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西武2位指名、佐藤隼輔は「あえて球種を絞ってきた」即戦力左腕でありながらさらなるのびしろがある投手

 大学球界トップレベルの左腕、頭脳明晰、それでいてイケメン。 

 10月11日に行われたドラフト会議で、埼玉西武ライオンズから2位指名を受けた筑波大の佐藤隼輔投手(4年・仙台)は、プロ入り後、間違いなく人気者になれるスペックの持ち主だ。 

 今の時点でも十分に即戦力と言われる実力だが、筑波大・川村卓監督は「本当は器用なやつなんですけど、これから先のことを考えてやっているので、今の段階ではあえてやらないようにしていることもあります」と、まだ隠している能力があることを明かす。 

 佐藤の、その秘めたる可能性を探る。 

デビューから44回2/3連続無失点 

 1年秋の首都大学野球リーグ戦、初めて観た佐藤は「キレイ」だった。 

 180cmの長身。背筋を伸ばしてスッと立つ。長い腕をしならせ、クセのないフォームで球を投げ込む。緊張や焦りを見せることも、闘志を露にすることもなく、座右の銘である「泰然自若」の通り、涼しげな表情で打者を打ち取っていく姿はキレイだった。  

 高校時代からプロ注目の投手だった佐藤は、筑波大への進学を選んだ。4年後はドラフト1位でプロの世界へ。そのためには、4年間大切に育てていかなければならない。川村監督は、佐藤が1年生のうちは70~80球で交代させる方針をとっていた。 

 デビューから好投を続けた佐藤は、1年秋のリーグ戦で3勝0敗、防御率0.00という成績を残し、横浜市長杯争奪関東地区大学野球選手権(以下、関東大会)の準決勝では6回2/3を投げ、2安打無四球無失点でチームを神宮大会出場へと導いた。 

 2年生になってからも、佐藤は無失点投球を続けていた。最多連続無失点のリーグ記録は、東海大・菅野智之投手(巨人)と桜美林大・佐々木千隼投手(ロッテ)の53回。それには及ばなかったが、最終的には44回2/3連続無失点を記録した。 大学日本代表にも選ばれた佐藤の快進撃は止まらず、日米大学野球では全5試合にリリーフ登板をし自責点0。日本の優勝に貢献した。 

 刺すようなストレートは当時最速151キロで、リリーフ時は150キロを連発していた。変化球は、佐藤の生命線とも言えるキレ味鋭いスライダーにチェンジアップ。先発時は球速帯を下げてコントロール重視の投球をし、ランナーを背負うとギアチェンジをする。試合の流れに緩急をつけながら完投、完封するスタミナもあった。誰の目から見ても、卒業後はプロに進むのが明らかだった。 

 そんな佐藤も4年生になり、ドラフト会議に向けて周りも騒がしくなってきた。注目度も増す中、春季リーグ戦が開幕。武蔵大のエースと投げ合った開幕戦は完封勝利と、いいスタートを切った。 

 ところがその後は、粘りの投球をするも勝てない試合が続くこととなる。佐藤が投げる日は相手チームもエースが投げるため、厳しい試合となることは織り込み済みではあるが、それにしてもなかなか点が取れず苦しかった。両チーム得点のないまま終盤を迎え、最後は惜しくも負けるような試合展開が続いた。 

これでもまだ成長の途中、のびしろは果てしない 

 佐藤がドラフト候補として及第点の投球をしていることは間違いなかったが、佐藤はこんなものじゃない、さらにもう一段階上の投球ができるはず、と感じる部分もあった。それを期待するのはよくばり過ぎなのだろうか。 

 川村監督は、佐藤の現時点についてこんな話をしてくれた。 

「たとえば2年生の日米野球のときはリリーフだったので、思い切っていけばいいと本人も開き直っていけていましたし、それで良かったんですよね。だけどやっぱり、本人の総合的な能力を考えると、先発でやるべきだと思っています。その中で、ゲームを作る能力がまだまだ足りないなと思うときがあります。3年生、4年生でリーグ戦だけでなく、日本代表などでいろいろな修羅場をくぐることができれば良かったと思うんですけど、コロナの関係でできなかったのが彼にとってはマイナスだったと感じています」 

 昨年、今年と全国的に中止となった大会が多かったため、思うように経験を積めなかった選手はたくさんいただろう。筑波大は、そんな中でも開催された昨年秋の関東大会、今年の春の全日本大学野球選手権に出場できる成績を残せなかったため、佐藤が今よりさらに上のレベルで経験を積むとすれば、個人で選出される大学日本代表しかなかった。 

「ちょうど僕もコーチで招かれていたのですが、佐藤中心で日本の投手陣を回していくという話があったんです。その日本代表の招集がなくなって、うちの大学のレベルの中だけでやる状況が続いている。本当は、もう少し飛躍できたんじゃないかなというのはあります。でも、それは言っても仕方がない。今の状況の中で、他のピッチャーみたいに完成したものを目指すんじゃなくて、プロに行ってからも伸びるような形で送り出したいと考えてやってきました」 

 調子が悪いときも悪いなりに試合を作る能力、スタミナ、コントロール、ストレートの伸び、変化球のキレ、佐藤はどれをとっても、今の時点で完成度が高い投手のように思える。そう言いながらも「佐藤はこんなものじゃない、もう一段階上の投球ができるはず」と感じていたのは、川村監督と佐藤は大学の4年間で、のびしろを残してまずは確実に8合目に到達することを目的としてきたのに対し、観る側は頂上に立つ佐藤を想像していたからかもしれない。 

 佐藤が投げる変化球は、スライダーとチェンジアップのみ。あえて球種を絞っている。のびしろを残している部分のひとつだ。川村監督は、佐藤のことを「実はすごく器用な選手なんですよ」と言う。「みなさんは佐藤に球種を増やすことを求めるんですけど、僕は今の時点ではやめた方がいいと思ってやってきました。本当は、チェンジアップも何種類か投げられるんですよ。今はちょっと速めのを投げていますけど、もうちょっと抜けるやつも持っています。あとフォークも持っている」。 

 そういえば、佐藤が器用だと感じる瞬間があった。春のリーグ戦で、6回5失点という佐藤らしくない投球をした日から1週間後のことだ。佐藤にとって、このシーズン最後の先発となる試合で2失点完投、12奪三振という結果を残した。この1週間で「スライダーの軌道を修正した」とのことだった。「スライダーがカーブの軌道になっていたんですけど、指の弾き方を変えて自分の理想とするストレートの軌道から曲がるスライダーに修正できました。カーブの軌道のスライダーをカウント球、ストレートから曲がる軌道のスライダーを決め球にして、うまく投げ切れたんじゃないかと思います」。 

 佐藤は、修正する前と後の球を試合で使い分けていた。川村監督の言う通り、やろうと思えばできることはたくさんあるということだ。それをあえてやらずに、ドラフト上位でプロ入りできるほどの投手になった。 

 最後の秋、そしてプロへ

 佐藤にとって最後のシーズンが始まった。 

 春のリーグ戦が終わってから、何度も映像を見てフォームを見直してきた。開幕2日前、キャッチボールをしていたときに「これだ」と思うフォームに出会った。開幕前日のピッチングで試してみると、しっくりきた。 

 開幕戦、東海大を相手に初回、単打を1本打たれたものの3奪三振の立ち上がり。春に比べて明らかにストレートの威力も増していた。この日、自己最速を更新する152キロも計測した。「リリース前に3塁側に傾いていた軸をまっすぐにする」というフォームの修正が生きていた。この夏課題にしていた「ストレートの軌道から小さく曲げるスライダー」の感触もいい。これぞ佐藤という投球が続く。 

 4回表、佐藤の球が打者のバットを折ったあとのことだった。突然、マウンドに呼ばれた川村監督と共に、佐藤がベンチに下がった。その後、佐藤が出てくることはなかった。右内腹斜筋の肉離れだった。

 筑波大は、茨城県にある国立大学だ。茨城県や大学の新型コロナウイルス対策により、部活動自体が禁止、大学職員が立ち合わないと練習禁止、対外試合は一切禁止、など満足に練習ができない期間を経てこの秋の開幕を迎えた。 

 春、日体大も開幕前に新型コロナウイルスのクラスターが発生して練習ができず、リーグ戦中に肉離れを起こした選手が何人もいた。十分な練習ができないまま公式戦を迎えると、それだけ選手たちの体に負担がかかるということだ。 

 ましてや、佐藤は投球フォームを修正したばかりだった。「軸をまっすぐに正すことによって、たぶんずっと使えていなかった腹斜筋の部分が使えたというのもあると思います。いきなり使いだして、かつ強度も高かったと思うので、それがひとつ怪我の原因ではないかと思っています」。 いつものようにしっかりと準備ができていたら、体はその変化にも耐え得ることができただろう。むしろ、その新フォームで4年間の集大成の投球を見せてくれたに違いない。

 もともと故障がちの選手でもなければ、今回の故障が選手生命に関わることもない。とはいえ、投げられていない中で迎えたドラフト会議だった。目指していた1位ではなかったが、それでも高い評価は変わらず、西武が2位で佐藤を指名した。

 川村監督は、プロ野球のスカウトたちにずっと「先のことを考えてやっているので、佐藤が即戦力になるかどうかはわかりません」と言ってきたという。一方で「総合力がすごく高いと思っています。この球種だけいいとか、球が速いだけ、とかではない。ピッチャーに必要なコントロール、球速、変化球なんかも揃っていると思います。完成形ではありませんし課題はまだあるけれども、プロでローテーションに入ってしっかり投げていけるピッチャーになったと思います」と、佐藤を評価する。

 やろうと思えばできることに制限をかけながら野球をやってきた佐藤は、たとえるなら手足に重りをつけて歩いてきたようなものだろう。その重りをはずしたとき、どれだけの投手になる可能性を秘めているのだろうか。1年後、3年後、5年後の佐藤隼輔に大いに期待して欲しい。

首都大学野球連盟 (tmubl.jp)

 

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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