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東北地区社会人・大学野球対抗戦は社会人が4勝2分 マルハン北日本カンパニーも初参戦で快勝

3月29、30日、石巻市民球場で第7回東北地区社会人・大学野球対抗戦が開催された。社会人は日本製紙石巻、七十七銀行、JR東日本東北、TDK、トヨタ自動車東日本、マルハン北日本カンパニー、大学は仙台大、東北福祉大、富士大、八戸学院大、東日本国際大、東北公益文科大が参戦。6試合行って社会人が4勝2分と強さを見せつけた。

七十七銀行の3年目左腕が見出した“個性”

6試合中5試合が3点差以内と接戦が続いた中、七十七銀行は東北公益文科大に6対0で快勝した。投手陣は庭田恵地投手(25=獨協大)、原田翔太投手(25=富士大)、柴崎倭投手(25=東北福祉大)の「同期リレー」で無失点。2番手の左腕・原田は得意球のチェンジアップを武器に三者連続三振を奪う完璧な投球を披露した。

原田は大学時代に肩を痛め、社会人に進んでからも度々細かなケガに見舞われた。大学では140キロを超えていた球速は気づけば130キロ台前半まで低下。一向に球速が戻らず思い悩む時期もあったが、「悩んでいる暇はない。スピードが出ないのであれば、いろんな球種を使って相手に的を絞らせないピッチングをしよう」と考え、ヤクルト・石川雅規投手を参考に投球スタイルをシフトチェンジした。

上位打線を三者連続三振に仕留めた原田

この日は「理想通りの攻め方ができた」と手応え十分。同期の投手陣には庭田、柴崎のほかに渋谷祐太郎投手(25=石巻専修大)、西舘洸希投手(25=筑波大)もおり、層が厚いが、「1年間ケガなく元気に投げて、信頼して送り出してもらえるピッチャーになる」との目標をかなえるべく個性を光らせる。

また富士大で同期だった日本ハム・金村尚真投手の存在も刺激になっている。「入学前からずば抜けていて、『こういうやつがプロに行くんだろうな』というのを初めて感じました」。予感は的中し、金村はドラフト2位でプロ入り。3年目の今年は開幕投手を務め完封勝利を挙げた。大学時代に「負けたくない」とライバル視していた金村に少しでも近づくことも目標の一つだ。

母校を封じた日本製紙石巻の仙台大OBバッテリー

社会人チームは新人選手も次々と登場した。仙台大と4対4で引き分けた日本製紙石巻は今村拓哉投手(23=中央大)、伊藤佑悟投手(23=東北福祉大)、小野寺唯人投手(23=仙台大)、柳沼勇輝投手(23=明星大)による「新人リレー」でつなぎそれぞれが持ち味を発揮。野手も小田倉啓介内野手(23=仙台大)、田中祥都内野手(23=立教大)、松本優大外野手(23=東北福祉大)と全員が出場し出塁を果たした。

サイド右腕の小野寺は母校相手に1回無失点。先頭打者を四球で出塁させるも、その後のピンチはしのぎ本塁を踏ませなかった。バッテリーを組んだ坂口雅哉捕手(24=仙台大)と三塁を守った小田倉も仙台大OB。坂口からはマウンド上で「相手は関係なくいつも通りやろう」と声をかけられ、その言葉の通り落ち着いて後輩たちを抑え込んだ。

マウンド上で話す小野寺(左)と坂口

対する仙台大はプロ注目のスイッチヒッター・平川蓮外野手(4年=札幌国際情報)が右打席で先制の2点本塁打を放った。先輩である坂口の配球を読んで仕留めたという打球は左翼席へ。平川は「成長した姿を見せたかったので、ホームランを打ててよかったです」とはにかんだ。大学の先輩・後輩の対決を見られるのも対抗戦の醍醐味だ。

元ヤクルトの指揮官「試合に出るだけで勉強」

大谷龍太新監督が率いるトヨタ自動車東日本、昨年発足し今年から公式戦に参戦するマルハン北日本カンパニーも大学相手に勝利を挙げた。

マルハン北日本カンパニーは初回に作本想真外野手(23=専修大)の2点本塁打で先制すると、六回にも2点を加えた。投げては先発の藤澤大翔投手(23=星槎道都大)が5回1失点と好投。その後も3投手の継投で東北福祉大打線を抑え、4対1で快勝した。

マルハン北日本カンパニーを率いる館山監督

館山昌平監督は「リードできて、追いつかれず、もう一度点を取るというかたちで勝てたのがよかった。自分たちの試合の前に試合があるのが初めてだったが、シートノックもある程度できていてプレーボールから立ち遅れることもなかった」と安堵の表情。さらに「大学時代にあまり試合に出られなかったり、ほかの社会人チームのセレクションで落ちたりした選手ばかりなので、試合に出るだけで勉強になるし喜びを感じていると思う」とも口にした。メンバー23人中21人は今年23歳の代で、大学では主力として活躍できなかった選手も多い。

選手たちは社業と両立しつつ、場所を転々としながら練習に励む。将来的にも「グラウンドを持たずに室内練習場とバッティングセンターで全国を目指す」新しいスタイルを模索しており、5年後の全国制覇を見据える。ヤクルトで17年間プレーした指揮官が、社会人野球の舞台で新たな歴史を刻もうとしている。

リーグ戦開幕控える大学生も社会人相手に躍動

大学は勝利こそ挙げられなかったものの、社会人相手に奮闘する選手も目立った。富士大の徳弘太陽外野手(2年=山梨学院)はJR東日本東北戦で4番に座り、六回に左翼席へ運ぶソロ本塁打をマーク。高校3年春にセンバツ優勝を経験し、大学では1年目からリーグ戦で本塁打を放った強打者は、昨年まで4番を打った渡邉悠斗内野手(現・広島)を「右の長距離砲」の理想に掲げる。2年目の春に向けて「今年は昨年と比べると個人の能力が劣っている。悠斗さんみたいな頼れる4番打者になってチームを勝たせたい」と力を込めた。

新4番として期待がかかる徳弘

東日本国際大の阿字悠真投手(4年=滋賀学園)はトヨタ自動車東日本戦で9回3失点と粘投。三回以降は0を連ね、「球数が多い中でも投げ切れてよかった」と笑みを浮かべた。1年時から積んできた経験値は投手陣随一だが、今春のオープン戦期間中は結果を残せず、「指導者には『阿字がエース』だと思われていない」と実感。開幕までにエースの座を確固たるものにし、チームを全国の舞台に導きたい。

八戸学院大の中野龍内野手(3年=大崎中央)はTDK戦に「9番・遊撃」でスタメン出場し2安打1打点。八回の第4打席では右中間を破る一時勝ち越しの適時三塁打を放ち、高校の同期である米山浩乃介外野手(3年=大崎中央)を本塁に還した。

攻守で存在感を光らせた中野

高校時代は進学した日大山形の環境に馴染めず、小学生の頃から一緒にプレーしていて現在もチームメイトである加藤裕太投手(3年=大崎中央)に誘われ2年時に大崎中央へ転校した。大崎中央と言えば、OBの麦谷祐介外野手が富士大で実力を伸ばしオリックスにドラフト1位で入団。中野は「自分も最終的にはプロに行けるレベルの選手になれるよう頑張ります」と目を輝かせた。

東北地区は社会人も大学も間もなくシーズンが本格始動する。今年も全国切符を懸けた熱い戦いに注目だ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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