「満塁男」東海大・東海林航介、打撃フォームを変えて絶好調!
毎週末、熱戦が繰り広げられている首都大学野球春季リーグ戦。大学に入学したての新戦力、オフに力をつけて初のメンバー入りを果たした上級生、変わらず活躍を続ける不動のレギュラー。学年が変わり新チームとなって戦う春は、一戦ごとに「これが今年の俺たちだ」と見せつけるかのようにまとまりが増していく。
日替わりでヒーローが出ている各チームだが、東海大の野球を盛り上げているのは「満塁男」東海林航介外野手(3年・星稜)だ。今季、レギュラーに定着した東海林の変化を追った。
満塁で結果を出す男
デジャヴだろうか。無死満塁、高めのストレート、ライト方向の打球。初めて彼を取材をしたときも、確かこんなシチュエーションで適時打を打っていたはずだ。
急いで過去の記録を確認してみると、東海林が2年生だった昨秋9月19日の桜美林大戦、9回無死満塁で打席に入り、フェンス直撃の右越適時打を放っていた。フェンスを越えるかというほど勢いのある打球が跳ね返り単打となったが、2-4と2点ビハインドだったチームに1点をもたらした。次の打者のゴロの間に同点となり、東海大はこの試合を引き分けで終えることができた。
1年秋(春は新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止)には1番・センター、ライトなどでスタメン出場していたが「体の線が細くて振り負けていました」と、その後はなかなか出番がなかった。
2年秋、やっと訪れた代打出場のチャンスで結果を残した。「代打(でしか出場できないの)は嫌ですけど、あの場面で監督と目が合って『おう、いけるか?』『いけます』と。いくしかないなって思って」。
自分の強みについて「チームを勢いづけるバッティングです。性格的な部分もあると思うんですけど、そういう立場だと思います」と力強く話していた東海林だったが、その後の出場機会ではなかなか安打が出ず、一冬を越えて3年の春を迎えた。
開幕戦、メンバー表には東海林の名前があった。5番・センターでのスタメン出場。リーグ戦序盤は四球での出塁が多く派手な活躍はなかったが、試合を重ねていくごとに安打での出塁が見られるようになってきた。
そして、4月23日の帝京大戦。0-0で迎えた4回表、昨秋と同じ無死満塁で打順が回ってきた。「高めを狙って、犠飛でもいいからとにかく外野に飛ばそう」という意識だった。狙っていた外角高めのストレートにバットを振り抜くと、打球は右翼手が後方に伸ばしたグローブに一度触れて落ちた。東海林は二塁ベース上で両腕を突き上げていた。
チャンスより打点
東海林の2点適時二塁打で勢いづいた東海大は得点を重ね、6-1で帝京大に勝利した。試合後、東海林は先制打の場面を振り返り「満塁だったので楽な気持ちで入れました」と言った。
満塁の場面こそ緊張しそうなものだが、東海林にとっては過去の成功体験から満塁の方が「いける」という気持ちになるそうだ。オープン戦でもランナーのいる場面で結果を残してきた。開幕してしばらくは緊張や疲れもあり、自分の感覚と実際の動きに違いが出てスイングにばらつきがあったが、試合と練習をこなしていく中で自分のスイングができるようになってきた。
「今日のヒットはまだダメです。自分的にはまだまだ上がれるので。自分の正しい動きができれば絶対打てると思っています」
そう言い切った東海林は、翌週4月30日の桜美林大戦で、さらなる結果を出した。両チームまだ得点がないまま迎えた3回表、東海大の攻撃で満塁の場面が訪れた。バッターボックスに向かったのは東海林だ。変化球をとらえると、打球はフェンスを越えてグランドスラムとなった。 東海林は、さらに犠飛と適時二塁打を打ち、この日の試合で6打点を挙げた。
昨年のシーズンが終わってから、バッティングを変えようと新しい取り組みを始めた。「去年、オリックスが優勝したじゃないですか。そのときの4番バッター、杉本裕太郎選手がやっていた打ち方をやろうかなと、本当に外国人に近いような打ち方を意識して取り組みました。 SNSでたくさん練習方法が載っているので自己流で。見た目はアッパースイングだと思うんですけど、ダウンスイングくらいの意識です。言葉にするのは難しいんですけどね。森下(晴貴外野手/2年・東海大菅生)と一緒に練習しています」。
東海林がその打ち方になってすぐに結果を出すと、周りも真似をするようになったという。「僕のおかげで」と真顔で言い放つ東海林だったが、一緒に練習している森下も下級生ながら試合に出ている。
首都大学野球リーグでは学生たちの力で試合をLIVE配信しており、実況・解説も学生が行っているが、東海大の解説者も、最近東海大野球部ではオリックス・杉本が使用するバレルバットでトレーニングすることが流行っているという話をしていた。
どんなフォームが合うかは人それぞれだが、東海林の活躍がチームを動かしているというのはあながち間違いではないかもしれない。
その東海林がチームを盛り上げてくれる大切な存在として挙げているのが、石田隆成内野手(3年・東海大菅生)だ。「まだひとつになり切れていない部分があったり、後半になるにつれて気が抜けちゃうときもあると思うんですけど、そこは石田が本当に声を出して盛り上げてくれているので助かります」。小柄なスイッチヒッターで、今季はセカンドを守ることが多い石田の「声」にも注目だ。
星稜高校の1番打者、仲間の背中を追って
明るくて人懐っこい。相手に合わせるところは合わせ、主張するところはしっかりする。コミュニケーション能力に長けていて、老若男女誰とでも上手に会話ができるタイプだろう。
夏の甲子園で準優勝もした星稜高校時代はヤクルト・奥川恭伸投手、巨人・山瀬慎之助捕手、今同じリーグで戦っている筑波大・大高正寛内野手などと同期で、1番打者として活躍。昨秋の取材では、そんな当時のチームメイトについても、たっぷりと話してくれた。
「プロデビュー戦を観に行って、やっぱり奥川でも打たれるんだなと思ったんですけど、2年目になってしっかり修正してもう7勝(9月19日の時点で)もしていて、さすがだなと思います。奥川は、高校時代から常に上を目指していて、常に何事も自分の成長に繋げる。高校ナンバーワン投手とも言われていましたが、そのおごりはなかったです。結構ネガティブでダメだダメだと言っていて、そういう気持ちがあいつの闘争心に繋がっているのだと思います。3年間一緒にいて刺激のあることばかりでした」
そして、彼らを追ってプロ入りを目指すかを問われると「奥川、山瀬と1個下の内山(壮真/ヤクルト)もプロに行っているので負けたくない気持ちはあるんですけど、一緒にプレーしていると勝てないなという部分がありました。でも自分も、これは負けないぞというところもあったので、上の世界で戦えるように残り2年間頑張っていきたいです」と現在地を見据えた。
それから半年が経った今、東海林の現在地は間違いなくそのときより高いところにある。取材の最後には「まだまだこれから頑張ります。またよろしくお願いします」と、人懐っこい笑顔を見せた東海林。その笑顔の裏で、今後はどんな取り組みをしてどう成長していくのか。その過程を見逃すわけにはいかない。