人材を輩出することを使命とし、世界一の総合クラブを目指している」と書いてあります。

ここで注目してほしいのは、世界一のサッカークラブではなく、総合クラブという点です。

ヴェルディというと、皆さんはJリーグの東京ヴェルディ、つまりサッカーを思い浮かべる方が多いでしょう。

しかし、同クラブはサッカーに加え、ビーチサッカー、フットサル、バレーボール、野球、トライアスロン、女子ホッケー、eスポーツなど多くのチームを持っています。

同クラブはサッカークラブではなく、総合クラブなのです。

サッカーはあくまで、ヴェルディというグループが目指すもののツールの1つに過ぎないということでしょう。

社名も2017年に「株式会社東京ヴェルディ1969フットボールクラブ」から「東京ヴェルディ株式会社」に変更しています。

同クラブがサッカー以外に多くのクラブを持っていたことを皆さんは知っていたでしょうか?

ちなみに、世界一のサッカークラブと称されるFCバルセロナレアル・マドリードバスケットボールチームも持っています。

ドイツのボルシア・ドルトムントハンドボールのチームも持っているようで、世界ではビッグクラブと呼ばれるクラブがサッカー以外のクラブを持っていることは珍しいものではありません

日本でもヴェルディのライバルのFC東京もバレーボールチームを持っていますね。

なお、ヴェルディではスポーツの競技の活動に留まらず、ヴェルディを教材として学生がビジネスを学ぶ、ヴェルディカレッジという取り組みも行っています。

世界で輝く人材を輩出するために、アスリートの育成だけではなく、ビジネス人材の育成も行っていくようです。

元々、選手の育成に定評のあるヴェルディが、今後「ビジネス人材」をどのように育成していくのかは、非常に注目される取り組みですね。

まと

今回は、「ヴェルディが覆したスポンサーシップの常識」として、東京ヴェルディが2020シーズンにリリースした「新ユニフォーム」を題材に、「スポーツと企業の協力関係をいかに作っていくか」という「スポンサーシップ」について考えていきました。

ヴェルディでは、スポンサー企業のことを「パートナー」と呼んでいますが、クラブがパートナーからお金を受け取ることによって、クラブとしてもこれまでにはない新しい価値を、パートナーに提供していくことが大切になってきています。

ユニフォームのロゴマークや会社名を、ゴールドで統一する」という取り組みから、ヴェルディの非常に強い覚悟が見えてきます。

ヴェルディは、サッカーやスポーツを「ツール」として、クラブの持つ価値を最大化し、様々なことに取り組んでいるといえるでしょう。

スポーツが持っている価値」というものが、従来の常識や考え方から、少しずつですが、変わりつつあります。

今後の東京ヴェルディの取り組みにも注目していきたいですね!

スポーツのブランディング」や、「スポーツの新しい価値」を一緒に考えて頂ける方は、ぜひお友達になってくださいね!

記事提供
ゼロからのスポーツビジネス入門 須賀 優樹

「世界で一番優しくスポーツビジネスを学べる場をつくる!」を目標に、スポーツ業界に入りたい人、活躍したい人をこれまで多数支援。学生時代の専門は「スポーツマーケティング」。現在は大手企業のデジタルマーケティングやビッグデータ分析のコンサルティング、スポーツ団体の新規事業支援などをやっています。

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