ベガルタ仙台 林彰洋 ―選手にとってのクラブハウスとは―
サッカーをはじめとするスポーツのチームは、クラブハウスという施設を持っていることが多い。選手たちにとっては毎日使うお馴染みの施設であるが、外部の人々にとっては、名前は聞いたことはあっても実際にどのようなものなのか、いまいちよくわからない施設であるかもしれない。
今回は、国内外の様々なクラブでプレーした経験をもち、現在はベガルタ仙台のゴールキーパーである林彰洋選手に、クラブハウスとは選手にとってどのような施設であり、どのような役割を持っているのか、話を聞くことができた。
クラブハウスで過ごす時間は長い
林選手が1日をクラブハウスで過ごすときのスケジュールは、どのような感じなのでしょうか。
林彰洋選手(以下、敬称略)「10時からトレーニングが始まるときには、私は朝8時くらいにクラブハウスに到着します。そして、一番最初に体を温めるためにお風呂に入り、そのあとトレーナーと一緒に体の状況をチェックします。その時、体のどこかに硬い部分などがあればトレーナーにほぐしてもらっていると、だいたい8時半から8時45分くらいになっています。
その後、1時間ほど時間をかけてストレッチや体幹トレーニングをすることで、自分の体の状況を把握します。そして、トレーニングのだいたい30分前にテーピングの用意をしてグラウンドに行き、チーム全体でのトレーニングをします。
全体トレーニングが終わった後は、シャワーを浴びて、食事を早い段階でとり、その後ストレッチや筋トレなどをします。場合によっては、トレーナーに体のケアをしてもらうこともあります。私はベガルタの選手の中でも、クラブハウスで過ごしている時間が比較的長い方だと思います。」
仙台でゲームがある日のベガルタの選手の集合場所は、ベガルタのクラブハウスですよね。
林「はい。私はゲーム開始の5時間くらい前にクラブハウスに来て、トレーナーと一緒に時間をかけてストレッチ等をして、体を作っていきます。3時間半前に軽食が出るのでそちらを食べて、そのあと選手によってはミーティングまでリラックスして過ごすことが多いですね。」
お話を伺ったところ、林選手はかなり長い時間をクラブハウスで過ごしているように見受けられますが。
林「私はすでに自分のルーティンというのができあがっているため、そのルーティンを快適に過ごす事ができる場所が、クラブハウスということになるでしょうね。ケガをしたこともありますし、自分の体に対してどれだけ親身になれるかどうかが、長くプレーできるかどうかを決める要因になるのだと、この年になって特に強く感じるようになりました。
結局、自分の体を守れるのは自分だけなので、そのための時間と場所を探した結果、クラブハウスにいる時間が長くなった、という感じですね。」
ないがしろにできない場所
これまで林選手はいろいろなチームでプレーしてきましたが、例えば、国内のチームと海外のチームで、クラブハウスに違いはありますか。もちろん、チームによってさまざまだとは思いますが。
林「特に海外の方が、チームによる違いが大きいように思います。例えば、クラブハウスがものすごく大きくて、これってチームの敷地内なの?と思うこともあります。良い食事ができるようなレストランが併設されているクラブハウスもあります。また、仮眠部屋があったり、宿泊できるような部屋が併設されているクラブハウスも見たことがあります。
ただ、私自身はクラブハウスはチームが集まる場所であると同時に、体のコンディションを作ったり整えたりする場所だと考えています。そうしたコンディション作りという面から言うと、クラブハウスはないがしろにはできない場所です。チームが多くの時間をさく場所ですし、クラブハウスをないがしろにしているチームで、強いチームはないだろうと思いますね。
また、クラブのエンブレムを掲げる場所でもあることを考えると、この場所が神聖な場所であるという認識もあります。」
今まで林選手が所属したチームで、こんなものがクラブハウスにあるのか、と驚いたものは、何かありますか。
林「監督やチームの意向そして選手の意見によって、クラブハウスの設備が変わることはあると思います。これは自分が所属したクラブの話ではありませんが、とあるクラブの重鎮に当たる人が『クラブハウスにはプールが必要だよね』と言ったら、その直後にプールが設置されたそうです。
自分の経験でも、ある選手が風呂のお湯がちょっとぬるいなぁと言ったら翌日にはアツアツのお湯になっていたこともありましたし、選手の一言でクラブハウスで飲むコーヒー豆が高級なものに変わったこともありました。チーム内で本当に影響力のある人はそういうところまで変えるのだな、と思いました(笑)。」
「見てもらえる緊張感」を生み出すクラブハウスに
今、べガルタ仙台では、クラブハウスを新しくする動きがあります。その新しいクラブハウスには、林選手の意見が何らかの影響を与えているかもしれませんね。
林「さすがにそれはないと思います。でも、新しいクラブハウスが選手やスタッフにとって、充実した施設になってほしいですね。特に、練習の公開日の時などにサポーターの皆さんがクラブハウスに来られた時に、気持ちよく見学できて選手を身近に感じてもらえるような場所であってほしいと思っています。
練習を見るというのは、試合の時とはまた別の空気感があるかと思います。ベガルタの選手たちの日頃の練習の風景などをサポーターの方に見ていただいて、よりチーム雰囲気をより身近に感じてもらえたら、私としてはすごくうれしいです。
また、例えば練習中であっても、サポーターがいることで生まれる、見てもらえる緊張感というのが本当にあるんですね。緊張感のない、何のプレッシャーもないときには問題なくできるプレーであっても、実際の試合の場で、たくさんの観客が見ている状況では同じプレーをできなくなる可能性もあります。いわば、サポーターがいる中でできるプレーとできないプレーとが、生まれてしまうんですね。そうしたことを考えると、選手たちが本番に近い『見てもらえる緊張感』を日常の環境で体験できるのは、チームに対してもプラスの影響を与えると思います。」
新設予定のクラブハウスの内部の施設について、林選手からなにか要望を出したようなことはありますか。
林「今年は特に午前と午後に分けての2部練習の日が多かったのですが、、その練習中の中休みの時間に休む場所が十分にないので上手に休めないと、午後からの練習のクオリティーが下がってしまうことがあります。休息をどれだけ上手に取れるか、ということがその後のプレーの質を決めることがあるので、クラブハウス内での滞在の仕方、休息の仕方が重要になります。
今、2部練習の時の休息時には自分の車の中で休んでいる選手もいたりするので、クラブハウスの中で午後の練習に備えて、食事をとったり休憩を取れる十分な場所が必要だなと思っています。」
クラブハウスには人が集まる場としての役割もあるかと思います。
林「確かにその通りです。チームメイトがなんとなく集まって、あの場面ではきっとこういうプレーもできたよね、というサッカーの話をすることは、もちろん大事です。でも同時に、普通に何気なくしている会話を通して、選手たちが互いの性格を理解することができますし、その結果、あの選手の性格からすると、こっちの方にパスを出した方がいいかな、などとプレー中に考えて実行することもできるようになります。
こうした情報って、相手チームはなかなか手に入れることができないものですよね。その意味で、日頃の何気ないコミュニケーションが、試合の場で自分たちの有利に働くことがあるというのは、重要な要素だと思います。」
サポーターやファンが知らないような、クラブハウスでこんなことしてます、というようなものってありますか。
林「クラブハウスって、けして特殊な場所ではないんですね。でも、例えば、練習が終わって夕食をみんなで食べに行くってなったとき、どこのお店に行こうか、というようなことを決めるのは、クラブハウスの中なんです。なにしろ選手はずっとクラブハウスにいますから。
選手の大半は、生まれ育った場所を離れて今ベガルタでプレーしています。そうなると、チームに来た当初は特に、知っている人もほとんどいないし、仙台の街も良く知らなんです。でも、クラブハウスにいれば選手同士が会話する機会も必然的にありますし、まだ知らないことを伝える機会も多くあります。そうした意味で、クラブハウスで過ごす時間は大事になんですね。
チームにはさまざまな選手がいるので、中にはどうしても気が合わないというか、そんなチームメイトもいるかもしれません。でも、サッカーの世界ではチームで結果を出すことが何よりも優先されます。そのため、クラブハウスでのコミュニケーションや会話などを通じて、どんな性格なのかあるいはどんなプレーするのかということを知っておくことは、やはりプラスの結果をもたらす可能性が高いと言えます。」
クラブハウスの施設の中で、林選手が一番好きな施設は何ですか。
林「私自身、プロの選手として生きるための一番の敵は、やはりケガだと思っています。例えば、自分がケガをした時に一番親身に話を聞いてくれるのは、トレーナーなんです。だから、トレーナールームは、ある意味で、自分にとっての憩いの場ということになるのかな、と思います。
同時に、プロである以上、自分の体は自分で管理することも必要なので、そのための施設であるトレーニングルームというのも、やはり大事になります。
クラブハウスにおいて、トレーナールームとトレーニングルームが、自分が一番好きな場所ですね。」
練習前後の会話だけでは、お互いのことをよく知ることは難しいと語る林選手は、クラブハウスを「信頼感を構築する場所」とも表現していた。
また、サポーターが練習見学に訪れた折には、彼らの視線を選手たちが意識することにより、練習の段階からよりゲームに近い雰囲気で日々のトレーニングができるようになってほしいと、林選手が考えていることがよくわかるインタビューとなった。
信頼感をさらに構築し、もう一段高いレベルへ向かうために、ベガルタ仙台の戦いは始まっている。
(文・對馬由佳理)(写真提供・インタビュー ベガルタ仙台)
注釈 この記事は、ベガルタ仙台オフィシャルウェブマガジン SOCIO MAGAZINEによるインタビュー記事を再編集したものです。