リーグ戦とスポーツマンシップでチームをさらに前向きに、たくましく。千葉商大付、吉原拓監督の挑戦
今回の『LIGAベースボールフェスタ in 千葉 真夏のグッドゲーム』を企画したのは、千葉商科大付属高校、吉原拓監督だ。
千葉商大付は、かつて春の甲子園に一度出場した経験があるが、今夏の千葉県大会では優勝候補の木更津総合を8-4で下し、ベスト4まで進出した。
強豪校、千葉商大付、吉原拓監督は、今季からLiga Agresivaに参加を決意するとともに、このユニークなイベントを企画した。吉原監督に聞いた。
スポーツマンシップ講座で選手が成長した
「うちは練習試合とか結構やっていますが、やはりリーグ戦は失敗できるのがメリットですね。それとうちは選手数が多いので、彼らに試合出場経験を積ませることができるのが大きいです。
私は4年前に監督に就任しました。Liga Agresivaはその時から知っていたんですが、就任していきなりいろいろなことはできないので、去年の冬くらいからチーム状態も把握できたと思ったので、今年から参加することにしました。
Liga Agresivaは、スポーツマンシップについて座学で学ぶことが前提になっています。講師の日本スポーツマンシップ協会代表理事の中村聡宏先生(立教大准教授)は、昨年まで千葉商大の準教授でした。だから以前からスポーツマンシップには関心がありました。
それと監督として選手を見ているうちに、うちのチームの選手は心が成長していないんじゃないか、私の言うことを、はいはい聞いているだけで何もできないじゃないかと思うようになったんです。
選手を自立させるためにも、スポーツマンシップを学ぶ必要があると。そこで去年、高大連携で、大学の講義室にうちの生徒を呼んで中村先生の講義を受けさせました。その延長線上で、今年はぜひ、Ligaに参加しようと思ったわけです。また、選手たちにスポーツマンシップを実感してもらえるイベントをやろうと思ったんです」
社会人経験を経て指導者に
吉原監督は、社会人、サラリーマンの経験を経て再び高校野球の現場に戻ってきた。そういうキャリアもあって「ただ野球を教えるだけ」の指導者ではダメだと言う認識を持つようになった。
「高校は流通経済大柏、大学は流通経済大です。その後、一般で就職して大阪で働いていました。29歳で千葉に戻ってきて別の企業で仕事をして、34歳で大学の通信制を受講して36歳で教員免許を取りました。そして非常勤講師を2年勤めた後に、千葉商大付に着任。部長を経て監督になりました。
学生時代は、ただ好きで野球をずっとやってきましたが、好きで野球をするのと、スポーツマンとしてプレーをするのとでは、大きな違いがある。やはりスポーツの本質を理解する、スポーツマンシップを理解しなければ、アスリート、スポーツマンにはなれないんじゃないかと思うようになったのです」
大学を出てからずっと教員と言う指導者とは異なり、吉原監督は様々な社会経験を積んでいる。その経験が、教師としても、指導者としても一味違う教育、指導に結び付いているのではないか。
「課題練習」の大切さ
とりわけ吉原監督は、高校野球の従来の練習法に強い疑問を抱いていた。監督就任後は、まず練習内容の改革に乗り出した。
「それまでうちのチームは指導者に練習を“やらされている”印象でした。だから時間が来れば、さっさと終わって遊びに行こうと言う感覚でした。
私は選手たちに “自分で足を運んでこのグラウンドに来るわけだから、自分の意志でやろう”と言いました。反対に言えば、今日は調子が乗らないとか、体調が悪ければ、休んでもいい。なんなら学校も無理していく場所ではない、学校に収容されているわけじゃなくて、自分で自転車に乗って学校に来ているんだから、と言ったんです。
そういう考えの上に、スポーツマンシップの理念である“なぜスポーツやってるの?”ということがある。スポーツをやることで、どういうものが得られるのか、何を目指すのか。そういう目的意識が芽生えてくる。
うちは、まずチーム全体で練習をします。アップからバッティングとか、そういうチームでやる練習の後に、『課題練習』をします。個々の選手が、それぞれの課題に取り組む練習ですね。
私は課題練習は『バイキング』だと言っています。ホテルのバイキングで料理を選ぶのと同様に、自分の課題に従って練習メニューを選ぶんです。
バイキングでも好きだからと言って肉ばかり取る人がいますが、例えば1か月のホテル暮らしでバイキングの食事をとるとなれば、今日は肉やめて野菜にしようとか、魚にしようとか、バランスを考え始めるじゃないですか。
課題練習も最初は、バッティングとか好きなことだけやりだしますが、1か月、2か月たって、試合を並行してやっていくと、やりたくなくても自分がダメなことをやらないと上達しないことがわかって来る。
『お前、走塁悪いからベースランニングやっとけ』というのでは、やらされているだけですが、自分で課題練習の中身を考えるようになった時に、選手は成長するんですね。自分の長所を伸ばすとともに、欠点、短所を自分自身で克服していこうと言うことですね」
こうした課題練習を続けている中で、昨年、中村聡宏先生のスポーツマンシップ講座を受講した。
「中村先生の講座を受講して、課題練習の内容のレベルが上がったと思います。つまり同じ練習をするのでも、自分で選択して、目的意識を持ってやるのと、やらされるのとは全然違うんですね。それをスポーツマンシップを学ぶ中で理解したのだと思います。野球をやること、スポーツやるってことはどういうことかがわかってきたと思います」
「百花一想」とスポーツマンシップ
千葉商大付のスローガンは「百花一想(ひゃっかいっそう)」という。
「『百花繚乱』という言葉がありますが、いろいろな花が咲くように、いろんな才能、個性があっていい、それを伸ばしていく。そしてチームとしては『一つの想い』で頑張ろうと言うことです。うちのこのスローガンと、スポーツマンシップが凄く相性がいいんですね。
それから、相手をリスペクトすること。中村先生が『勇気・尊重・覚悟』と言われましたが、相手がいるから試合ができる。審判がいて、ルールがあるから試合ができる。そのことを念頭に置かないと。
よく阪神対巨人戦などの放送で『敵地甲子園に乗り込む』って言いますけど、対戦相手は本当は敵じゃない。今日の試合の相手は敵じゃないよ、ウクライナとロシアじゃないんだから、僕らは戦争しに行くわけじゃない。
この夏の大会もベスト4まで行きましたけど、1回戦からどちらかが負けるのだから、負けることも準備しよう。グッドルーザー、いい敗者になろうよ、と選手たちに言いました。今回のベスト4は、スポーツマンシップを学んだうえで活躍できた大会だったことに意義があったと思っています」
リーグ戦で様々な収穫を「期待」
今季から参加するLiga Agresiva千葉には、どんな期待を持っているのだろうか?
「うちの部員は新チームになって今、38人います。普段試合に出ていない選手も含めて、やはり成功体験を積ませていきたいですね。ストライクを初球から振っていくとか、積極性も身につけさせたいし、そうした成功体験は、公式戦など、今後の試合にも生きてくると思います。
強くなること、甲子園を目指すことと選手の成長をともに目指したいと思います」
今夏の甲子園には、優勝した慶應高校、ベスト8のおかやま山陽、さらに立命館宇治、東京学館新潟と各地のLiga Agresivaに参加する高校が4校も出場した。
千葉商大付も、これに続こうとしているのだ。