大引啓次氏 プロ野球OBクラブのイベントにゲスト登壇 盟友・坂口智隆選手との絆とルーキーへの金言
10月11日、東京・墨田区の曳舟文化センターで日本プロ野球OBクラブ主催のイベント、第2回「〜MEMORY COLLECTION~」が開催された。
今回のゲストは大引啓次氏(元ヤクルト他)。現役時代のユニフォームを着て来場したスワローズファンなど約40人がトークショーや写真撮影などを通じ交流した。
(取材協力:日本プロ野球OBクラブ、取材 / 文:白石怜平)
第2回はヤクルトなどで活躍した大引啓次氏
「〜MEMORY COLLECTION~」は、日本プロ野球OBクラブ(以下、OBクラブ)が主催するイベント。
同クラブでは2年半ぶりに行われている対面式の催しで、ゲストOBのトークショーと2ショットでの写真撮影、オプションでサイン会に参加できるなど、ゲストとの”思い出(MEMORY)に残ること”をコンセプトにしている。
8月に第1回が開催され、ゲストには吉見一起氏(元中日)が登場し大盛況だったことから、「他のOBでもぜひ開催してほしい」という声が多く寄せられ、早くも第2回が実現した。
今回のゲストは大引啓次氏。06年の大学生・社会人ドラフト3巡目でオリックスに入団し、新人で開幕スタメン出場を果たす。以降、遊撃の名手として守りの要を担った。
12年オフに糸井嘉男らとの大型トレードで日本ハムに移籍。2年目の14年には主将を務め、2年連続で規定打席に到達するなどレギュラーとして活躍した。
同年オフにはFA宣言しヤクルトに移籍。初年度の15年にはチーム14年ぶり、そして自身初のリーグ優勝に貢献した。19年限りで現役を引退し、プロ13年間で通算1288試合出場・1004安打をマークした。
昨年から大学院に入学し、野球部でも指導に
会場には現役時代の活躍を知る40人のファンが集まった。7年前の優勝もよく知るスワローズファンを中心に、ファイターズそしてバファローズファンの姿も見られた。
18時半に会はスタート。冒頭はOBクラブの公式YouTubeチャンネルでもMCを務め、この日の進行役を務める半田あい氏が登壇した。開会の挨拶をした後に大引氏が紹介され、登場すると大きな拍手に包まれた。
軽やかな足取りで登場すると爽やかな笑顔を見せた。この日の参加者は半数以上が女性ファン。現役時代から変わらない甘いマスクで早速魅了した。
最初の話題は現在の活動について。引退後の20年に日本ハムの特別研修コーチに就任した。自身の希望でテキサス・レンジャーズへ留学し、日米を行き来しながら育成システムなどを学ぶ予定だった。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、留学を中止して日本に帰国。その後は当時より「来年4月には日本の大学院に通いたいと思っています」と語っていた通り、昨年4月より日本体育大学の大学院に入学した。
現在修士2年生の大引氏は、コーチング学を専攻し指導者に必要なスキルなどを学んでいるという。入学した昨年は緊急事態宣言中などと、現在よりも制限があった時期だった。
「授業は教授から指導を受けるよりも、学生同士でディスカッションを行う機会が多いです。ただ、コロナ禍のオンライン授業だったので、特にディスカッションするときなど、最初は遠慮しがちで目配せもなかなか難しかったですよ(笑)」
入学とほぼ同時に、同大学の硬式野球部コーチに就任し指導者としてのキャリアもスタートした。大学院で学んだことをグラウンドでアウトプットするという好循環をつくりだしていた。
「引退をしてからもユニフォームを着て指導の現場に入らせてもらっています。本当に感謝しています」と充実感にあふれる表情を見せた。
大引氏の指導する日体大には、20日のドラフトで日本ハムから1位指名を受けた矢澤宏太選手が在籍している。タイムリーなことにちょうどこの日、日本ハムが1位指名を公表した日であった。それもあり、矢澤選手との関わりについても話題になった。
「矢澤選手に関しては、1年半ほど一緒に居させてもらっていますね。ただ、ポテンシャルが高いので、アドバイスし過ぎたりせずのびのびとやってほしいのもあって、あまりこちらから指導する事はなかったですね」
と謙遜しながらも、古巣からの指名公表に嬉しい様子が見られた。
10年間共にプレーした同級生・坂口選手の引退を労う
続いて今シーズンのプロ野球について。開幕戦からの1シーズンを振り返った。
また、このお題の終盤には今シーズン限りで引退した選手についても話題に挙がった。所属したヤクルトでは、内川聖一選手・坂口智隆選手・嶋基宏選手が今シーズン限りで引退することになった。
特に坂口・嶋の両選手は同じ1984年生まれの同級生。まず嶋選手については、11年の東日本大震災が発生した当時に楽天で選手会長を務めていたことから、その姿勢に刺激を受けていたという。
「持って生まれたリーダーシップを持っていますよね。球団の選手会長という立場で、大震災があった時も先頭を切って復興活動に努めてくれた。プレイヤーとしてもですが、人間的にも非常に素晴らしい同学年の選手だと思います」
そして、坂口選手。オリックスで、1・2番コンビとして猛牛打線を牽引した時期もあるなど、6年間共に戦った。大引氏がヤクルトに移籍して2年目の16年、坂口選手もヤクルトに入団し再び同じユニフォームを着てプレーした特別な存在である。
「坂口は特にね…僕がルーキーの頃から一緒に野球やっていましたから。彼がオリックスで自由契約になった時も『ヤクルトで一緒にやろう!』って連絡したこともありましたし、今回の引退はすごい感慨深いものがありました」
坂口選手からは、引退発表する2日前に電話で連絡をもらったという。そのやりとりも明かしてくれた。
「引退するか、他球団でのプレーを模索するかの2択に迫られていて、まぁ悩んでいましたね。ただなんでしょう、僕も1人の”坂口ファン”としてどっちも正解だなと。どっちを選んでもカッコいいなと思いました。
ボロボロになって野球を続ける姿も、ここで潔く辞める姿も両方カッコいいしどっちも正解だよと、その決断を尊重するということを伝えました。ここまで立派だったと思います」
セ・パ両リーグで計10年間共に戦った盟友を労った大引氏は「後日慰労会しないといけないですね」と語りこの話題を締めた。
プロ入りするルーキーへのアドバイス
トークショーはこの後、自身の日本シリーズ出場時のエピソードやちょうど前日まで行われていたクライマックスシリーズ ファーストステージの解説と移っていく。
軽妙なトークで会場も笑いに包まれるなど、時間が若干押すほどに盛り上がりを見せた。
予定されたお題の後にはファンからの質問コーナーが行われる。直接大引氏と会話できる貴重な機会ということもあり、何人も手が挙がった。
その中で、「厳しいプロの世界を13年間生き抜いてきた大引さんが気をつけていたこと・大事にしてきたことは何ですか」と最初に尋ねられた。
「1つ挙げるとするならば、高校卒業後すぐにプロ入りする選手もいますよね?特に下位指名で入団する選手。そうであっても僕は1年目から勝負しに行くべきだと思います」
今年のドラフトでも育成含め126人が新たにプロの門を叩いた。将来性・即戦力など選手それぞれに期待されていることは異なる。
特に高校卒業してすぐにプロ入りすると19歳であるため、球団はその選手の将来性を踏まえて指名したと考えられる。しかし、そこに甘えてしまうことは危険だと大引氏は捉えている。
「実際に出場できる・できないはありますが、選手自身が”1年目から”というつもりでやらないと、翌年にはまた有望な選手が入ってくるわけですよね。自分のライバルがまた何人と入ってくるのですから、そこの競争に勝たなければいけない。特に僕は大学卒だったので、1年目から当然勝負しに行きました」
大引氏はルーキーから”勝負の年”と考え、レギュラーを奪取。1年目は早くも126試合に出場し、以降の長い活躍へとつなげていった。
その後も質問は続き、予定時間を少し過ぎたがOBクラブスタッフ陣が機転を利かせるなど全て消化。50分強のトークショーは惜しまれながら終了した。
大引氏は来年3月に大学院を卒業する見込み。日体大での話題の際、「卒業論文の執筆を開始しましたよ」と語るなど、本格的に卒業に向けた準備を始めたという。
来年、さらにその先に「指導者・大引啓次」がどんなコーチングを見せてくれるのか、楽しみにしていきたい。