フラッグフットボール選手・中田紗絢「部活とクラブの二刀流でLA五輪を目指す」

東京ヴェルディフラッグフットボールチーム(以下ヴェルディフラッグ・女子)の中田紗絢は、2028年ロサンゼルス五輪(以下LA五輪)出場を目指している。所属高校のアメフト部で男子に混じり練習を重ねるのは、フラッグフットボーラーとしてのレベルアップのためだ。20歳の年に迎える五輪の舞台で、「日本代表の中心選手として世界一を目指す」覚悟がある。

LA五輪で正式種目となったフラッグフットボール(以下フラッグフット)。日本女子代表はアメフトの母国である米国といった強豪を倒しての世界一を目指す。現在16歳でU-17(17歳以下)日本代表でもある中田は、夢の舞台での活躍を今から見据えている。

フィールド上では年齢関係なく、リーダーシップを発揮してチームを牽引する。

~『ラッシャー』として相手選手には好きにプレーをさせない

3月30日、「2024年度日本フラッグ選手権」(神奈川・富士通スタジアム川崎)が行われ、ヴェルディフラッグ・女子は準優勝に終わった。中田自身も大会前に軽い脳震盪を起こした影響でプレー時間が制限されてしまった。

「ヴェルディフラッグ・女子は大会前の紅白戦でメンバーを決めることが多い。脳震盪の影響で(紅白戦に)参加できなかったので、『試合には出られないだろうなぁ…』と覚悟していました」

準々決勝後半はプレー機会を与えられたが、それ以降の試合ではベンチを温めることがほとんど。「チームのために声を出して貢献する」と理解してはいたが、胸中は複雑だった。

「準決勝は2プレーだけで、決勝は全く試合に出ていません。自分が出ても勝敗は変わらなかったと思います。でも、日本の頂点を決める試合のレベルや雰囲気を体感したかった」

プレー時間は短くともフィールド上では存在感を十二分に発揮。鋭い出足で相手QB(クオーターバック)に重圧をかけ続けた。

「今は『ラッシャー』という守備のポジションで主にプレーしています。相手QBに素早くラッシュをかけて好きにプレーをさせないようにする役割です」

フラッグフットでは、タックルではなく腰につけたフラッグを取って相手の攻撃を止める。また、QBが7秒以内にボールを手放さないといけない「7秒ルール」も存在する。『ラッシャー』は重要度が高いポジションである。

「今回は悔しさしかない」(中田)と語るが、身長155cmの『背番号23』は今後の可能性を見せつけてくれた。

出足の鋭さを磨き上げ、相手選手に重圧をかけ続けられる選手を目指す。

~部活で男子に混じっての練習がフラッグフットに好影響を及ぼす

「ヤクルトの山田哲人選手と青木宣親選手の2人が好きだったので『背番号23』にしています」

小学4年生でフラッグフットを始めてから、一貫して『背番号23』を背負ってプレーする。父親の仕事の影響もあって、ヤクルトの主力選手からインスパイアされた。

「父(=知邦氏)がヤクルトのスタッフとして神宮球場で働いていました。試合を見る機会もあったので、山田選手のファンになり背番号にしました。その後もメジャーから復帰した青木選手が『背番号23』を着けられ、気になる選手になりました」

「(山田選手、青木選手の)お2人は私が『背番号23』を着けているのを知ってくださっているそうです。『(中田は)公認だよ』と言ってくれたらしく、本当に嬉しくてモチベーションに繋がっています」

小学校の授業で知ったフラッグフットの面白さに目覚めて水泳から転向した。もともと父が大のアメフト好きだったこともあり、家族は最大限の協力をしてくれる。

「父はいつもアメフトをテレビで見ていましたが、子供の頃の私は興味なかった。でも授業でフラッグフットを体験すると面白くて『やってみたい』と思いました。水泳で伸び悩んでいた時期だったのもあり、踏ん切りをつけました」

クラブチームに所属してプレーを続け、東京・日体大荏原高へ進学後は同校アメフト部に入部する。

「フラッグフットにプラスになると思って入部を決意しました。父が知人を通じて動いてくれ、顧問の先生に説明・相談して承諾いただきました。『日程が重なったらフラッグフット優先で良い』と言っていただいています」

「部活では防具を着けてタックルがメニューに入る前まで参加、その後の練習や試合ではマネージャー業務を行います。男子と一緒にやることで判断力や俊敏性が磨かれているのが実感できます」

「二刀流ではないです(苦笑)。フラッグフットが上達するため、アメフト部に居させてもらっている感じ。監督、チームメイト等の周囲の皆さんの理解が本当に有り難いと感じています」

ヴェルディフラッグ・女子の練習が木、土、日曜日。それ以外の平日は、学校終了後に約2時間程度の部活に参加する。「環境に恵まれているので、もっと上手くなりたい」と熱く語る。

世界で結果を出せる選手になるため、判断力と俊敏性を高めることを考えている。

~U-17日本代表で結果を出すことが五輪にも繋がる

各世代で日本代表に選出され、世界大会のジュニア・インターナショナル杯出場を果たしている。中学時代の2023年にはU-15(15歳以下)で世界2位。昨年は1つ下の世代ながらU-17(17歳以下)に選出、世界6位となった。

「フラッグフットはマイナー競技ですが、日本代表になると注目度が変わる。クラスメートや知人から『世界一になってね』と声をかけられます。日の丸、国を背負って戦う重みは自分なりに常に感じています」

「2023年は世界2位だったので、昨年は『優勝してね』という声が多かった。重圧も感じましたが、『結果を望まれる立場になった』という嬉しさもありました。だからこそ、世界6位という結果が悔しくて仕方なかった」

「今年は自分たちの世代のチームになるので、絶対に結果を出したい」(中田)と自覚を持って日々を過ごしている。その先には、2028年LA五輪出場と世界一という目標がある。

「LA五輪を目指すならU-17は通過点なので、選ばれるだけでなく大会でフル出場して活躍しないといけない。そうでないと、その先のラージ(フル代表)に入ってやっていけないと思います」

「ラージの選手と比べると、まだまだ技術と判断レベルが低いと感じます。でも、逆にそこは自分の伸び代がある部分だと思います。高いレベルでの経験、場慣れを重ねて世界に通用する選手になりたいです」

まずは、「今年の世界大会でどういうプレーができるか、にかかっています」と続ける。

『背番号23』はヤクルトの山田哲人と青木宣親の影響から着け始めた。

~身体のサイズが世界大会では大きな武器になるはず

「瞬発力で勝負をしないといけない選手ですから…」と、目指すべき選手像についても教えてくれた。

「体型を活かして、もっと低く、スピードを持って向かっていく。低くなれば相手選手も戸惑うし、フラッグを取るチャンスも増えるはずです。身体の大きな外国人選手に対して、私の一番大きな武器になると思います」

「今は守備面の『ラッシャー』中心で試合に出ていますが、キャッチ力が向上すれば攻撃面でも起用されるはず。理想を言えば1試合通じてフルで試合に出続けたい。そのためにも、もっと上手くなりたいです」

将来に向けて多くの選択肢がある中から、知名度や人気が決して高くないフラッグフットを選んだ。しかし、目指すべきものは明確、そこまでの道筋もしっかり見えている。

ラージ(フル代表)でも欠かせない戦力になれるように努力を続ける。

「男子に負けないよう強度と正確性の高いプレーを目指し、世界一になりたい」

日本代表が五輪の舞台で結果を残せれば、「アメフト不毛の地」と言われ続ける国内の状況が変わる可能性もある。2028年LA五輪において『背番号23』がフィールドを駆け回り、頂点に向かって突き進む姿が今から楽しみだ。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・東京ヴェルディフラッグフットボールチーム)

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