「いつ野球が終わってもおかしくない」 七十七銀行のルーキー・後藤佑輔が鮮烈デビューに満足しないワケ

大学4年間で大きく成長を遂げた左腕が、社会人野球の舞台でも輝きを放っている。七十七銀行の後藤佑輔(22=東北工業大)。1年目ながら早くも先発の軸を担っており、JABA大会では強豪の企業チーム相手に好投を続けた。地元・宮城でカテゴリーが上がるたびに進化した姿を見せる後藤の現在地を探った。
大学でブレイク果たし、地元の企業チームへ
宮城県塩竈市出身の後藤は県内の強豪校・仙台育英で高校時代を過ごした。当時は本人いわく「下から数えた方が早い」投手。同期に入江大樹(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)らがいる代の中では目立たない存在で、公式戦の登板はわずか1試合だった。

一時は「野球は高校まで」と考えるも、東北工業大で競技を継続。大学では1年春からリーグ戦に登板し、3年時にエースの座を確固たるものとした。春秋全節で第1戦の先発マウンドを託され、春は3完投2完封で3勝、リーグトップの45奪三振をマーク。秋も2勝を挙げてチームをAクラス入りに導いた。
4年時も高校時代の最速を10キロ以上上回る146キロを計測するなど進化を続け、秋にはこの年の全日本大学野球選手権に出場した強敵・仙台大を相手に164球完封勝利をやってのけた。大学での活躍が評価され、地元の企業チームで野球を続ける道が開かれた。
JABA大会で好投、「低めに投げる練習」が転機に
社会人に進んで初めての公式戦登板はJABA長野大会の東海理化戦。勝ち星こそつかなかったものの、先発して6回7奪三振3失点と試合をつくった。直前の関東遠征では大量失点を喫するケースが多かっただけに、自信を得る登板となった。
JABA東北大会では初戦の日本新薬戦に先発し7回途中5奪三振1失点と好投。大学では制球を乱すことも少なくなかったが、この日は無四死球だった。さらに伏木海陸運送戦では救援登板し、5回3分の1を5奪三振無失点。チームの決勝トーナメント進出に大きく貢献した。

後藤は「正直、あまり試合に出られないであろう1年目はトレーニングに励もうと思っていました」と話すが、チーム内に怪我人が続出したこともあって早い段階からチャンスが巡ってきた。そしてそのチャンスを見事ものにした。
飛躍のきっかけは鈴木貴也コーチのアドバイス。もともとボールが高めに浮くのが課題で、関東遠征でも高めの球をことごとく打ち返されていたが、鈴木コーチが現役時代から採り入れていたという「低めに投げる練習」を繰り返すと安定感が増した。試合でも「コースに投げ分けるというよりは、全体的に低めにアバウトに投げる意識」を持ってマウンドに立っている。後藤は「低めに投げきれるようになったのが打者を抑えられている一番の要因だと思います」と胸を張る。
「まだまだ未熟」都市対抗予選で浴びた洗礼
都市対抗野球大会第一次予選宮城県大会では社会人の洗礼も浴びた。6月2日、昨年の都市対抗で準優勝したJR東日本東北との一戦に先発。序盤から毎回のように走者を背負いながらも大崩れすることはなく、6回までは7奪三振2失点と粘投した。
しかし同点の7回、安打と四球で1死一、二塁のピンチを招くと、4番の強打者・丸山大(26=亜細亜大)に特大の決勝3点本塁打を献上。この日、要所で冴えていたスライダーが、ここぞの場面で抜けた。直後に投手交代を告げられた後藤は悔しそうな表情を浮かべながらベンチに戻った。「最悪なかたちで点を取られてしまった。あそこを抑えられていたら味方の攻撃につながっていたと思うので、悔しいです」。試合後はそう振り返り、肩を落とした。

後藤はさらに「課題はやっぱりメンタルですね。都市対抗につながる試合ということでJABA大会よりもプレッシャーを感じてしまった。まだまだ未熟です」と自己分析した。投げ合ったJR東日本東北の先発・竹本祐瑛(26=駒澤大)と自身を比較し、「竹本さんが余裕を持って淡々と投げているのに対して自分は慌ただしかった」とも話した。
大学で仙台大や東北福祉大の強力打線と何度も対峙しメンタルは鍛えられたはずだが、「怖いバッターが多い」と感じる社会人野球は一味違う。課題を再認識させられる都市対抗予選デビューだった。
「毎日やることだらけ」課題と向き合う日々は続く
「ここから先は結果が出なければ降ろされる、いつ野球が終わってもおかしくない状況になる」
後藤は大学4年の秋、そんなことを口にしていた。厳しい世界だと分かっているからこそ、現状に満足せず、常に課題と向き合う。「毎日やることだらけです。フィールディングの面など、詰めるべきところはたくさんあります」。JR東日本東北戦の後もすぐに気持ちを切り替え、次の練習のことを考えていた。

「(第二次予選東北大会では)あわよくばJR東日本東北と当たって、リベンジして第1代表を勝ち取りたい。都市対抗に出て、1試合でも多く抑えたいという気持ちが強いです」と後藤。高校、大学では立てなかった全国の舞台に立つ日はそう遠くないはずだ。
(取材・文・写真 川浪康太郎)