サッカー×農業!? 異業種の連携で目指すスポーツの理想形(前編)


現役Jリーガーながら、様々な気付きを元に一般社団法人F-connectを設立した小池純輝選手(東京ヴェルディ)。そして「スポーツがあって良かった、社会を創る」を理念に掲げ、2014年に株式会社I.D.D.WORKSを立ち上げた三橋亮太氏。多角的な選手のサポートはもちろん、地方創生――中でも農業に力を入れ、活動している。
同じ1987年生まれの同学年でもある2人が今回タッグを組み、長野県飯綱町で農業でまちおこしをしていく「エフコネファーム」の活動をスタートさせる。そんな2人に設立のきっかけやサッカーと農業のような異業種がもたらす可能性について話を伺った。

■ 真摯に向き合う姿勢がコラボレーションのきっかけに

エフコネファームの活動をスタートした梶川選手(左)・三橋氏(中)・小池選手(右)

――まずはF-connectの活動内容を教えてください。
小池:7名のプロサッカー選手と1名のOBをあわせた8名で活動をしています。理由があって親元を離れた子どもたちが共同生活をしている児童養護施設に訪問をして実際に触れ合い、その子たちをスタジアムに招待をすることが主な活動です。その他にも自分たちがどのように夢を抱いたか、夢の途中での挫折や困難をどのように乗り越えてきたかを伝える「ユメイク」という活動を昨年からスタートしました。

――それではI.D.D worksの事業内容もお聞かせください。
三橋:まずは社名の由来から説明させていただきます。「I.D.D」はカッコイイ横文字だと思われがちなのですが、「いつでも・どこでも・誰とでも」の頭文字を取っています。元々私も1年間だけサッカー選手だったのですが、そこまで試合に出られるような選手ではありませんでした。一緒に会社を立ち上げることになる当時の先輩選手から「スポーツ選手は色眼鏡で見られやすいから『いつでも・どこでも・誰とでも』仕事をさせてもらえるような人でいなければいけない」と言われていました。なので会社を立ち上げるときにそういうことを大事にして、スポーツを通じて「いつでも・どこでも・誰とでも」仕事をさせてもらえるように事業をやっていきたいと思い、この社名しました。
事業内容は大きく分けて3つあります。1つ目は「PLAY MAKER(プレイメーカー)」というサッカー選手と選手を探しているクラブ出会うことのできる情報プアラットフォームサービス。スポーツ界の属人的な流れをもう少しスマート化できるようなサービスを提供したいと思い、選手とクラブが繋がることができる機会を作っています。
2つ目は長野県で生産と販売を行うザ・農業です。社員のアスリートと一緒に本気の農業をやっていて、日本一おいしい白菜とトウモロコシの生産と販売を行っています。
3つ目は長野県飯綱町で、廃校になった場所をスポーツを通じていきがいや新しい命を芽吹かせるということを大事にしながら事業を行っています。主には廃校になった施設内でのジムの運営や地域の特性を生かした事業開発です。

――お二人の共通点として“サッカー”がありますが、これから始まっていく「エフコネファーム」について、事業開始のきっかけは何だったのでしょうか?
小池:僕たちは同い年なのですが、最初は自主トレキャンプだよね?
三橋:そうそう。
小池:日本プロサッカー選手会の自主トレキャンプを沖縄でやっている時期があって、そこに三橋さんが視察で来られていたのが最初の出会いです。同い年ということもありお互いに連絡を取り合い、事業についても話していました。昔、人参のヘタを皿の上に置いて、水をあげて伸ばしていったり、サツマイモを育ててみたり…うまくはいかなかったのですが、そうした経験があったのでシンプルに農業に興味がありました。またアスリートと食はすごく密接な関係だと思っています。食について気にしていない選手はいないと思いますし。その中で三橋さんが作っているトウモロコシが本当においしくて。その感動が経験として残っていて、「何かできないかな」とずっと気にはなっていました。
現在の東京ヴェルディの前は愛媛FCに所属していたのですが、知り合いの方のお母さんが畑をやられていて、その方に「畑をやってみたいです」とお願いをしました。2畝とすごく広かったのですが、実際に雑草を引く作業や収穫をしたり、地域の方々とご飯を食べたりしました。そこで知らないおじさんと仲良くなったり(笑)。
三橋:地域あるあるだね(笑)。
小池:その経験がすごく良かったです。スーパーで買う野菜と自分で過程を見てきた野菜はやっぱり違うもの。その中で地域の人との繋がりなど、どんどん新しいものが生まれる、新しい発見がある。そういう経験や体験に価値を感じました。これは素晴らしいし、今後やっていきたいと感じたので、三橋さんにも話をしていました。そこで何か一緒にできるきっかけがないかなと感じていて、このタイミングでご縁をいただきました。

――なるほど。少し話は前後してしまいますが、自主トレで初めてお会いしたのは何年前ですか?
小池:何年前だろう…。結構前だよね?
三橋:5、6年前かな? 僕はいまだにそこでの衝撃を覚えているのですが…。小池選手は同い年で早くから活躍していたことを知っていたので、僕はファンに近い感じだったのでそのときは話しかけなかったんです。でも何かのタイミングで小池選手が連絡先を聞いてくれて。いまだ鮮明に覚えていますが、小池選手から「農業について教えてほしい」と連絡をもらって、鼻血が出ました笑
小池:笑。
三橋:「『教えてほしい』って連絡きちゃった」みたいな感じで。すごくインパクトがありました。ただ農業を事業として行っていて、厳しさも知っています。軽い気持ちだとどんなにすごい選手に対しても馴れ合えないと思っていました。1回、ジェフ(ジェフユナイテッド市原・千葉)にいるときに蘇我で会ったよね?
小池:うんうん。
三橋:そのときに「シンプルに農業を教えてほしい、学びたい」という姿勢で話をしてもらって、僕も教えることなんて出来るレベルではまだまだないのですが、それなら一緒にやってみるであればできそうだなと思って。当時からスポーツと農業をどう絡ませるかの構想を話されていました。そこで小池選手なりの農業に生かし方を考えているんだなと感じ、話をしていてすごく楽しかったです。何よりも出会ってから5年間、小池選手が真剣に農業と向き合っている姿を見せてくれて、それこそが一緒にやろうと思えた部分であって、愛媛に行けば自分で農家を探してやっていましたし、「今、どんなことをやっているの?」と連絡をくれたり。その姿勢が5年間あったからこそ、一緒に畑をやらせてもらいたいな、思わせてもらったことが今回の取組の大きなきっかけです。

――ですが、小池選手との出会いの中でまさか農業のことを聞かれるとは、三橋さんも思われていなかったですよね?
三橋:鼻血が出た原因ですね(笑)。

■ サッカー×農業が選手のキャリア形成を考える契機にしたい

活動の一環で畑を耕す梶川選手(左)・小池選手(右)

――キャリア形成をしていく上で農業を志そうと感じたのですね。
小池:そうですね。当時は農業についてそこまで考えていなかったのですが、畑を運営することに漠然と興味があって。でも知識がなかったので、実際にやられている方の話を聞くことが分かりやすいというか大事だと感じました。なおかつサッカーのことを理解してくれている三橋さんに相談をしたということです。

――そういう意味では運命的な出会いだったかもしれませんね。お二人とも農業に興味があったということですが、どうしてサッカーと農業だったのでしょうか? 他の事業でもお二人であれば事業展開できたと思うのですが。
小池:確かにそうですね。三橋さんがすでに農業をやられていた、そして僕が興味があったので取り組んでみたかったところが一番です。あとは長野県でやっているところもヒットしました。F-connectは「フットボールが繋げる」をコンセプトにしているので、繋がりや触れ合いもすごく大事にしています。実は長野県は父のふるさとで、子供のときは夏休みには毎年行っていました。今も祖母やいとこ、親戚が長野に住んでいるので、自分のルーツがある地でできるということは魅力的でした。

――お二人が始められる農業もそうですが、今後選手は引退後の選択肢が増えてくると思います。エフコネファームではどのように運用していきたいですか?
小池:F-connectとしてはシンプルにおいしいトウモロコシを作りたいという思いがあります。僕自身が愛媛で経験をさせてもらった食べ物が作られる過程、人との触れ合いという経験にすごく価値を感じたので、そういうことを提供できる存在でありたいなと思います。あとは自分たちで運営できるようになってくればどうしても人手が必要。そういうときに地域の人に入ってもらったり、F-connectで訪問した児童養護施設の子どもたちに作業に入ってもらったり。その先に「ここで働きたい」と言ってくれる子供も出てくるかもしれないですし、そういう場になってほしいなと思います。
三橋:先ほど「なぜ農業だったのか」という質問がありましたが、僕もシンプルに農業に興味があり、好きになったということでしかありません。それに加えて、食べることを通じて夢を与えられるのはすごく素敵だと感じました。いろんな職業や役割がある中、食べることは誰もがしますよね?その食べる時に価値を提供できるようになれば、作る人も食べる人もとっても豊かになると思うんです。そういった時その役割をスポーツに携わる人が担えたら素敵だなと。「あの野菜はあのかっこいいお兄ちゃんお姉ちゃんが作った」「それでいてこんなに美味しい」「野菜の感想を伝えに応援に行こう」そういった機会は農業だからできることで、そこにスポーツと農業の相乗効果のポテンシャルを感じています。
今後の展開としては、まずスポーツ選手がキャリアを考えるきっかけになってくれたらうれしいです。小池選手に体験してもらいましたが、10年後に専属農家になってほしいということではなく、小池選手が農業をして「楽しい。一歩踏み込んでやってみよう」と思ってもらうことが大事。違う分野に足を踏み入れる、体験してみるということがキャリア形成の大きな一歩になります。
その一つとして地域の地場産業を担っていくことに繋がります。幸いにもスポーツチームは全国各地にあって、特にサッカーはどのスポーツよりも地域におけるブランドロイヤリティが確立できています。そういったサッカーチームが各地の地場産業を継承し、選手のキャリア形成ができれば「スポーツがあって良かった」と思われるような形になっていくと思います。

――「スポーツで社会を創る」ということですね。
三橋:スポーツで社会を創る、ではなくて「スポーツが社会の中で『あって良かった』を一つでも多く創る」というイメージです。スポーツが特別なわけではなく、他の産業と全く同じで、どうあることで社会の中で役に立てるかでしかありません。 今回のケースで言うと農業という人の喜怒哀楽に寄り添える、日常的に自分たちが体験できるようなことにアスリートの付加価値を転嫁し事業展開ができれば、アスリートも自分が培ってきたことを生かせるようなキャリア形成ができ、地域の貢献もできます。食べる人が選手の応援もできて、おいしいものも食べられるし、子ども益々元気になるという三方良しの仕組みを作ることがこのモデルではできるのではないかと思っています。
あとは循環型の社会を作っていけるかを私たちは地場産業を通して挑戦していきたいと考えています。アスリートがプロになってもなれなくても、「スポーツをやってきて良かった」と思えるようなキャリアを現役が終わった後も描けるような付加価値の高い仕事の一つとして農業に目を向けてくれるような取り組みができたらと思っています。

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