“グリーンリボンライダー”は、ジャンボ鶴田さんの思いも背負って走り続ける
“Team Green Ribbon Rider(以下グリーンリボンライダー)”は、日本移植支援協会と共にレース活動を通じて臓器移植啓発とマイナンバーカード・マイナ保険証推奨を行っている。事故が脳死に直結する可能性が高いレーサーだからこそできる“社会貢献活動”の意義は大きい。
“グリーンリボンライダー”は、7月19日『2026もてぎ7時間耐久ロードレース”もて耐”』(モビリティリゾートもてぎ・栃木県)にWTクラス(Honda CBR250RR)で参戦。レース内容だけでなく多くのインパクトを残した。

~“グリーンリボンライダー”は選択肢を増やす活動
「ライダーにとって臓器移植に関する意思表示をするのは、非常に複雑な思いがあります」と“グリーンリボンライダー”のチーム代表ライダー・酒井勇一氏は率直な思いを聞かせてくれる。
「僕自身、レーサーになる前の若い頃は無茶な運転をしたこともありました。走っていて転倒したこともあります。それでも、『俺が死ぬわけがない』と思ってバイクに乗り続けていたのを覚えています」
酒井氏は1965年生まれ、1980年代の“バイクブーム”世代に当たる。「レースに出たくても参加希望者が多くて出られなかった時代」と振り返る。
「レースに出られないライダーは山の峠を走ったりしていましたが、事故で命を落とす人もいました。もちろんサーキットで亡くなる人もいて、そういう情報も得ていました。それでも、『俺は大丈夫』と思って走っていました」
「若気の至り」で勢いに任せた運転をした時期もあった。そこから年齢を重ね、仕事や家族の存在もあって考え方に変化が出てきたという。
「『有事の際に何ができるのか?』を考えるようになった。仮に事故が起きて脳死状態になってからでは、何の意思表示もできません。前もって準備できていれば、役に立てることも出てくるかもしれないですから」
「『事故ると思っているのか?』と周囲から怒りをぶつけられたこともあります。(移植を)やる、やらない、は別にして、選択肢を増やすための活動だと思っています」と笑顔で付け加えてくれた。

~ジャンボ鶴田と風間深志、レジェンド2人の存在
酒井氏が日本移植支援協会と関わり始めたのは、今から10年ほど前のことだった。普及イベント等を手伝い始め、バイクとの繋がりも再び始まった。
「同級生の皆木栄人さんが福岡でRSGというバイクショップをやっています。『鈴鹿8時間耐久レース(鈴鹿8耐)参戦を2015年からの3年計画で目指している』ということ。日本移植支援協会を手伝うなか、『レースを通じて社会貢献活動もしよう』となりました。“グリーンリボンライダー”の始まりです」
RSGレーシングは2015年の鈴鹿8耐に参戦、その活動は大きくメディア等に掲載された。その後2016年は不参加も、2017年はRSGレーシングと共に、カワサキの有力チームRS ITOHが“グリーンリボンライダー”として参戦した。
そして、「プロレスラー・ジャンボ鶴田さんとの不思議な縁にも巡り会えた」と続ける。2000年5月に亡くなった鶴田さんは、生前に『ジャンボ鶴田基金』を設立して移植患者に向けたサポート活動を行っていたことでも知られる。
「うちの父親がバイク界のレジェンド・風間深志氏と知り合い、挨拶に伺った。『鶴田さんが日本移植支援協会を応援してくれていた』とお話しすると、風間さんと高校(山梨・日川高)の同級生だとわかった。『全面的に協力する』とサポートを約束してくれました」
2000年に立ち上がった日本移植支援協会にとって鶴田氏の存在は大きかった。「臓器移植は最後のボランティア」という鶴田氏の言葉を今でも大事している。「鶴田さんのおかげで、風間氏をはじめバイク業界への太いパイプができました」と回想する。

~臓器移植に対する明確な意思表示を求める
当初は“グリーンリボンライダー”プロジェクトを手伝う形だったが、周囲からの勧めがあって酒井氏自身もレーサーとして参戦することとなった。
「バイクが好きなので、『身体が元気なうちはやります』と現場復帰しました。しかし、考え方は若い頃と全く異なります。“事故”と“死”の存在を、しっかりと受け止めてバイクに乗るようになりました」
「バイクから離れた要因は、F1におけるアイルトン・セナの事故死(1994年サンマリノ)。家族のことも考えてバイクに乗るのを止めました。現場復帰に当たり臓器移植に関する統計資料も読みましたが、ライダーが脳死になる確率は非常に高いことを実感しました」
「臓器移植への認識を強め、家族とも話し合って復帰しました」と語るように、葛藤も多くて簡単なことではなかった。
「2輪(バイク)はさらに脳死に直結しやすいので、覚悟を持ちレース参戦しています。『何かあった時に少しでも他の方々の役に立ちたい』と思い、早い段階に臓器移植の意志を固めました」
RSGレーシングチームに関わるようになった当初から、ライダー達に臓器移植の意思を尋ねてきた。「強制ではなく、意思を表示して欲しいということです」と強調する。
「死生観や宗教もあるので、考え方は人それぞれです。大事なのは『臓器移植に対する明確な考えを持って欲しい』ということ。『家族やチームともしっかり話し合い、有事の際にどうするかを考えて欲しい』と伝えています」

~臓器移植を多くの人に知ってもらい身近に感じて欲しい
「臓器移植を身近に感じてもらいたい」と語るのは、“グリーンリボンライダー”の運営全般を担う株式会社DEPARTURE・武藤淳氏だ。
「僕自身はバイクに乗らないので、ライダーの方の気持ちは正直わかりません。しかしバイク事故によって“死”に至るケースが多いのは理解しています。『我々に何ができるか?』を常に考えながら、“グリーンリボンライダー”プロジェクトに臨んでいます」
“グリーンリボンライダー”に関する広報活動を行うと共に、グッズ製作もするなどして知名度の普及を図る。またレース会場を彩るレースクイーンの衣装や備品の準備等も受け持っている。
「“グリーンリボンライダー”の存在を広く知ってもらうことが、私の役目です。グッズ製作を行っているのも、バイクファン以外から興味を持ってもらえるようにするためです。レースクイーンを効果的に起用するのもその一環です」
株式会社DEPARTUREはアナウンサースクール運営や福祉事業が本業。多くの業界を股にかけた横の広がりを活用、“グリーンリボンライダー”の知名度を高めている真っ最中だ。
「“グリーンリボンライダー”を通じて、日本移植支援協会の活動を知ってもらいたい。臓器移植について考えるきっかけとなり、1人でも多くの人に意思表示をしていただければと思います」
“グリーンリボンライダー”はバイクレースだけでなくプロレス団体等とも協力、若い世代を含めた幅広い層への知名度アップを図っている。
「年齢が高くなるほど、臓器移植ができにくくなるケースも増えます。だからこそ若い世代に実情を知ってもらい、臓器移植への意思表示をしてもらいたい。まずは興味を持つことで、考えるきっかけになればと思っています」

日本における臓器移植待機患者数は3万人超と言われる。しかし臓器移植への意思表示をしているのは国民の約2割しかいないとされ、数多くの患者が移植を待ちながら亡くなる現実がある。「“グリーンリボンライダー”が少しでも力になれれば…」という思いは強い。
「強制ではなく、まずは臓器移植に関心を持ってもらい意思表示をして欲しいです」と2人は何度も口にする。
「Love,Thanks,Live」を掲げ、“グリーンリボンライダー”は走り続ける。ライダー達がバイクに乗る前に決めておくことを、我々も身近に感じて考えたいものだ。
(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:株式会社DEPARTURE)

