野球・ポニーリーグ「開会式の“ショーアップ・エンタメ化”は、一生の思い出作りのため」

野球・ポニーリーグ(以下ポニー)が大事にするのは、「子供達(=選手達)が常に主役であること」。従来の慣習に捉われず、グラウンド内外で「良い」と思えるものを積極的に取り入れる理由だ。
全国選手権大会開会式の“ショーアップ・エンタメ化”もその1つ。子供達(=選手達)にとって、“一生忘れることのない大事な思い出”の場所を目指している。

~日本一を競う熱戦前のイントロダクション(日本ポニーベースボール協会・専務理事/事務総長・那須勇元氏)
7月18日、東京・江戸川区球場で開催された『マルハングループインビテーション・大倉カップ・第51回全日本選手権大会』開会式。“ショーアップ・エンタメ化”された華やかな空間は、野球大会の開会式光景に思えなかった。
「ポニーはジュニア年代で唯一、世界大会が行われるリーグです。野球を通じ世界中、多くの選手達と対戦・交流ができます。“多様性”を体現しているリーグであり、開会式から閉会式まで全てがそうありたいと考えています」
開会式から閉会式までの大会を取り仕切ったのは、日本ポニーベースボール協会・専務理事/事務総長の那須勇元氏。普段は市原ポニー(千葉)監督を務めるが、大会中はディレクターとして奔走した。
「市原ポニーの結果は気になります。でもそれ以上に大会を円滑に進め、怪我・故障者なく最後まで走り切ることが大事。何より選手・関係者が楽しめて思い出になる大会になって欲しい。派手な開会式で大変な部分もありましたが、本当に楽しかったです」

開会式では都市型低空100機のドローンによる花火が咲き誇り、『PONY』の文字が映し出される。プロ野球・巨人のマスコットガール“ヴィーナス”もダンスで彩りを加えてくれた。そしてミュージシャン・HARTY氏が熱唱する楽曲に合わせ、子供達(=選手達)も笑顔で飛び跳ねていた。
「以前から『花火を上げて欲しい』という声は多かった。しかし住宅地に近いという球場立地上、花火は難しいという問題がありました。ドローンを活用することで、花火に引けを取らないほどの演出ができ、皆さんから感嘆の声が漏れていたのが印象的でした」
「プロ野球でしか見られない、“ヴィーナス”の一糸乱れるダンスは素晴らしかった。そして甲子園出場経験のあるHARTYの楽曲は、アスリートの胸に刺さるのでいつも盛り上がります。日本一を争う熱戦が始まる前の素晴らしいイントロダクションになったと思います」

~ポニーでプレーする今を楽しんで欲しい(株式会社マルハン/北日本カンパニー執行役員・本間正浩氏)
開会式から遡ること1時間以上前に会場入りし、開会式の準備が進む風景を優しい眼差しで見ていた紳士がいた。同大会冠スポンサーである株式会社マルハン/北日本カンパニー執行役員の本間正浩氏だった。
「弊社社長・韓俊(はん・しゅん)が元ポニーリーガーです。思い入れも強く、可能な形で支援させていただいております。『選手に試合出場機会を多く提供する』など、リーグ理念も素晴らしいと思います」
「選手達がグラウンド内外で健全に成長するため、革新的な取り組みを行うポニーには心から期待をしています」と続ける。
「開会式も年々、華やかで楽しいものになっています。選手達の表情も明るく、無限のパワーを感じます。ポニーでプレーする今を、存分に楽しんで欲しい」
本間氏は2024年に発足した、マルハン北日本野球部GMも務める。「ポニーリーガーの中から、うちに入団してくれる選手が出て欲しい(笑)」とも付け加えてくれた。

~オープニングは明るく楽しくで、思い出にして欲しい(日本ポニーベースボール協会・理事長・広澤克実氏)
同じく早い時間から球場に現れて選手達を見守っていたのが、日本ポニーベースボール協会・理事長・広澤克実氏。ヤクルト、巨人、阪神でプレーした元名選手の目に、開会式はどう映ったのだろうか。
「僕らは昭和時代なので、開会式は長くて退屈なものだった。ずっと立っていないといけないので、『早く終わって欲しい』と思っていた。令和になったし、『オープニングは明るく楽しく』で良い」
明治大では“硬派”な野球も経験。礼儀や上下関係を知り尽くす広澤氏だが、「ポニーの取り組みは、素晴らしいの一言」と語る。
「伝統ある開会式も素晴らしいが、新しいものを取り入れるのを恐れないことも大事。開会式は心から楽しみ、試合では怪我・故障をせずに全力でプレーする。大谷翔平(ドジャース)だって笑顔を見せつつ、凄いプレーをしている訳だから」
「みんなが楽しめれば一生の思い出になる。僕らの甲子園大会の開会式の写真なんて、真顔で入場行進しているものしかない。ポニー選手達の開会式写真は、みんなが笑顔だと思う」

~風と高さに細心の注意が必要(ドローンレーサー・上関風雅氏)
開会式を作り上げるため、各界での一流がスタッフやパフォーマーとして参加した。
ドローンでの映像撮影を任されたのは、選手達と年代が近い17歳の上関風雅(かみぜきふうが)氏。2022年の『The World Games』(米国アラバマ州)、ドローンレース日本代表として世界第6位の成績を残した選手だ。
「年代が近いポニーリーガー達の撮影を任されて、光栄に感じました。競技は違いますが、トップを目指して戦う選手達からは刺激を受けます。身体が大きい選手も多いし、相当、練習しているのだなと思いました」
世界を舞台に戦うドローンレーサーの元には、さまざまな撮影・出演依頼が届く。「野球場での撮影は初めてです」と今回の撮影についても語ってくれた。
「球場はフェンスや照明はありますが、広い空間なので飛びやすいとは思います。その反面、風の影響を受けやすいのでコントロールには細心の注意が必要です。選手達の邪魔にならないよう、高さにも注意深く対応しつつ、僕らしい表現ができれば良いなと思っています」

~音楽の力を味方にして欲しい(ミュージシャン・HARTY氏)
開会式後半では、ポニーリーグ公式テーマソング『夢中になり描こう夢』を手掛けたミュージシャン・HARTY氏が登場。選手達の思いを知り尽くしている元高校球児のパフォーマンスで、会場はクライマックスを迎えた。
「選手達が大会に賭けている情熱、純粋な気持ちが伝わってきた。また、『子供達(=選手達)に最高の時間を過ごしてもらいたい』という大人達の思いもそう。球場にいる人みんなに笑顔が見られるのが良いですね」
「音楽には力があるので、味方にして欲しい」とHARTY氏は口にする。「ジュニア世代から音楽の中でプレーすることで、より高いパフォーマンスを発揮できるようになるはず」と力説する。
「野球をできる時間は“かけがえのない”もの。その瞬間を“頑張る”のではなく、“夢中”になってもらいたい。緊張感があっても音楽の力でリラックスできる。最高のパフォーマンスができれば、結果も自然に付いてくると思う」

~ポニーが目指すべきは、世界標準に耐えられる団体
「開会式は今後も変化・進化していくはずです」と那須氏は語る。
「『入場行進の時間が長過ぎる』という意見も聞きます。しかし、入場行進は出場選手・関係者全員が誇りを持てる“ハレの舞台”。だからこそ、全選手に場内一周してもらいたい思いがある。時間が長くなってしまうのはある意味、仕方がないとも感じます」
開会式の中に、“ショーアップ・エンタメ化”部分と“伝統重視”の部分が共存しているのが興味深い。
「練習をして一糸乱れぬ行進をするチーム。フランクに歩くチーム。さまざまなチームがあるのが、多様性を重視するポニーらしさだと感じます。その中で、効率化できる部分も探っていきます」
「ポニーが目指しているのは、世界標準です。世界情勢は刻一刻と変化しており、野球を含めたスポーツ界も同様です。そういった変化に柔軟に対応して、常に世界標準に耐えられる団体でいるのが重要。開会式もそのうちの1つです」

「目指すは世界標準」と掲げるだけでなく、組織として着実に実行へ移す。
ポニーの強みは長期的ビジョンを立て、そこへ向かうために足元を固める能力が長けている部分のようだ。他団体からポニーへ転籍するチームが毎年のように現れる理由も、その辺にあるのかもしれない。
“主役”である子供達(=選手達)のため、この先、何をやってくれるのか楽しみでしかない。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・日本ポニーベースボール協会)