“チーム国分寺”で地域に愛されるチームを目指す国分寺ベースボールクラブ

少子化の影響で、子どもを取り巻くスポーツの環境は大きく変化している。
かつては中高生がスポーツを親しむのは学校単位の部活動が主流で、大人が指導に携わるのも部活動だった。それが時代の変遷に伴い、地域単位で活動するクラブチームや、プロチームの傘下で活動するジュニアチーム・ユースチームなど選択肢が多様化している。2023年に東京都国分寺市で誕生した中学の軟式野球チーム・国分寺ベースボールクラブも、そうした変革期の中で活動を開始。初年度は未勝利から這い上がり、発足僅か3年ながら今夏は水戸市長旗東日本少年軟式野球大会に東京都代表として出場する。
チームを束ねる八木義人監督は、「目標は優勝です。ただ、結果がどうであれ3年生が充実感を持って中学野球を終えられるよう、一番いいものを発揮できる準備をしたい」と意気込んでいる。
国分寺市の中学生で構成され、
かつてのライバルと切磋琢磨
指揮を執る八木監督は中学校の教員。大学まで選手として活動し、教員採用試験後は一時競技未経験ながら女子バレーボール部の顧問を務めた。「当時の女子部員たちは気づく力が高く、その力が試合に活かされていました。また、競技の考え方やポジショニングはすごく勉強になりました」と専門外である競技の指導経験が現在も生きているという。
その後は晴れて野球部の指導を担うことになるが、国分寺市内でも近年は野球人口の減少で学校単位での活動が困難なケースも。2020年以降は新型コロナウイルスの影響で活動に制限がかかり、教員に対する働き方改革も拍車をかけた。
そして国分寺市の有望な選手が中学に上がると市外に流出していたことを危惧し、「国分寺市の子どもたちの活動の場所をキープしなければいけない」(八木監督)と意を決して、クラブを結成した。
現在は57名の選手が在籍し、全員が国分寺市の中学生。まさに“チーム国分寺”の構成になっている。国分寺市外からの入団希望があっても断っているというが、その理由を八木監督は次のように話す。
「“チームの強化”のみに重点を置くと市外の選手を迎え入れる選択肢もあるかもしれません。でもそこではなく、小学校からの仲間と一緒に野球ができる、地域に応援される部分をチームの強みにしていきたいです」
“昨日の敵は今日の友”という言葉の通り、小学生時代に市内のライバルだった選手と中学に上がれば一緒のチームになり、目標に向かうことができる。
その方針がチームの魅力となり、次第に人数は増加。市内の学童野球で育った選手たちが、中学校でも同じ志をもって練習に取り組んでいることが、好成績の要因になっている。

練習は「発表会」
限られた時間で課題にアプローチ
チームでは八木監督のほか、野球指導の経験のある教員や一般企業の社会人も指導に当たっている。全体の練習は金曜日と日曜日の週2回しかなく、その他の日には生徒は学校の野球部に入ったり、他の競技で活動したりとさまざまだ。
限られた練習回数について、八木監督は「発表会」と表現する。
「例えば日曜日に試合があり、そこで課題が出る。『その課題を翌週にどうつなげるかを意識しながら練習して来ようね』と話をしています。部活動とは違って毎日顔を合わせるわけではないので、ミーティングや連絡ツールで必ず課題や意識することを伝えています」と八木監督。
課題に対して各々が向き合い、週2回の練習でその成果を披露する。毎日練習を見ることができないからこそ、こうしたアプローチで成長度をより測ることができている。また顔を合わせる機会が少ないがゆえに、気になるのは学校生活。指導する立場としては心身ともに成長を遂げて、チームから羽ばたいてほしいという思いはあるが、学校生活を見られない不安は当然ある。
その中で勉強や学校での委員会活動への参加を促しつつ、指導者の多くが教員だからこそ生徒指導の視点を持っていることは非常にプラスだ。コミュニケーションの中で学校での課題を察知し、改善を促している。
チームの歴史は浅いものの、“チーム国分寺”として取り巻く環境や思いには共通項が多い。選手の方向性が一つに向きやすいことも強みで、「本当に前向きに頑張っている子たちがそろっています。劣勢になってもへこまない気持ちが逆転勝利につながっている部分はあります」と八木監督は評する。
これらの積み上げがチームを強くし、“チーム国分寺”としての自覚も芽生えさせている。

保護者が運営をサポートし
指導に専念できる体制を構築
部活動の運営は教員で完結されることが多く、保護者が活動に入り込んでいくことは少なかった。ただ完結と言っても、その作業は非常に多く、「練習はもちろん、大会の申し込み、審判、生徒指導と部活動はやることがたくさんあり、非常に大変です」と八木監督。
そこで国分寺ベースボールクラブでは監督、コーチ陣が指導に専念できるよう、保護者の有志で運営部を立ち上げてサポートしている。広報の坂本奈織さんは「3年目にしてやっと形になりました。広報や庶務担当などを立て、各学年代表と連携して、組織の形になっています」と話し、代が変わっても次の学年へとバトンを引き継ぎ続けたいと考えている。
こうしたサポート体制も“チーム国分寺”だからこそできることだ。
国分寺市の選手で構成されるチームは、今後も変わることがないだろう。
その上で八木監督は「より地域に根付く野球チームになっていくことが最大のテーマです」と語る。
続けて、「今の中学生が大学生、社会人になって指導でチームに加わってくれる。もっと言うとその息子がチームに入り、お父さんとして関わってくれる。地元で引き継がれるようになっていきたい」と先を見据えている。
中学生チームながら地域密着を掲げ、国分寺市の愛着とプライドがあるからこそ、こうした運営が可能となっている。人が入れ替わっても“思い”が引き継がれ、国分寺ベースボールクラブの歴史を脈々と紡いでいく。
そして初めて迎える水戸市長旗東日本少年軟式野球大会。今年度のチームの集大成となる大会で優勝を目指し、新たな歴史の1ページを刻む。(写真提供/国分寺ベースボールクラブ)
