「コート内外の両方で日本一を目指す」日本女子体育大学バレーボール部

日本女子体育大学バレーボール部(以下日女体)は日本一の座を狙っている。
強豪集う関東大学1部リーグ所属の同部だが昨秋には入替戦も経験した。ギリギリの戦いを乗り越えた今季に賭ける思いは強い。
常に支援してくれる方々への思いを胸に、コート内外での捲土重来を誓って進み続けている。

日女体は1926年(大正12年)に日本女子体育専門学校として設立された長い歴史を誇る。バレーボール部は、Aブロック(6人制)、Bブロック(9人制)、Cブロック(ビーチ)と多岐に渡って活動を行なっており、国内バレーボール競技を支え続けているのは間違いない。
~自分の言葉に責任を持つことが最も重要(主将・佐伯胡桃)
「関東1部でのプレーを経験したかったので上京しました」と語るのは、主将・佐伯胡桃(サイキクルミ/4年/長崎・聖和女子学院)。
「関東はパワーも高さも違って本当にレベルが高い。1年時からピンチレシーバーで出させてもらえ、全日本インカレ準優勝できました。その後は全国優勝も頭にはありましたが甘くなかった。昨秋の入替戦は本当に辛かったですが、これを糧にしないと意味がないと思います」
1年時に全国準優勝、2年時も春季リーグ戦・ベスト4、全日本インカレ・ベスト8に入った。しかし3年になるとチームは調子を崩し、秋季リーグ戦では入替戦に回る低迷を経験した。
「個人的には2年夏に手をけがして5ヶ月ほどプレーできなかった。体育館の脇でリハビリしたり、球拾いする日々にストレスがありました。でも『辞めたい』と感じたことは1度もなく、『バレーボールが好きなんだ』と実感できた期間でした」
多くの経験を積んだ中で3年秋からは主将も任された。同年夏に就任した湯浅暁子監督からの信頼は厚い。
「『自分の言葉に責任を持つようにしなさい』と湯浅監督から何度も言われました。『部員にこうして欲しいから、そのために自分はこうしよう』と自分主導で考えられるようになりました。日本一のためにチームをまとめる覚悟ができました」

~勝った時の喜びをもっと味わいたい(副主将・鈴木陽菜)
副主将・鈴木陽菜(スズキヒナ/4年/栃木・國學院栃木)は、「さらに成長するため」と期待され役職を任された。
「自分のことに集中したいタイプでした。『練習からの取り組み方が大事』と湯浅監督から何度も言われ、副主将も任された。少しずつ自覚を持てるようになり、変われているとも感じます」
「チームに愛着を持ち、第一に考えてプレーするようにしています」と何度も口にする。「以前とは比較できないくらいチーム愛が強くなった」と同僚部員も太鼓判を押すほどだ。
「3年時はチームが勝てない時期も長くてきつかった。雰囲気も良くなく、ちょっとしたことでチーム内でイザコザも起きました。それでもチーム一丸で最後まで頑張り入替戦を勝ち抜けた。上級生の存在感は本当に重要だと感じた時期でした」
「バレーボールが好きだし、勝った時の喜びを味わうためにやっています」と強く語る。自身の成長がチーム浮上の鍵を握っていることを自覚している。

~自分ができることを遠慮なくやる(副主将・川嶋夏未)
川嶋夏未(カワシマナツミ/3年/千葉・市立船橋)は下級生ながら副主将を任された。「意見をまとめて明確に伝えてくれてありがたい」(主将・佐伯)と頼りにされる存在だ。
「『下級生の率直な考えも伝えた方が勝利に繋がるのでは…』と思い始めてから行動に移すようになりました。副主将になることに不安もあったのですが、そういった経験を通じて自覚を持ちたいとも思いました」
1年時から試合出場を重ねたが、2年になるとチームは次第に結果を残せなくなった。「どうすれば結果に繋がるのか?」と悩む日々が続いた。
「『コートに立っている以上、良いプレーをして勝たなければいけない』と焦りも強かった。そんな時に湯浅監督から『ミスの責任は背負わなくて良い』と声をかけてもらい、本当に気が楽になったのを覚えています」
「自分ができることをしようと思えた」とも語る。自らのプレーの質を高めると共に、チーム内のコミュニケーションが円滑に図れるように心掛けている。

~逃げずに上手くなってコートに立ち続けたい(窪田晴日)
「主将、副主将を盛り立て、チームとして結果を出そう」と意気込む選手もいる。窪田晴日(クボタハルカ/3年/富山・富山第一)は「レギュラーとして試合に出続け貢献したい」と強い思いを口にする。
「『リーグ戦でも優勝争いできるチーム』と思っていましたが、特に昨季などは勝てなくて本当に辛かった。今の自分は『試合に少し出る』というレベルなので、もっと出場機会を増やしてチームに貢献したいです」
「身体は小さくてもコンビバレー等を駆使して粘り強く勝つ」という日女体のスタイルにシンパシーを感じて入部した。「チームに少しでも貢献して勝ちたい」と思い続ける。
「湯浅監督が基本的な取り組み方から教えてくれる。植物に例え、『技術的な葉の部分は後から付いてくる。根の部分、練習に対する気持ちや取り組む姿勢が大事」という言葉を忘れないようにしています」
「もっとレベルアップしないと通用しない。絶対に逃げずに基礎練習を大切にして上手くなりたいです」と前向きだ。

~今までの経験全てをここから活かしたい(マネージャー・高林惟羽)
「勝敗には直接、関係ないけど少しでも力になれれば…」と語るのはマネージャー・高林惟羽(タカバヤシイハネ/3年/神奈川・伊勢原)。選手からの転向ではなく、マネージャーとして入部した異色の経歴を持つ。
「高3夏に手首をけが、最後の大会に無理して出場することで選手として区切りをつけた。高校の顧問が日女体の元マネージャーだったこともあり、『選手としてではなく異なった形で選手をサポートしてみては』とアドバイスをくれました。話には聞いていましたが、責任重大な仕事だと実感しています」
日女体ではマネージャー2名にアナリスト2名が加わり練習サポートを行う。その他にも大会エントリーや遠征手配など仕事は多岐に渡り、心身共にタフな業務に駆け回っている。
「マネージャーは部内の多くのことが目に入るし、選手もいろいろと話をしてくれます。でも、実際にコートに立ってプレーするのは選手なので、何を話して良いのか迷ってしまうことも多い。そういった部分の葛藤は多く、家族に話したりしています」
昨季の勝てない時期は選手と異なった部分での苦労も多かったはず。チームの雰囲気が決して良くない中、少しでも好転するように気を配った。
「上級生は一人一人が自覚を持って本当に頑張ってくれた。だからこそ、下級生や試合に出られない選手が不安にならないように気を使いました。入替戦まで行ったことは良くなかったですが、今後に関しての道を示してくれた経験になるはずです」

~試合に来てもらえるだけの関係性を構築する
新チームは関東1部リーグでの巻き返しへ向け全力を注いでいる。その一方、学校がある世田谷近郊の中学生を招いての練習会を開催するなど、地域貢献活動にも力を入れ始めた。
「練習会開催は地域への感謝の思いからです。同時に、選手自身の自覚や資質を高めるためでもあります。図々しいかもしれないですが、皆さんにもお力をお借りしたい。我々はプレーの結果で恩返ししていきます。『日女体と関わって良かった』と思ってもらいたいです」(主将・佐伯)
地方出身選手にとっては4年間の生活拠点、いわば「第二の故郷」に対する活動へ前向きに取り組んでいる。
「大学の近くに住んでいます。本当に良い人が多くて住みやすい場所なので、地域の人にも喜んでもらいたいです」(副主将・鈴木)
「人に教える難しさ、伝わりやすい方法などが学べます。来てくれた方に感謝されますが、逆にこっちがありがたいです」(窪田)
練習会に参加した中から将来の日女体部員が出てくるかもしれない。また、地域との更なる深い結び付きも期待してしまう。
「関係性をしっかり作れれば、『応援に足を運んでください』とも言えるようになるはず。多くの人に見ていただければ、選手は絶対にやる気が出ます」(マネージャー・高林)

「全日本インカレで日本一になりたい」という言葉は5人全員から即座に返ってきた。しかし、日女体の目指す場所は競技での頂点に留まらない。
「競技はもちろん、人間性の部分でも日本一を目指したい。練習や私生活でも『日女体は素晴らしい、勝てる理由がわかる』と言われたい。湯浅監督に常日頃から指導されることで、その考えが少しずつ浸透し始めていると思います」(マネージャー・高林)
競技上の結果はもちろん、その先の「生き方」にも繋がることを重要視する。日本女子体育大学バレーボール部のビジョンは至ってシンプル、「コート内外で日本一と思われるチームになること」だ。
まずは関東大学1部春季リーグでどのような姿、戦い方を見せてくれるのか楽しみでしかない。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・日本女子体育大学バレーボール部)