アサヒ飲料クラブチャレンジャーズは、『メイド・イン・尼崎のアメフト』で温かみある地域密着を目指す
アメフト・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ(以下チャレンジャーズ)が目指すのは温かみある地域密着だ。
本拠地・兵庫県尼崎市(以下アマ)は阪神タイガースの町。スポーツチームとしての規模、知名度、人気は足元にも及ばないのは理解している。今はまだ虎の尻尾すら見えない状況だ。しかし地道な活動を通して少しずつだが受け入れられ関係ができつつある。
兵庫県尼崎市(アマ)は日本一の人気球団・阪神タイガースの城下町。甲子園球場までは阪神電車であっという間、目と鼻の距離にある。阪神尼崎駅近くの尼崎三丁目商店街は、日本一早い優勝マジックが灯る場所としても有名だ。チームは今季開幕から負けが混んでいるものの住民の熱い思いは変わらない。黄色と黒に彩られた「阪神の街・アマ」を本拠地にするのが、アメフト・XリーグSUPER(1部)所属のチャレンジャーズだ。
〜現在は雲の上の存在だが少しずつ追いつきたい
「阪神さんは比べることもできない雲の上の存在です。全国区のチームですが特にアマにおける知名度、人気度はすごい。阪神さんを見習い、少しでも追いつけるようにしたい。時間はかかると思いますがアマのチームとして認めてもらえるように、足元を見据えながらやって行きます」(チャレンジャーズ事務局長・桂雄史郎氏)
チャレンジャーズは2020年10月に尼崎市と包括連携協定を締結した。幅広い分野で協力し地域活性化、市民サービス向上を目指すための提携。市として包括連携協定を結ぶのは3番目ということで話題になった。アマが実質的本拠地となったことでフィールド内外で様々な活動が始まった。
尼崎市が採用した緊急通報時の同時通訳システムの説明、紹介映像へ米国出身QBギャレット・サフロンが出演。市内にはチャレンジャーズ選手がラッピングされた飲料自動販売機を設置された。このシートのデザイン・印刷は地元企業に発注するなど、可能な分野から地域還元も始まった。そして地元コミニュティラジオFMaiaiへ選手たちも定期出演している。
〜『尼崎ボウル』の継続開催がチームとアマの絆を作り上げる
アマとチャレンジャーズの絆を作り上げた最大の功績は年1回開催されていた『尼崎ボウル』だ。市内のベイコム陸上競技場を使用して招待試合などを開催。入場無料で誰にでも楽しめるイベントはアメフトを通じたアマのお祭りだ。コロナ禍でここ2年間開催中止となっているが以前は6年連続行われていた。
「プロはお金を払って見てくれるファンのためにやる。企業チームは親会社のためにプレーする。クラブはどちらでもないので地域に還元しなければ存在価値はないと思います。利益など明確なリターンがなくてもやらないといけないことです。またスポンサードしてくれるアサヒ飲料社にとってもイメージ向上などにつながる試みです。『尼崎ボウル』はチャレンジャーズにとって大事なイベントです」(同・桂氏)
包括連携協定を結ぶ前からアマを大事にしてきた実績が認められつつある。コロナ禍収束の兆しが見え始めた今年、『尼崎ボウル』の3年ぶり開催が6月12日に決定した。時節柄もありイベント規模や内容に頭を悩ませたが、周囲の温かい声やサポートに支えられ準備が進んでいる。
〜チャレンジャーズはアマの子供たちが憧れを抱くロールモデル(社会的規範)になりたい
同プロジェクトマネージャー・川口陽生氏は連日、アマ市内を走り回る毎日だが大きな手応えを感じているという。
「どこに行っても本当に温かい反応を頂き、私自身がモチベーションを高めてもらっています。無料イベントなので企業、個人から協賛などのサポートを頂かないと成り立ちません。正直、日本ではアメフトイベントに広告を出しても宣伝効果など見込めません。それでも話を聞いてくださった方は皆さん前向きに協力してくれます。チャレンジャーズの理念、方向性が間違っていないことを確信できます」
「XリーグSUPER1年目ですぐに優勝できるほど甘くありません。野球、サッカーに比べれば知名度も低いし露出度も限られています。でも社会貢献というチームの理念には共感してもらえます。町などは整備されて来ましたがアマの生活レベルは決して高くない。このような環境で育つ子供たちに何かを還元できればと思います」
「欧米のプロスポーツチーム、選手が尊敬されるのは社会貢献の意識を持っているからです。地元チームの活躍に憧れを感じてスポーツに打ち込むことで道を踏み外さない子供もいます。選手はロールモデル(社会的規範)でいる意識が自然と強くなります。チャレンジャーズはアマの子供たちが憧れる存在になりたいです」
改善傾向はあるものの、尼崎市の生活保護受給者数、保護率などは全国的に見て依然として高い状態だという。チャレンジャーズはチーム単位で児童養護施設や子供食堂の訪問等を定期的に行なっており、現状を目の当たりにしている。地域に対する社会貢献の理念はブレないものだ。
「今年の『第7回尼崎ボウル』の冠スポンサーに尼崎信用金庫様に協賛頂くことが決定致しました。金融機関としてお金のプロですが、費用対効果だけではなく社会貢献活動の理念に賛同頂き、阪神タイガースとも太いパイプを持つ一流企業からの協賛を得られたことは、本当に喜ばしいことです」
尼崎信用金庫は、「がんばれ阪神タイガース定期預金・強虎旋風」を発売したことが話題になった。優勝候補筆頭だった阪神への期待を込めてのプロジェクトだったことは想像がつく。形式こそ異なるがチャレンジャーズへの協賛にも大きな期待を感じる。
〜将来的にはXリーグ公式戦の尼崎開催を目指す
「他にも多くの方々から協賛、協力をして頂きました。来場してくれた人たちがアメフトの楽しさ、激しさなどを感じてもらえるようなイベントにしたいと思います。試合当日、尼崎市長はもちろん尼崎市教育委員会の皆様も多数来訪頂きます。市の観光局もブースを出展・PR頂けることになりました。アマの大きな期待も感じています」
米国UCLA(カリフォルニア大LA校)留学経験のある川口氏は、当地で味わったカレッジ・フットボールの熱狂をアマで再現したいと思っている。スタジアムは非日常を感じることができるエンタメスペース。地元チームの勝利を目指しフィールドとスタンドが一体になって戦う。『尼崎ボウル』で実績を積んだ先にはXリーグ公式戦のアマ開催を視野に入れている。
「ベイコム陸上競技場は第2種公認陸上競技場なので、芝管理などを含め現状では公式戦の常時開催は難しい。市が予算をとって芝の人工芝化などしてくれればアメフト、ラグビー、サッカーを含めて使用でき経済効果が見込めるようになります。そうなるためにもアマにチャレンジャーズが根付き、必要なチームだと思ってもらえるようにしたいです」
「『尼崎ボウル』を今後につなげていきたいです。当日は米国を意識したスタイルで足を運んで頂いた皆様が楽しめるようなイベントにしたいです。地元飲食店による出店でアマの味を楽しめます。また、入場時の特殊効果やグラウンド脇にはビジョンを設置するなど演出にもこだわります。ハーフタイムショーでは地元高校生によるマーチングバンド演奏、トリにはアマ出身のレゲエ・アーティストTHUNDERさんの出演も決まりました。アメフトによる少し早めの夏祭り、尼崎の力を結集させて皆さんの満面の笑顔を見たいです」
〜尼崎から発進する本物のアメフトを楽しんでもらいたい
先日の練習後、チームの勇姿20名ほどで尼崎三丁目商店街から続く三和本通商店街へ食事に出かけた。チャレンジャーズ選手と知った店主の好意でサービスしてもらったという。
「アマは居心地が最高です。選手もどんどんアマの町に足を運んでこういった交流が広がるようにしたいです。これからは『メイド・イン・尼崎』で本物のアメフトを楽しんでもらいたいと思います」
小さいながらも着実な1歩が日々、刻まれている。温かみある交流を続けたその先には、言葉だけではない真の地域密着があるはずだ。何年かかるかわからないが虎の尻尾に触れられる位になった時、チャレンジャーズは日本一の頂きにも近づいているはずだ。