消えぬ“きらやか魂” 再任の主将と新任の副主将が「明るく、楽しく」を掲げる理由
創部4年目を迎えた山形市の硬式野球クラブチーム「B-net/yamagata」。今年は主将に新井諒選手(30)、副主将に林弘樹選手(34)が就任した。新井は創部初年度以来2度目、林は初の就任だ。新体制を敷いたチームの「表のキーワード」と「裏のキーワード」に迫った。
現状打破へ、主将・新井諒と副主将・林弘樹の新体制発足
明るく、楽しくやろう――。新井は新体制発足後、ミーティングで口酸っぱくそう伝えてきた。これが「表のキーワード」だ。
「初年度は僕がまとめなくてもみんなが同じ方向を向いて、大会を楽しみにしながら練習ができていたので、楽でしたし、キャプテンをしている感覚はありませんでした。ただ、メンバーの入れ替わりが進んだ2、3年目は若い選手が気を遣っている様子が目立って、ピリピリした雰囲気も漂っていた。もう一度チームの雰囲気を作り直そうと、冬場から『明るく、楽しくやろう』と意識的に口にしてきました」

B-net/yamagataは、2022年9月に無期限休部を発表したきらやか銀行硬式野球部のメンバーが中心となって発足したチーム。創部2年目以降はきらやか銀行時代を知る選手が徐々に減り、新戦力が続々と増えてきた。
それ自体はチーム名の由来である「Baseball-network」を体現しており、好ましいことだが、一方で初年度に自然と生まれた一体感は時間の経過とともに薄れつつあったという。林も「新しい選手が増えるのは良いことなのですが、B-netの創部初年度からいる選手と新しく入って来た選手との間に、壁とまでは言わずとも目に見える距離感がありました」と証言する。
実際、成績の面で見ても直近2年間は苦戦を強いられており、昨年は全日本クラブ野球選手権の第一次予選山形大会で敗退を喫した。新井は現状を変え、クラブチームならではの「明るく、楽しく」野球をする空間を作り出すべく奔走中。それでもなお悩んでいる選手がいれば、役割を与えたり、個人LINEで「いてもらわないと困る」などとメッセージを送ったりして鼓舞する。林も一歩引いた立場で全体を見渡しつつ、若手選手とも時に冗談を交えながら明るく接してメリハリのある環境を醸成している。
正式な解散発表も…消えないきらやか銀行への「感謝と愛」
「裏のキーワード」は、きらやか銀行時代を知る選手たちがたびたび発する「きらやか魂」という言葉。新井と林は休部後にいずれも転職しているが、長年在籍し、4年前に突如として失ったきらやか銀行硬式野球部への思いが消えることはない。
今年5月には正式に解散が発表された。新井は「正直、復活するとは思っていませんでしたが、その可能性が0.01%でもなくなったということで寂しい気持ちになりました」と胸中を明かす。

ただ寂しさはあれど、その感情はプラスに働いている。新井は「表で言葉にすることはありませんが、このチームの芯になっているのは間違いなく『きらやか魂』。きらやか銀行には感謝と愛があります。チームがなくなる悔しさや悲しさを知るメンバーと『B-netで頑張ってよかった』と喜びを分かち合いたいです」と強調する。散り散りになったかつてのチームメイトや、会うたびに涙を浮かべながら謝ってくれる川越浩司・元頭取に「もう一回活躍する姿を見せたい」とも力を込めた。
思いは林も同じ。「今、こうしてB-netで野球ができているのは、きらやか銀行硬式野球部に入部させていただいたから。きらやか銀行あっての今です。きらやか魂を胸に、感謝を忘れずにプレーして、当時から応援してくれている方々に良い報告をして喜んでもらいたい」。休部後、一時は地元の埼玉に戻ることも考えた。それでも最終的に山形で働きながら野球を続ける決断を下したのは、この地でやり残したことがあるからだ。
「きらやか魂」は胸にしまい一体感醸成、全員で目指す勝利
「きらやか魂」はB-net/yamagataの若手選手とは共有しない。ミーティングできらやか銀行硬式野球部に関する話題を出すことも一切ない。新井は「あくまでも自分たちの中で持っている思いであって、それを伝えると変に重荷になってしまう。チームの思いとは別物と考えています」とその意図を説明する。
とはいえ、チームが二分することはなく、初年度のような一体感が再び生まれている。新井は仕事や育児の合間を縫って自己研鑽を積んでおり、日付が変わる間際まで体育館で練習する日もある。その場に若手選手も同席するのは日常茶飯事で、後輩たちが頼れる主将についていく健全なチーム運営がうかがえる。

「勝ちたいと思ってB-netに入って来てくれている、志の高い子ばかり。だからこそ勝ち続けないといけないし、勝つためには明るく、楽しく野球をすることが大切です」。企業チームと比べて金銭的な負担が大きく、仕事や家庭との両立がたやすくないのがクラブチーム。犠牲を払ってでも白球を追う「同志」に、年齢や経歴の違いは関係ない。
全国大会初出場へ「野球を心底楽しんでやれば絶対に勝てる」
6月18日からは都市対抗野球第二次予選東北大会、7月3日からは全日本クラブ野球選手権第二次予選東北大会に臨む。全国大会への切符を懸けた熱戦が立て続けに幕を開ける。
新井が「試合が待ち遠しく、前の日にワクワクして寝られないというのは企業チームの頃はなかった」、林が「一つの大会にかける思いがより一層強まってきている」と話すように、ベテラン選手は年々、真剣勝負を楽しめるようになってきた。企業チームと戦える都市対抗二次予選は尚更だ。

そして今年は第50回を迎える全日本クラブ野球選手権にも照準を合わせる。「めちゃくちゃ気合いが入っています。僕らも良い歳なので、狙うなら今年。死に物狂いで(代表権を)取りにいきます」とは新井。林も「クラブ選手権初出場を決めて東京ドームで試合をするという目標をぶれずに掲げてきた。是が非でも叶えたい」と意気込む。
「野球を心底楽しんでやれば絶対に勝てる。楽しく頑張ります」(新井)。二つのキーワードを原動力に再始動したB-net/yamagataが、新たな歴史の第一歩を踏み出そうとしている。
(取材・文 川浪康太郎/写真 B-net/yamagata提供)

