アナリストを目指す若い3人のジャパンウィンターリーグ
広尾晃のBaseball Diversity:10
トップ画像 前列はアナリストの卵たち 右から村中洸仁君、北林慎之介君、岡田潤君 後ろは星川太輔氏
ジャパンウィンターリーグは、高校、大学、社会人、独立リーグなどに所属する選手が1ヶ月にわたって試合をするトライアウトリーグだ。連日試合をするなかで、NPBや独立リーグなど次のステージへ向けてのステップアップを目指している。
ジャパンウィンターリーグは、記録、トラッキングシステムでの数値データ、画像解析などの選手の評価を定量化し、オンタイムで情報発信している。これによって、スカウトなどは直接試合を見ることができなくても選手の詳細な情報を把握できる。この「リモートスカウティング」も大きな特徴となっている。
アナリストの卵たちもインターンで参加
選手関連のデータシステムの構築と運営は、トラッキングシステムなどデータ機器の専門家で、スポーツアナリストの星川太輔氏が担当している。
今回は、そのアシスタントとして、星川氏が講師を務める東京スポーツ・レクリエーション専門学校スポーツ科学トレーナー科スポーツアナリスト専攻の3人の学生が、インターンとして参加している。
スポーツアナリストを目指す3人にとっても、ジャパンウィンターリーグは「トライアウトの場」と言えるかもしれない。
最先端の機器でデータ収集が始まる
11月24日、沖縄県宜野湾市のアトムホームスタジアム宜野湾(宜野湾市民球場)に集結した選手した選手たちは、身体測定や走力などの測定を行った。アナリストの卵たちも、様々な機器を扱ってデータを計測していく。
また、プルダウン(助走をつけてボールを投げ込んで球速を計測)など、野球選手の専門的な計測も始まった。こうしたデータが次々と選手ごとに入力されていく。
翌25日は、室内練習場で打撃データを計測する「BLASTモーション」をバットに装着して、スイングスピードや軌道などのデータを計測している。
また、ブルペンでは投球の測定も始まった。スタッフたちは忙しく立ち働いています。
「意外とレベルが高いですね」元甲子園準優勝投手で、巨人、ダイエーなどでもプレーしたジャパンウィンターリーグの大野倫GMも手ごたえを感じている。
試合はすべて動画配信、データも発信
26日、試合が始まった。
22日間にわたって行われる試合はすべてYoutubeで動画配信される。バックネット裏には、トラッキングシステムであるラプソードが設置され、投手の球速、回転数、打者の打球スピードや回転数などが画面に表示される。バットには「BLASTモーション」が装着された。プロ野球などではありえないが、実戦で打者のバットの軌道やスピードがオンタイムで計測されたのだ。
アナリストの卵たちはデータの計測や、1球速報の入力などに忙しく立ち働いている。
野球の現場で実際に機器を操作してデータを取るのは初めての経験だ。
選手は試合で結果を出して、スカウトの目に留まろうとしている。真剣勝負の現場だけに、データを計測するスタッフも気が抜けない。
アナリストの卵3人の声
3人のインターンに話を聞いた。
村中洸仁君
「小学校から高校まで野球をしていて、今年から東京スポーツ・レクリエーション専門学校で学んでいます。
もともと投手の配球を読むなど、野球をデータ的な観点で見るのが好きで、アナリストになりたいなと思っていました。
今は、パソコンの使い方を学びながら、アスリートの身体の仕組みや造りについても学んでいます。
ジャパンウィンターリーグでは、基本的に3人で仕事をまわしています。試合のスコア担当や、ラプソードを使ったデータの計測などです。一応ソフトウェアの使い方などは学びましたが、試合でデータを取るのは初めてです。まだまだ未熟なことを痛感しています。
選手に“この数字はどういう意味があるの?”と聞かれて説明できなかったり。まだまだだな、と思います。
将来的にはプロ野球のアナリストになりたいと思います。最初からNPBではなくて、独立リーグなどいろんな競技を経験したい。
選手に“こういうことが知りたいんだけど”と質問されてすぐに答えられるようになりたい。またデータを通して、選手との信頼関係を築きたいですね」
北林慎之介君
「中学で陸上をしていましたが、高校ではスポーツはしていません。もともとスポーツが好きで、特に野球が好きだったので、スポーツにかかわる仕事ができたらいいなと思っていて、アナリストと言う仕事を見つけて入学しました。
パソコンは高校時代から使っていましたが、統計学は勉強したことがありませんでした。
配球の面とか、見ていてわかることを考えたりするのは好きでしたが、ソフトウェアを使って分析したことはありませんでした。
体力測定の段階でラプソードで選手の測定をしましたが、僕も選手に聞かれても勉強不足で的確にこたえられませんでした。分析ができないから説明できないんですね。
今、1球速報的な試合情報の入力をしています。球速、球種なども1球ごとに入力します。野球は1球に含まれる情報が多いですね。打球でも飛んだ方向やゴロなのかライナーなのかを試合中に判断するのはなかなか難しいです。
具体的には決まっていませんが、将来は野球のデータ分析にかかわる仕事に就きたいです」
岡田潤君
「小学校から高校まで野球をしていました。
この学校にはイベント専攻で入り、実習などにも行ったのですが、自分の思ったことと違うと思いました。それまでアナリストと言う言葉も知りませんでしたが、興味を持ってそちらに移りました。
今の時代は、機械を使わないと仕事があまりないのかな、近未来の方向に行こうかなと思いました。でも、それまでパソコンには触っていなくて、専門学校で初めて使いました。
これまではソフトボールなどのデータを取っていました。
フィジカルな数字を扱うのが好きですね。将来的にはスポーツにかかわる仕事に就きたいと思いますが、スポーツアナリスト専攻は4年生で、僕は2年生なので、可能性を探って幅広く考えていきたいなと思います」
チームの一員になるのが大事
インターンを指導する星川太輔氏は語る。
「1ヶ月のインターン期間を通して、3人には、アナリストになるために、自分たちに足りないのはどんなところなのか、気が付いてほしい。
ラプソードなど機器の扱いは慣れしかない。機器が使えるようになって、データが理解できるようになって、そこからやっと選手と会話するとか、どう話せば選手に伝わるかとか、チームの一員としてどういう貢献ができるのか、などを考えるようになる。
選手や指導者に、一緒に練習している仲間、一緒に挑戦している仲間とみてもらえるかが大事。
数字以外のところで、どういう信頼関係が必要かなどを、今回の機会に知ってほしい。試合数をこなすとともに感じていってほしい。
とにかく、いろんな人の言葉に耳を傾けて、成長してもらえたらうれしい」
NPB球団では近年、選手OB以外の様々な専門家を雇用するようになっている。特に、12球団の本拠地球場にトラックマンやラプソード、ホークアイなどの計測機器が導入されてからは、データ分析をするアナリストが特に重要な役割を果たすようになった。
しかし、それとともに競争も生まれているのが現実だ。
3人のインターンには、現場の選手、指導者の信頼を得て、一線級のアナリストとして羽ばたいてほしい。