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若手選手にとってオフシーズンの「飛躍の機会」に。アジアウィンターリーグ

広尾晃のBaseball Diversity

アジアウィンターリーグ(AWB)は、台湾プロ野球(CPBL=中華職業棒球大聯盟)が主催して行われるウィンターリーグだ。

アジアウィンターリーグの特色

ウィンターリーグとは、オフシーズンに、選手が経験値を積んだり、鍛錬するために、温暖な地で行われる野球のリーグ戦のことだ。

日本の沖縄で行われているジャパンウィンターリーグも含めて、多くのウィンターリーグは「個人参加」であり、主催者は集まってきた選手をチームに振り分けてリーグ戦を行うが、AWBは、各国のリーグや連盟が、事前にチームを編成して参加する形になっている。

個人参加のウィンターリーグの場合は、選手の中には新たな移籍先を求めてリーグ戦に参加することもあり「トライアウトリーグ」という一面があるが、AWBは、リーグ、連盟単位の参加なので、トライアウト的な側面はない。

雲林県立斗六野球場

台湾プロ野球(CPBL)が試合運営費用を負担

AWBは2012年に始まった。

かつてはドミニカ共和国選抜、韓国プロ野球(KBO)選抜、アメリカや欧州選抜、さらには味全ドラゴンズ、台鋼ホークスと、CPBLの単独チームが参加した時期もあった。

2020年から22年までは「新型コロナ禍」によって、中断されたが、2023年から再開された。

チームの参加費用、宿泊費などは各チームが負担しているが、試合の運営費用はすべてCPBLが負担している。

CPBLの試合は入場無料であり、物販収入もほとんどないことから、CPBLにとっては完全に「持ち出し」となるが、台湾野球界にとって野球の先進国である日本からプロ、アマの選手がやってきて、CPBLの選手と試合をするのは、非常に有意義であり、先行投資の意味合いもあって運営を続けている。

一級のスタジアムを使用

使用する球場は毎年異なっているが、2024年でいえば「台中インターコンチネンタル野球場」「雲林県立斗六野球場」といずれも1.5万人以上の収容人員がある台湾では一級のスタジアムだ。

特に「台中インターコンチネンタル野球場」は、WBCやプレミア12などの舞台となり、数々の名勝負が繰り広げられた、台湾を代表する野球場だ。

過去には「台南市立野球場」「桃園国際野球場」などが使用された。いずれもCPBLのペナントレースや国際大会が行われる一級のスタジアムだ。

入場無料のリーグ戦ながら、試合の模様はテレビ中継されている。

また、台湾の新聞では、試合の模様が連日報道され、日本選手の活躍も記事になっている。

斗六野球場のグラウンド

若手有望選手の「登竜門」だった

新型コロナ禍前までは、AWBは、NPBの若手選手にとって「登竜門」的な存在だった。

2016年のAWBでは、ウエスタン・リーグ選抜のオリックス、吉田正尚が18試合54打数30安打6本塁打29打点、打率.556で最優秀打者に選ばれた。現地の新聞では「小さな大打者現る」と大々的に取り上げられた。

2017年はイースタン・リーグ選抜のDeNA佐野恵太が、19試合64打数25安打5本塁打18打点、打率.391を記録し、MVPとなった。

2018年にはイースタン・リーグ選抜のヤクルト、村上宗隆が19試合58打数13安打、打率.224ながら最多タイの4本塁打トップの15打点を記録。同じくイースタン選抜のロッテ、安田尚憲は、19試合58打数18安打1本塁打13打点、打率.305を記録。高卒1年目19歳の2人の活躍は、現地新聞で大々的に取り上げられた。

またJABA(日本野球連盟、社会人野球)選抜選手からは、毎年、翌年のドラフトで指名される選手が出ている。

2019年のAWBでは、JABA選抜のトヨタ自動車、栗林良吏が、6試合14.1回を投げ、4セーブ、防御率0.63を記録。栗林は翌年、ドラフト1位で広島に入団している。

現地メディアのAWBへの注目度は高い。特に日本人の若手有望株に対してはメディアは大きく取り上げている。この大会で活躍した選手がNPBのスター選手に駆け上がることが多いことを知っているからだ。

2016年、台中インターコンチネンタル野球場

選手の派遣方針を一部変更

2024年は「NPB紅組(ソフトバンク、中日、阪神、DeNA)」「NPB白組(巨人、オリックス、ヤクルト、西武)」、「CPBL山組」「CPBL海組」、そして「JABA選抜」の5チームが参加した。

昨年以降、NPBは、派遣する選手の派遣方針を一部変更したようだ。

コロナ禍前までは、高卒、大卒でドラフト上位指名で入団した、トッププロスペクト(超有望株)を派遣してきたが、2023年以降は育成選手や、ドラフト下位の選手を中心に派遣している印象がある。

近年のNPBは、オーストラリアやメキシコ、カリブ海沿岸地域などで行われるウィンターリーグに選手を派遣するようになった。2024年からは西武、楽天、DeNAが沖縄のジャパンウィンターリーグにも選手を派遣した。台湾、AWBに集中して有望選手を派遣する必要性はやや薄れたと言うところだろうか?

あるNPB球団のコーチは

「台湾へは、シーズン中あまり試合出場の機会がなかった育成選手や、故障明けで出場試合数が足りなかった選手を派遣している。試合結果よりも経験を積ませることが中心になっている」

と語る。

一方でJABAは、ドラフト候補になる有力選手を以前と変わらず派遣している。このためもあってか、2024年はJABA選抜が優勝している。

台湾プロ野球の選手にとっても絶好の機会に

CPBL山組と海組の対戦

台湾、CPBLも毎年若手選手を中心にチームを組んでいる。

CPBLの選手は、試合を見る限り、投球、打撃、守備でNPBやJABAの選手に見劣りすると感じられることも多いが、彼らにとってはレベルの高い野球に触れる絶好の機会になっている。

2023年は、翌2024年からペナントレースに参加する台鋼ホークスが優勝した。このチームは若手ではなく、主力選手も派遣して、実戦経験を積んでいた。台鋼ホークスには、2023年まで西武にいた呉念庭や日本ハムにいた王柏融が入団している。

2023年AWBの台鋼ホークス

また中信ブラザーズの監督は、元阪神、オリックスの平野恵一、楽天モンキーズは元近鉄の古久保健二が務めている。

2024年のプレミア12では、台湾(チャイニーズタイペイ)代表チームが、日本代表を決勝で破って、初の世界一に輝いたが、これもあって台湾では野球ブームが起こっている。

AWBの会場にも熱心なファンが詰めかけて、声援を送っていた。

MLB志向の台湾プロ野球

球場に設置された「ピッチクロック」のカウンター

CPBLは、NPB、日本野球から多くのものを学んではいるが、野球そのものの方向性は、MLBに向いているようだ。

CPBLではすでに昨年から「投手は走者がいない場面で20秒、走者がいる場面では25秒で投球動作に入らなければいけない。また、打者は制限時間の8秒前までに打席に入らなければいけない」という「ピッチクロック」を導入している。AWBでもこのルールを適用している。またMLB同様、投手はマウンドを降りるときに、球審に両掌を見せて、付着物などが付いていないかどうかを確認させることになっている。さらに牽制球の制限などもMLBに準じたルールを導入している。

NPBの選手にとっては、シーズン中は経験できない「ピッチクロック」などを経験する絶好の機会になっている。

また全試合でビデオ判定も導入されている。さらに、球場には弾道測定器「トラックマン」も設置されていた

斗六球場に設置されたトラックマン

ウィンターリーグは公式戦ではないが、CPBLの試合運営は、本格的で、レベルが高い。審判は基本的に4人体制で、ジャッジは適格だ。また、場内アナウンスなどもペナントレースと同じだ。

単なる練習試合ではなく、クオリティの高い試合を経験することで、選手はレベルアップすると言われている。AWBは、いろんな意味で有意義なウィンターリーグになっていると思う。

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