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「慶応のような相手の応援を楽しめる野球選手になれ」関メディベースボール学院・井戸伸年氏

野球専門校・関メディベースボール学院中等部(以下関メディ)が快挙達成。「ポニーリーグ」加盟初年度ながら、第49回全日本選手権大会(以下全日本)で優勝を果たした(タイスコアによる佐賀ビクトリーとの2チーム優勝)。

同学院総監督・井戸伸年氏は、歩み始めた新たな道に大きな手応えを感じたという。

関メディベースボール学院総監督・井戸伸年氏は、高校から先のカテゴリーで活躍できる選手育成を目指している。

~野球人口減少が進む中、垣根を超えて1つになる時がきた

7月30日、関メディ(兵庫)と佐賀ビクトリー(佐賀)との決勝戦が行われた東京・江戸川球場は異様な熱気に包まれた。「3-3」で延長突入後は「点を取られては取り返す」3時間46分の大熱戦。延長11回終了後に選手の体調面を考慮してゲームセット、両チーム優勝となった。

「中学硬式野球の常識のようなものを変えるために勝ちに拘りました。勝ち切りたかったですけど負けてはいません。子供たちは甲子園でやりたかったと思いますが、優勝という胸を張れる結果です」

優勝チームには中学硬式野球5団体の優勝チームが戦う「1stエイジェックカップ・中学硬式野球グランドチャンピオンシリーズ」への出場権が与えられる。同大会の決勝の舞台は阪神甲子園球場(甲子園)だった。抽選の末に佐賀ビクトリーの出場が決定、敗者のように泣き崩れた選手たちに胸を張るように語りかけた。

8月末に開催されたエイジェックカップ、記念すべき第1回大会で優勝をしたのはポニーリーグの同志・佐賀ビクトリーだった。

「ポニーリーグの決勝を戦ったチームが文字通りの日本一となった結果は、素直に嬉しかった。また大会主催者に対しては感謝と敬意しかない。少子化などで野球人口もどんどん減っている中、垣根を越えた大会は絶対に必要。中学生年代の野球が1つにまとまる最初の一歩になるはずです」

ポニーリーグ全日本選手権は江戸川球場や大田スタジアムなど、関東近郊の球場で行われた。

~選手に「勝ちたい試合かどうか?」を決めさせる

関メディはヤングリーグに8年間在籍、今年3月の第31回ヤングリーグ春季大会(倉敷)では悲願の初優勝を果たした。直後の4月にポニーリーグへ転籍したのは「Value(価値)とWin(勝ち)を求め続ける」というチームビジョンによってだ。

「ポニーリーグは部員全員が試合に出られるように配慮され、複数チームでの大会参加ができるのが大きかった。関メディは全日本に3チームが出場しました。何でもそうですが試合に出ないと上達しません。練習をしっかりした上で実戦における自分の現在位置を知ることが大事です」

高校、大学という次カテゴリーで通用する選手を育てること。チームとして各種大会において結果を出すこと。2つのミッションのバランスを考えながら活動を行うのはリーグが変わっても同じだ。

「個々が実力をつけ甲子園出場できる高校へ進学することが第一。勝敗に関しては、選手自身に『勝ちたいかどうか?』の決定権を委ねています。大会によっては選手全員を出したり、1回ずつ投手を変えることもある。これも選手に意見を求めて、それを我々が支えます」

ポニーリーグでは登録全選手のベンチ入りがルールで決まっているため、関メディからは3チームが出場した。

~盛り上がった中での野球に慣れることが重要

ポニーリーグ転籍のもう1つの理由は、加盟チームが一丸となってリーグを盛り上げる姿勢にもあった。全日本の決勝戦には出場2チームのみならず、大会に関わった全チームの選手と多くの関係者、ファンが集まった。

「入場無料とはいえ大事な夏休みに時間を作って集まってくれた。リーグ全体が1つになって盛り上げようという空気感がありました。決勝戦は音楽フェスのような感じさえして誰もが楽しんだ。ポニーリーグの夏祭りでした」

スタンドには約1000人ほどの観衆が集まった、もちろん「盛り上がりが足りない!」の応援もチーム関係なく何度も巻き起こった。YouTubeチャンネルでの生配信もされるなど、日本ポニーベースボール協会もかなり力を入れていた。

「ああいう環境での試合を求めていました。選手たちは盛り上がりの凄さを本当に感じていたと思います。今後の野球人生では甲子園を含め、信じられないほど盛り上がった環境内でプレーする機会も出てきます。中には六大学やプロでやる選手もいるかもしれません。子供の時点から慣れることが大事、全ては経験です」

相手チームの応援をどのように受け取るかでパフォーマンスも変わる。

~慶応の応援が問題になる理由がわからない

今夏甲子園大会の話題を独り占めした慶応高。応援規模の巨大化が一部で問題視されたばかりだが、井戸氏からすれば批判が理解できないという。

「慶応の応援が問題になる理由がわからない。全日本の決勝はスタンドが常に騒がしい状況で試合が流れていきました。場内の声や音を敵チームの応援と取るか?これだけの人たちに見られていると思えるのか?幸せと感じるか?圧力と感じるか?それぞれで全く違います」

「選手に普段からそういう話をしています。盛り上がった環境でやるのが野球の良さ。お客さんがたっぷり入った中でやるのが野球選手にとって最高の幸せです。ファンを獲得してナンボ、ファンがいないと野球は成り立ちません。大観衆の中でやれることの幸せを感じろ、と言っています」

関メディのオフィスは甲子園球場と目と鼻の先の場所にある。阪神戦や高校野球で常に盛り上がる野球場の近くにいるからこそ、プラス思考で捉えられるのかもしれない。「全日本の決勝も、もっと盛り上がってくれと思っていました」と井戸氏は笑いながら振り返る。

子供たち自身が考えて出した道へ向かって進めるように大人は見守って支えるだけだ。

~子供たちは気持ちの入り方や心の揺れがプレーに現れやすい

試合中に「勝てる…」と頭をよぎっても簡単には行かないことも多い。全日本選手権決勝ではあとアウト3つで単独優勝できたが叶わなかった。「まだ中学生、子供ですから」と試合直後には語っていた。

「難しい部分です。ほんの少しの流れで試合展開が大きく変わる。中学生年代では気持ちの入り方や心の揺れがプレーに現れやすい。今回も3点リードの最終回まで行っても勝ち切れなかった。最後のアウトを取れなかった。何をするべきかは頭でわかっていても実行に移せないほどの興奮が試合中にはありますから仕方がないです」

全日本終了後には夏季強化キャンプを敢行。本来は8月末に甲子園の土を踏むはずだったチームは悔しさを忘れず、次へ向けてリスタートを始めた。

「彼らはこれからの選手。全日本選手権で出た多くの課題は、野球選手として1つずつ修正しないといけない。仮に甲子園でのエイジェックカップに出られていたとしても、遅かれ早かれ絶対にやるべきこと。悪い部分は直して個人の能力を上げていくだけです」

選手を育てるためには「手を変え、品を変える」必要がある。中学生年代は身体も心も成長期の現在進行形、不安定な部分が多いからこそ指導側として考え続ける日々だ。

中学は通過点であり、高校から先の野球人生で素晴らしい活躍ができるような選手になって欲しい。

「試合ごとに逞しさを増していった子供たちが頼もしい。これから先、どこまで伸びていくのか楽しみですね」

今春も選手たちを全国各地の強豪高校へ送り出した。夏の甲子園に出場した関メディOBもいる。現在在籍中の選手たちも高校野球での甲子園出場を目指して切磋琢磨を続ける。

「中学野球はあくまで通過点で子供たちは発展途上。まずは高校から先の野球人生をしっかり描いて欲しい。自発的に取り組めば野球がもっと楽しくなる。大人はそれを見守って後方支援をするだけです」

3年生は高校進学へ向けてこの冬の伸び代が重要になる。2年生は秋から始まる予選で再び全国優勝を目指すこととなる。それぞれの未来へ向けて関メディの歩みが止まることはない。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・関メディベースボール学院)

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