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アダム・ウォーカー(神奈川フューチャードリームス)「チームの勝利が全てで、本塁打は“エクストラ(=おまけ)”」

アダム・ウォーカーは、ルートインBCリーグ・神奈川フューチャードリームス(以下BC神奈川)に欠かせない存在となっている。日米での豊富な経験を活かし、グラウンド内外でチームを牽引。「チームの勝利に貢献すれば、自身の未来にもプラスになる」と信じて全力プレーを続ける。

明るく真面目な性格で、チームの精神的支柱にもなっている。

~どんな形でも“打点”を挙げたい

今季から加入したウォーカーが、BC神奈川にとって重要な役割を果たしている。リーグ西地区優勝を目指すチームの主軸として、本塁打部門でトップに立つ活躍だ。

「打席では常にハードヒット、ボールを強くコンタクトすることを心掛けています。本塁打は強く叩いた打球がフェンスを超えたという結果でしかない。NPBでも本塁打を打った経験はあるので、そこまで気にはしていません」

「大事なのはチームの勝利に貢献すること。状況によって安打、犠牲フライ、内野ゴロでも得点に繋がれば良い。だから、“打点”を上げることを常に考えていますね。勝利のために全力を尽くす。本塁打は“エクストラ(=おまけ)”です(笑)」

期待に違わぬ活躍を見せる打撃について聞くと、まず最初に返ってきた答えは「フォア・ザ・チーム」への思いだった。

「チャンスを与えてくれたBC神奈川に心から感謝しています。トレーニングを重ねてコンディションは維持していましたが、所属チームが決まらず気になっていた部分はありました。契約が決まった時には本当に嬉しく、モチベーションも高く来日できました」

「もちろん『NPB球団で再びプレーしたい』という思いは持っています。しかし、それについては僕が決められることではありません。僕ができることは1試合、1打席に全力を尽くして結果を出すことです」

4月25日に入団発表がされ、同30日に会見が行われた。「いつかNPBに戻って日本シリーズで戦うような選手になりたい」と思いを語っていたが、今はBC神奈川のことしか頭にはない。

打席では、「ボールを強くコンタクトすることが結果に直結する」と考える。

~グラウンド内外の全てに最善を尽くす姿が素晴らしい

「日本でプレーしたい、という熱意が伝わってきたので契約を結びました」と振り返るのは、BC神奈川編成部部長・大山遼翔氏。

「『ウォーカーはBCでプレーしたいと本気で思っている』という話を聞き、代理人と接触。米国にいる本人とオンラインで2度、面談をしました。『BCで成功してNPBへ行きたい』という“本気度”を本人の口から聞けました」

大山氏は、他球団でもスタッフ経験があり、複数の外国人選手と接したことがある。気分次第で言動が左右される選手もいたが、「ウォーカーは心配はない」と確信した。

「BCはプレー環境も決して恵まれていないので、モチベーションが下がる外国人選手もいます。ウォーカーには、その心配はないと感じました。羽田空港で最初に会った時の印象は、身体が大きく真面目な選手。話ぶりも落ち着いていました」

予算規模が大きくないBC球団では、専属スタッフを準備することは容易ではない。ウォーカーも同様で、BC神奈川では通訳なしでプレーをしている。

「自らコミュニケーションを取ろうという積極的な姿勢があります。こちらがスマホの翻訳サイトなどを使用して話しかけると、日本語で返事が返ってきたりする(笑)。奥様が日本人なのも大きいと感じます」

昨年12月には日本人女性と結婚した。「日本で一緒に生活しながらプレーができることも、高いモチベーションになっています」(ウォーカー)と語る。

試合前のポール間ダッシュなど、しっかりとした準備を欠かさない。

「チームの平均年齢が22-23歳。33歳のウォーカーより年下の選手ばかりですが、自ら話しかけたりアドバイスする姿を見かけます。チームミーティングにも真剣に参加、積極的に意見することもあります」

実際のパフォーマンスはもちろん、プレー以外でも周囲に好影響を与えている。試合中のダグアウトでは常に声を出し、チームを鼓舞する。

「試合へ向けての準備も欠かさず、毎試合前に必ずポール間ダッシュをする。その姿を見て、同様のウォーミングアップをするようになった選手もいます。『最善を尽くす』姿勢は素晴らしいです」

「試合中に凡退すると悔しそうな素振りを見せます。それでも即座に気持ちを切り替え、味方選手を鼓舞する声出しをする。守備中も1球ごとに味方投手を応援する。『チームの勝利に貢献したい』という思いが伝わってきます」

「『プレー以外の面も全力で取り組みたい』と、面談で語っていたことを体現してくれています」と、ウォーカーの姿勢に対する賛辞が止むことはない。

年齢は数字でしかなく、肉体、精神のコンディションが揃えばさらに成長できると信じている。

~野球に対して前向きでハングリーにいることが重要

ウォーカー加入はチームにとって有形無形の力を与えている。グラウンド内外で『精神的支柱』と言える存在だ。

「野球のレベル的にはNPBとの差も感じます。しかし、良いパフォーマンスを発揮してチームの勝利に貢献するのが最大ミッションなのは変わりません。また、今までのキャリアで得たものを少しでも還元できればと思っています」

「選手個々は常にハードにプレーしています。素晴らしい才能を持った選手も多い。彼らと共にプレーして、チャンピオンを目指せるのが楽しい。チームに何かを伝えられていたら嬉しいし、僕自身も彼らから多くのものを得ています」

若い選手達との年齢差を感じさせないほど、良好な関係が築けている。アドバイスを求められることも多く、感じたことを率直に伝えるようにしている。

「技術的なことより心構え的なことを話すことが多い。もちろん、MLBのことを聞かれることもある。『メジャーリーガーの最も素晴らしい部分は、野球に対して常に前向きでハングリーだ』と答えています。そういった部分は、日本の独立リーガーもすぐに参考にできる部分だと思うからです」

アドバイスだけでなく、チームにバットを10本ほど寄贈したこともあった。元メジャーリーガーからの贈り物を、若きBCリーガー達は心から喜んだという。

「米国ではメジャーリーガーがマイナーリーグで調整等を行った際には、何かのプレゼントをする。プレーさせてもらえることに対する感謝の気持ちです。僕もプレーできる大切な機会をもらえている。それに対しての、ささやかな気持ちです」

「選手達が喜んでくれて、打撃練習にバットを使用する選手もいる。少しでもモチベーションが上がって、チームのためになるのなら嬉しい。巨人やソフトバンク時代にもやってきたことで、特別なことではないです」

シェイプされた身体にドレッドヘアが似合うナイスガイ。

~多くのレジェンド選手に比べれば、僕は若手の部類に入る

結果を出してNPB復帰する気持ちは、今でも持っている。しかしそれ以前に、BC神奈川の一員としてやるべきことを認識している。

「年齢は重ねてもコンディションは変わりませんハードワーク、休養、栄養など、自分でできることはある。それを継続できれば、グッドコンディションのキープはできます。その上で日々の全てのプレーに全力を尽くせば、結果にも繋がるはずです」

「34歳という年齢に関して不安はないか?」と聞くと、人懐っこい笑顔で即答してくれた。

「巨人時代は40歳を迎えていた中島宏之さんともプレーした。彼は努力を欠かさず、素晴らしいコンディションを常に維持していた。そういった選手からすれば、僕なんて若手に過ぎないです(笑)」

「サッカー界では58歳でプロを続ける三浦知良(JFL・鈴鹿)もいる」と伝えると、尊敬の念をしみじみと語ってくれた。

「その年齢までプロとしてのレベルを維持するのは、本当に難しいこと。肉体もそうだが精神面でタフでいないといけない。そういう偉大な選手がいることも頭に入れて、僕も頑張るよ」

「野球が大好きなので、可能な限りプレーを続けたいです」と付け加えてくれた。野球界最高峰の舞台を目指す気持ちが揺らぐことはない。

プレー機会を与えてくれたBC神奈川をチャンピオンにすることが、最大ミッションだ。

「今やるべきことは、このチームを勝利に導きチャンピオンシップに進出すること。それができれば将来的な希望も見えてくると思います」

地に足をつけて、「今すべきこと」を行う。現実を客観的に捉えて行動するスマートさを感じさせた。

今の姿勢を貫けば、チーム、個人共に大きなことを成し遂げてくれるはず。ウォーカーの日本球界での戦いは、ここからが本当の勝負所を迎える。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・神奈川フューチャードリームス)

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