回り道の人生 たどりついた「子ども最優先のサッカー指導」〜FORZA INTERNATIONAL田名部順一氏（前編）
サッカークラブFORZA INTERNATIONAL（以下FORZA）は2021年4月、愛知県名古屋市に発足した。“世界基準の育成”をテーマに掲げ、全員が試合経験を積むことのできる少人数制を採用。他クラブでは経験できない特徴あるサッカー環境を子どもたちに提供している。
FORZA 代表の田名部 順一氏が目指すのは、サッカーを通じた人材育成だ。未来を背負う子どもたちに、人生において重要な力を獲得できる場所を目指している。世界基準をテーマに掲げた一風変わったサッカークラブは、どのようにして誕生したのか？ 代表・田名部氏に話を伺った。
サッカーをあきらめ「ビッグになる」夢を追った青年時代
FORZA代表の田名部 順一氏はもともと、国体選手や県選抜に選出されるほどの実力を誇るサッカー選手であった。将来を嘱望され、プロへの道を考えたこともあった。しかし、高校卒業と同時にサッカーとは無縁の世界に飛び込み、新たな夢を追うことになる。
サッカーから離れた理由は、田名部氏のルーツを辿る必要がある。
田名部氏は幼少期に母親が再婚し、義理の父と母のもとで少年時代を送った。『自分の育ってきた家庭環境が大嫌いだった』と、田名部氏は少年時代を振り返る。
物心ついたときには父親という存在がいなかった田名部少年にとって、新しい父は突然現れた他人だった。受け入れることが、なかなかできなかった。
国体選手や県選抜に選ばれること自体は喜ばしいことであったが、義理の父と打ち解けられない中で、交通費等の費用面が気にかかるようになる。
家庭のことを気にかけながらやるサッカーは楽しくない。好きで始めたはずのサッカーが次第に嫌いになっていった。
『プロは目指さない。サッカーはここまでだ。』
人生の選択を迫られた高校卒業時、新たな世界に挑戦することを決断した。最初に飛び込んだのは芸能の世界。上京し、家族から離れる道を選んだ。その後は、飲食店の経営に転じ、実業家としての人生を歩む。
『お金持ちになってやる』『ビッグになるんだ』という野心を持って、日々働き続けた。1日20時間という驚異的な労働量をこなしていた時期もあったという。がむしゃらに働き、つかみ始めた事業者としての結果。しかし、あることをキッカケに自身の人生を見つめ直すことになる。
「まさか…」母との別れがターニングポイントに
上京してからも実家とは疎遠な関係が続いていた。しかし、この状況を変える機会がようやく訪れる。自らの結婚を機に、両親に胸の内をすべて打ち明けて和解を果たしたのだ。その後は、親子としての幸せな関係を手に入れ、新たな生活を歩み始めた。
しかし、そんな矢先、母のがんが判明。医師から余命2年を宣告された。田名部氏は当時を振り返り『頭が真っ白になったことを覚えている』と話す。
母に、まさかの余命宣告。命の大切さと向き合った田名部氏はこれまでの自身の人生を振り返る。
『好きなことばかりを追い求めてきた人生をここでもう一度やり直したい』
そんな想いが自然と湧き出てきたという。
人生をやり直す決意をした田名部氏。『闘病中の母を元気にしたい』という一心で、アーティストとしての芸能活動にも、命を支える食の関連事業にも、本当に必死に取り組んだ。そうすれば母はきっと治る。そう信じたかった。
しかし、母は医師の宣告通り、2年で他界してしまった。
「芸能も、事業も、自分はやり切った」。母の死で、そう思った。
母の病気と向き合い、“命の大切さ”を痛感した田名部氏が次に志したのは、次世代の子どもたちに夢を見させてあげることだった。
『俺はどうすれば、子どもたちに夢を、そして世界を見せてあげられるだろうか？』
思い浮かんだのは、学生時代に本気で打ち込んできたもの。そう、一度は嫌いになってしまったサッカーだった。
FORZA創設〜“大人の事情”より”子どもの成長“を優先したい
『高校卒業以来、ボールを蹴ることはなかったですね。』
サッカーからはすっかり疎遠になっていた。しかし、自分の子どもがスクールに通いだしたことがきっかけで、再びサッカーとの接点が生まれた。
常に挑戦をし続け、ステップアップしてほしい。そんな想いを胸に、息子や所属チームの成長を見守るようになった。
しかし、田名部氏は次第に子どもたちを取り巻く指導環境に、課題を感じるようになった。それは、『やってみたい！挑戦したい！』という子どもの純粋な想いを受け止め切れる環境が作れていない、ということだった。
例えば、人数制限。子供の希望があっても「人数の都合上セレクションを受けさせることはできない」と指導者が判断する。高いレベルでサッカーをしたいという子どもの夢が奪われてしまう。優先されていたのは大人の事情だ。そんな環境を変えられない自分に、徐々にもどかしさを感じるようになる。
『自らの手で子どもたちの指導環境を変えたい』
あふれでた強い意志。ついにFORZAの設立に踏み切る。15年以上離れていたサッカーの世界で、夢と希望に満ち溢れる子どもたちと成長していくことを決意した。
後編に続く
（取材/文：西口遼）
