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B-net/yamagataに13人新加入 社会人野球に憧れた22歳が、縁もゆかりもない山形の地で見た「最高の景色」

 創立2年目を迎えた山形市の硬式野球クラブチーム「B-net/yamagata」に、新たに13人(4月中旬時点)の選手が加わった。元々は2022年9月に無期限休部を発表したきらやか銀行硬式野球部(山形市)のメンバーが中心となって発足したチーム。チーム名の由来である「Baseball-network」の言葉通り、野球の輪が着実に広まっている。

 4月7日、山形大硬式野球部を招き、きらやか銀行総合グラウンド(山形県中山町)で今年初のオープン戦を行った。この試合には新加入選手11人が出場。打ち合いを9対7で制し、新体制での初陣を白星で飾った。試合後、多種多様な経歴を持つ新加入選手たちを取材した。

たどり着いた新天地で野球に「すべてをかける」

 「8番・左翼」でスタメン出場した内田大翔外野手(22)は、3回、無死一塁で回ってきた加入後初打席で左前打をマークした。その後打線がつながり、この回一挙7得点。まさに打線に火をつける一打となった。内田は初安打に「最初の1打席にすべてをかけてきた。とにかくうしろに回せば何かが起こると思って、『命をかける』くらいの気持ちで打ちました」と鼻息を荒くした。並々ならぬ思いを持つのには理由がある。

 内田は神奈川県出身。地元の公立校・弥栄高(現・相模原弥栄高)で硬式野球部に所属するも、3年間通してベンチ入りはならず。高校野球を終えて将来について考える中で、SNSで積極的な発信をしていた当時大学生の今川優馬外野手(現・北海道日本ハムファイターズ)に憧れを抱くようになった。その今川がJFE東日本で都市対抗野球大会優勝に貢献する姿を見て、内田は社会人野球を「野球人生の終着点」とすることにした。

 高校卒業後は松蔭大の硬式野球部に入部したが、活躍するきっかけをつかめない日々が続いた。「ここで思い切り行動を起こさないと、何も変われずに4年間を無駄に過ごしてしまう」と考えた内田は、チームメイトの反対を押し切り大学2年夏に硬式野球部を退部。大学には通いながら神奈川県内のクラブチームに所属し、己を磨いた。

第1打席で得点につながる安打を放った内田

 しかし、大学4年になった昨年は相次ぐケガに見舞われ、まともにプレーすることができなかった。社会人チームのトライアウトを受験することもできず途方に暮れていた折、手を差し伸べてくれたのが、SNSで通じ合ったB-net/yamagataだった。内田は昨秋、「一秒たりとも迷わず」新幹線に飛び乗り、縁もゆかりもない山形へ直行した。

 社会人野球にこだわる内田にとって、きらやか銀行硬式野球部は憧れのチームの一つ。きらやか銀行時代の練習施設がそのまま残る環境に感動し、すぐに入団と山形での就職を決断した。「自分一人では試合に出場する状況はつくれなかった。1年前には想像もつかない、最高の景色を見ることができました」。紆余曲折があったからこそ、“社会人デビュー戦”は特別な一戦になった。

 目指すは都市対抗と全日本クラブ選手権の舞台。内田は力を込める。「僕はそのために来た。自分だけの野球ではないので、多方面への感謝を結果で表したい。言葉の通り、すべてをかけています。本音を言えば、僕の体はどうなってもいいのでとにかく勝ちたいです」。

医師目指す二人が再びチームメイトに

 金原広汰投手(24)と齋凌矢投手(24)は仙台一高硬式野球部、山形大医学部準硬式野球部でもチームメイトで同期だった。二人は大学時代、5年秋に創部初となるリーグ優勝に貢献。ともに今春大学を卒業し、山形県内の病院で研修医として経験を積みながら硬式野球を継続する。

 山形大戦では齋が6回、金原が7、8回に救援登板。硬式球と準硬式球の違いに苦戦しながらも、齋は三者凡退に仕留める好投を見せ、金原も7回こそ3点を失ったものの8回は修正能力を発揮し0に抑えた。

加入後初登板を終え安堵の表情を見せる金原

 金原は大学在学中から「肩が上がらなくなるまで、体が動くうちは野球をやる」と意志を固めており、医師国家試験が終わってすぐに体験練習に参加して入団を決めた。一方の齋は6年春の早い段階で故障して納得のいく大学ラストイヤーを送れなかったことから、野球を続ける道を模索。偶然にも、二人はまたしても同じチームでプレーすることになった。

 齋は高校、大学と絶対的エースだった金原に劣等感を抱き苦しんだ時期もあったが、今は「特別な対抗意識はない」と話す。ただ、「大学5年秋に初優勝した時のように、また二人で凄いことを成し遂げたいという希望は持っています」と熱い思いは胸に秘めている。

上々のスタートを切った齋

 「(B-net/yamagataは)いろいろな困難を乗り越えてできたチーム。今の自分と重なる部分があって、自分もケガを乗り越えてもう一度活躍していた頃の姿を取り戻そうという気持ちでやっています」(齋)。これからも山形の地で、医学の道、そして野球の道を極める。

山形で育った高卒ルーキーコンビにも期待

 若さあふれる高卒ルーキーも加わった。木村祐葵外野手(18)、小林翔内野手(18)の山形中央高出身コンビだ。山形大戦では木村が「6番・中堅」、小林が「7番・三塁」でスタメン出場。そろって2安打をマークし、木村は特大の2点適時二塁打を放って自慢の長打力も披露した。

勝負強さと長打力を発揮した木村

 木村は元々大学で野球を続けようと考えていたが、理学療法士を目指すため地元の専門学校に進む道を選択した。一方、高校野球引退後も練習をする中で野球熱が再燃し、B-net/yamagataに入団。別の専門学校に通う小林は、木村の誘いを受けて後から入団を決めた。

 二人は一緒に練習していた高校同期の武田陸玖外野手(現・横浜DeNAベイスターズ)から大きな刺激を受けている。木村は「(武田は)ずっと追いかけていた存在。同じチームで心強かったですけど、自分も負けていられない」と意識する。野球人である限り、舞台は違えど、プロ野球の世界に飛び込んだかつての仲間へのライバル心は消えない。

三塁の守備でも貢献した小林

 ともに戦いたいと願う選手たちが地元山形はもちろん、各地から集まってきている。都市対抗や全日本クラブ選手権を見据えて一丸となって戦い、舟田友哉監督が思い描く「存在価値のあるチームを、長く存続させる」未来を全員で実現させる。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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