女子フットサル「UBE UNITED PLASS Lino」 全国で花開くチームを目指して

1.産声からわずか2ヶ月のチームが挑んだ全国大会

2026年3月、いしかわ総合スポーツセンターには、UBE UNITED PLASS Linoのメンバー一人ひとりの悔しさと誇らしい熱気が充満していた。 山口県宇部市を拠点とするこの女子フットサルチームは、全国の舞台に立っていた。前年12月に産声を上げたばかりの急造チームは、2月の中国予選を2勝0敗という内容で突破し、日本最高峰の舞台「地域女子チャンピオンズリーグ」へと駆け上がった。

ベンチに控える交代要員を含めても、わずか9人でこの大会に挑んだ。 交代の自由が認められるフットサルにおいて、この人数は過酷を極める。全国レベルの強豪たちが、厚い選手層を背景に激しいプレスを仕掛けてくる中、リノの選手たちは文字通り息を弾ませ、文字通り牙を剥いて食らいついた。結果は1勝2敗。予選リーグ敗退という現実がそこにはあった。

しかし、その敗北は決して「惨敗」ではなかった。結成からわずか2ヶ月、練習環境も手探りの中で掴み取った「1勝」は、宇部という街から挑んだ彼女らのポテンシャルの証明でもあった。 「レベルの差は、確かにありました。でも、私たちがここにいる意味は示せたと思う」 選手たちの表情には、悔しさの奥に、自分たちが切り拓いた新しい道の感触が刻まれていた。

地域女子チャンピオンズリーグのD.S.Lind戦で得点を挙げ喜ぶ、吉本さん(10番)、窪田(9番)真鍋さん(14番)安田さん(15番)

2.再びボールを蹴るとき―3年の空白を超えて

チームが纏う空気の正体を知るには、一人の選手の歩みに触れる必要がある。キャプテンの真鍋亜也子。彼女の物語は、地方で競技を愛する女性たちが直面する「現実」そのものだった。

小学3年生、Jリーグ開幕の熱狂の中で兄の背中を追って始めたサッカー。かつては日常だったその光景は、高校卒業と同時に、彼女の前から姿を消した。宇部から福岡の専門学校へ進学し、選んだ職業は土日も仕事に追われる。スパイクはクローゼットの奥へ押し込まれ、追い打ちをかけるように椎間板ヘルニアが彼女を襲った。 「もう、二度と全力で走ることはないだろう」 そう自分に言い聞かせた、空白の3年間。しかし、地元に戻って選択したスポーツクラブでの勤務が、止まっていた時計の針を動かした。受付の窓越しに見える、ボールを追う子供たちの純粋な瞳。かつて自分が感じていた熱気やボールが芯を捉えた時の乾いた音が、彼女の内側で再び反響し始めた。

スポーツクラブに通う同世代の女性たちと、エンジョイ目的で結成したフットサルチーム。もちろん初心者も多かったが、ともにボールを蹴っているうちに、眠っていた思いが蘇り始めたのを感じた。結婚や出産によりメンバーが入れ替わり、チームとしての継続が困難になったことで、自身は競技志向のチームへの移籍も経験。そして2025年12月、現在参加しているチームの代表から誘いを受け、男子フットサルチームとして14年にわたって活動しているUBE UNITED PLASの女性チームとして発足したUBE UNITED PLASS Linoの創設メンバーとして加わった。

中学時代の山口県選抜。中国大会優勝時の写真。真鍋さんは最前列右から2番目

3.男子チームとのトレーニングで得るもの

UBE UNITED PLASS Linoの強さの源泉、そして同時に最大の悩みは、その特異な練習環境にある。山口県内には、真剣にしのぎを削り合える女子チームがほとんど存在しない。そのため、週2回の練習の大部分は、男子チームとともに行われる。メンバーは全員で11名。家庭や学業の都合で全員が揃うことはめったに無く、そんな中で、自分たちより、フィジカルもスピードも勝る練習相手が常にいることは、恵まれた環境と言えるかもしれない。

しかし、そこには競技者ならではの深い葛藤も存在する。 「男子と女子では、決定的に『間合い』が違うんです」 男子のスピード感に対応しようと体が覚えたタイミングは、いざ女子の公式戦に出た際、微妙なリズムのズレとなって現れる。一歩の踏み込みが深すぎたり、パスの出る一瞬の「溜め」が足りなかったり。そのズレをどう修正し、男子の強度を女子のリズムへ翻訳するか。 女子フットサルが決して盛んとは言えない地方ならではの環境こそが、彼女たちが乗り越えなければならない最大の障壁でもあった。

普段の練習は男子チームと合同で行う

4.全国で見た「頂点」との距離

金沢での地域女子チャンピオンズリーグの3試合。それは、急造チームが「全国の標準」を肌で知るための旅だった。 初戦は5-3で勝利。勢いに乗った時の攻撃陣の爆発力は全国でも十分に通用することを示した。しかし翌日の第2戦は1-3で敗北。チャンスを作りながらも、決定力の差と、一瞬の集中力の欠如が勝敗を分けた。そして、同じ日に行われた優勝チームとの一戦は、0-5で敗戦。 「何もさせてもらえなかった」という絶望。しかし、その時、真鍋らメンバーが感じたのは、不思議な清々しさだった。フットサル特有の緻密な戦術、ミリ単位で設計されたセットプレー、そして土壇場での個の質。それらすべてが自分たちの上を行っていた。 「私たちが目指すべき場所は、ここなんだ」 9人で戦い抜いた絆は、全国の洗礼を受けることで、より強固な「野心」へと姿を変えていた。

バルドラール浦安ラス・チュラス戦前の集合写真

5.2027年、山口が「聖地」になる日への誓い

「あと2年は、このチームにいてほしい」 チームの代表が真鍋に託したこの言葉には、重い意味が込められている。 再来年の2027年、山口県で地域女子チャンピオンズリーグが開催される可能性が高まっている。それは単なる一大会の誘致ではない。宇部という街に、女子フットサルという文化を根付かせるための、最大の勝負どころだ。

「来年、もう一度あの全国の舞台に立つ。そして再来年、地元の山口で結果を残す。そこが、一つの集大成だと思っています」 かつて女子サッカー部がなかったこの地で、孤独にボールを追った少女。彼女が今、後進のために「あそこに立ちたい」と思える憧れの場所を地元に作ろうとしている。自分たちが引退しても、少女たちが当たり前のようにボールを蹴り続けられる環境。そのための「2年」という猶予。真鍋の瞳には、一選手としての執着を超えた、次世代への責任が滲んでいた。

再び全国大会を目指し、男子チームと日々の練習に励む

6.選抜大会という「越境」の先に

2027年に地元で開催される地域女子チャンピオンズリーグまでのロードマップにおいて、直近の全国女子選抜フットサル大会は極めて重要な意味を持つ。 この大会は、クラブチーム単位ではなく、各都道府県ごとの選抜チームが結成され出場するため、普段サッカーを主戦場とする選手たちも名を連ねる。フットサルの緻密な戦術と、サッカー選手のダイナミックな推進力が混ざり合う「越境」の場だ。 「サッカーの選手はここがすごい、でも戦術面なら私たちは負けない。そのぶつかり合いと刺激が本当におもしろいんです」

異なるバックボーンを持つ選手たちと一つのボールを通じて対話することで、UBE UNITED PLASS Linoの選手たちはさらに進化する。選抜での経験を持ち帰り、チームの血肉に変える。その繰り返しが、来年の地域女子チャンピオンズリーグ、そして2027年の山口での大会へと繋がっていく。

全国大会での1勝2敗を「惨敗」ではなく2年後に向けての超えるべき「現在地」へと変えた彼女たちは、今、再び前を向いている。宇部の小さな体育館で、男子に混じりながらボールを追う彼女たちの背中を、この街に芽生え始めた確かな熱量が力強く押している。地域女子チャンピオンズリーグの後には、チームへの加入を検討している見学者も増えたという。2027年、宇部のピッチで最高の「光(Lino)」を放つその日まで、彼女たちの情熱が途切れることはない。宇部という街から、女子フットサルが当たり前に息づく「新しい文化」が、今、彼女たちの足元のピッチから確かに拓かれようとしている。

地域女子チャンピオンズリーグのナカスポ戦でシュートを放つ真鍋さん

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