元日本ハムのエナジック・糸数敬作監督「沖縄独自の強化方法で全国へ行く」

沖縄が本拠地の社会人野球・エナジックが目指すのは全国大会出場。今季から指揮を執る糸数敬作監督は、アマチュア、プロ時代の経験をもとに1つの方法に辿り着いた。離島のハンディを克服するために取り組む、「開き直り」とも言える戦い方を語ってくれた。

~本州のチームと同じ野球をしていては勝てない
「監督オファーは予想もしていない時に突然だったので、驚きました」と糸数監督は当時を振り返る。
エナジック野球部は2008年10月に沖縄・糸満市で発足、2012年から同・名護市へ本拠地を移した。都市対抗野球(東京ドーム)、社会人野球日本選手権(京セラドーム)出場を目指しているが、全国の舞台にはまだ手が届いていない。
「9月の社会人野球日本選手権・九州予選で敗退した直後、会長にスタッフ全員が呼ばれました。『何があるのかな?』と思っていた中、監督就任を依頼されました。全く聞かされていなかったので…」
糸数監督は沖縄・中部商から亜細亜大を経て、2006年ドラフト3位で日本ハム入団。2013年に現役引退し、以降は故郷へ戻ってダイビングショップを営みつつ、2023年からは同チームの投手コーチを務めていた。
「投手部門のみでなく、攻撃面、守備面を含めたチーム全体についての課題を感じていた。離島というハンディがある中、本州のチームと同じように王道野球を目指している感じがしていました」
「監督就任して、『自分の考えていることをやってみよう』と思った。そのためには、『選手にどのように伝えるのか?』を考えました。伝える状況、言葉など、頭を悩ませました。今でもそれは続いていますね」

~出塁率が高く、空振りしない打者を使う
まずは攻撃面、「打てなくても勝てる可能性が下がらない野球をしよう」とチーム全体に伝えた。全国クラスの投手と対戦した際、想像以上にレベルの違いを感じてしまったことが原因でもあった。
「普段の打撃練習で球速への対応は行なっていても、実戦での球のキレ、角度、スタミナなどは全く違う。選手自身が相手投手の投球に驚いてしまい歯が立たないことが多々ありました」
「練習試合等で多くの投手との対戦を重ねることで、レベルの高い投手へ対応できるようにもなります。しかし、我々は沖縄のチームなので試合を組める相手も限られてしまう。公式戦で初見の対戦となると、打てる確率は極端に下がります」
立地問題は、遠征を重ねるか、対戦相手を招待することで解決するしかない。しかし、チーム予算も限られている中で現実的ではない。
「好投手と対戦することでイメージも湧きやすくなる。しかしそれができないなら、他の方法を見つけるしかありません。出塁率を高めること、数少ないチャンスを得点に結びつけることが大事です」
「打率より出塁率が高い選手を重視します。ボール球は絶対に振らず、苦手な球をファールにして四球を奪い取ることも考える。練習中の時間がある時には、できるだけブルペンで打席に立つようにしています」
アマチュア時代から高いレベルで投げてきた糸数監督自身が、「これをやられると投手は嫌だ」という攻撃を求める。
「追い込まれてから空振りしない打者は苦手でした。バットを短く持つ、倒して構えるなど、練習中から個々にあった方法を見つけ出して磨くようにする。相手投手を苦しめられれば、得点可能性も高まると思います」

~「量が質を生み出す」という考えも大事にする
本職とも言える守備面では、「投手を中心に試合を作り、不安なく試合を進める」ことを目指す。
「野手同様に、投手は強打者と対戦して経験を積むことが難しい。自信のある球種を伸ばすことにフォーカスするしかない。そのためにはある程度の『投げ込み」も必要なので、2名だった捕手を4名に増やして多くの投手が投げられるようにしました」
「肩は消耗品」という考え方が主流の中、「投げ込み」を増やすのは時代に逆行している感じもする。しかし、そこには糸数監督なりの計算もある。
「沖縄に来るのは全国の強豪チームに入れなかった選手が多い。最適な投球フォームが身についていない段階の投手も多い。まずは、ある程度の数をこなすことで投球フォームを固めることが必要なレベルです」
「地元・沖縄出身を含め、投手は良い素材が揃っています。自分の投球フォームを身につけられれば、確実にレベルが上がると思います。壊れるのは絶対にダメですが、『量が質を生み出す』という考えも大事にしています」
亜細亜大では前時代的な「根性野球」に耐えてきた。日本ハムではデータ等を重視した「考える野球」も経験した。両方の良いところを組み合わせ、効果的な投手力強化を目指す。

~ロッテ・吉井監督の影響を受けた「ハイブリッド野球」
ガムシャラだけ、頭でっかちだけ、ではダメ。「バランスが取れたハイブリッド野球を目指す」のは、日本ハム時代に投手コーチとして指導を受けた吉井理人氏(現ロッテ監督)からの影響だ。
「亜細亜大時代は、ひたすらに練習して身体能力と技術を高めることを考えていました。でも吉井さんの指導を受けて衝撃を感じた。1球ごとに考える必要性を教えていただき、『プロはここまで頭を使わないといけないんだ』と思いました」
「吉井さんのように身体が大きい人(公称187cm89kg)でも頭を使うことを重視する。メジャーでも活躍できる理由がわかった」と続けた。
エナジック監督就任後は、各選手のプレーを動画撮影することを大事にしている。
「動画撮影は各自が考えるためです。ラプソードやトラックマンまでは導入できないですが、動画だけでも参考にできる。感覚だけに頼るのではなく、自分の形を見て考えることができます」
「考える、強い身体、技術が伴えば大きくレベルアップできるはず。攻撃、守備の両方で少しずつですが取り組み方が改善できています。時間はかかると思いますが、継続していきたい部分です」

~高校に続いての全国大会出場が絶対
チーム創部以来の変わらぬ目標は全国大会出場だが、悲願達成への思いが例年以上に強いのには理由がある。
「チーム存続のためにも結果を出さないといけない。エナジックは高校チームが今春選抜高校野球(甲子園)に出場しました。『社会人はどうなの?』という声が出てきても不思議ではないと思っています」
2022年創部のエナジックスポーツ高等学院は、2024年秋の九州大会で準優勝を果たして甲子園初出場を決めた。
「エナジックという会社の野球部なので社業もありますが、午前中は練習させていただいている。評価してもらうためには目に見える形の結果、全国大会出場が大事だと思います」
「少子化が進み、野球人口が減っている中、結果を出すことで入部希望者も増えるはずです。沖縄出身者が帰ってくる場所を作ることにも繋がります。やるからには結果を出すことが最も大事だと思います」
昨今、エナジックスポーツ高等学院に対しては、「野球だけをやっている専門校(通信制高校サポート校)はどうなのか?」という声もある。しかし、「結果を残すだけの努力をしている高校生を尊敬する」とも続けてくれた。
「頑張れる、必死になれる選手は目的や内容が変わっても同様に取り組める。現時点の軸足が、野球なのか、勉強なのか、の違いで批判はナンセンス。野球人、人間として大きな結果を残した選手たちを尊敬します。我々も続きたいと思います」

「勝つこと(=全国大会出場)が全てを叶えると思う。勝つことで全てがうまく動き始めると信じています」
2月のプロ野球キャンプシーズンは使用可能な球場が極端に減るため、ジプシー生活を余儀なくされる。肌寒さも残る中、糸数監督の言葉は次第に熱を帯びていった。根っからの明るさで笑顔を欠かさずに話してくれる姿からは、底知れぬプラスのオーラを感じた。今季のエナジック、高校に続いて大きな仕事をやってくれそうな気がする。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・エナジック)