• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 西武が育てる「考える力」と「言語化能力」 獅考トレーニングが若獅子たちにもたらす成長の土台

西武が育てる「考える力」と「言語化能力」 獅考トレーニングが若獅子たちにもたらす成長の土台

現在パ・リーグで上位争いを繰り広げる埼玉西武ライオンズ。躍進の背景の一つには若手選手の活躍が挙げられる。

その台頭を支えている一つの取り組みが、球団が構築した「獅考トレーニング」。
今季ライオンズのユニフォームに袖を通したルーキー育成選手たちも一軍の舞台を目指し、このプログラムのもとで成長のプロセスを歩み始めた。

講義を通じて選手たちは「どんな選手になりたいのか」「そのために何を積み重ねるのか」を言語化し、練習や試合を通じて自ら描くプロ野球人生の青写真を現実にしようと日々奮闘を重ねている。

(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:球団提供)

主体性を育てるライオンズ独自の育成プログラム

獅考トレーニングは、主体性や言語化能力の向上を目的として2021年から続くライオンズ独自の育成プログラムである。

対象は入団1、2年目の選手。研修だけで終わるのではなく、グラウンドで実践と振り返りを重ねながら、一軍で活躍するための土台づくりを担っている。

昨季ブレイクした山田陽翔や今季支配下登録を勝ち取った佐藤爽、野手では滝澤夏央や長谷川信哉らも、このプログラムを経験してきた選手たち。

23年に人財開発兼育成担当としてライオンズに入団し、現在は三軍チーフコーチを務める青木智史氏は、この取り組みの核を「主体性」と「言語化」に置く。

「主体的に行動できる選手を育成することと、言語化能力を伸ばすことが大事です。自分がどうなりたくて、そのためには誰に相談してどう行動するのか。そこが明確な選手ほど成長していきます」

三軍の指揮を執る青木智史チーフコーチ

ライオンズには技術指導だけでなく、トレーニングやデータ解析・栄養など各分野の専門スタッフが揃う。しかしその環境を生かすには、選手自身が課題や目標を発信できなければならない。

「これだけサポート体制が整っていても、自分が何をしたいのかを発信できなければ活用できません。選手からの情報発信が増えれば、周囲もより良いサポートができます」

約100人の選手全員が成長できる環境をつくる。そのための最初のステップとして獅考トレーニングは位置付けられている。

シーズンイン後に目標設定をする狙い

今季の第1回は5月に実施された。例年より約1か月半遅らせたのは、キャンプや実戦を経験し自身の現在地を把握することで、より現実的な目標を描くためである。

講師を務めたのは、初年度からプログラムを担当するカルチャーデザイナー兼人財開発担当の坂田賢二氏。冒頭で、トレーニングの目的を選手たちへ明確に伝えた。

開始から講師を務めている坂田賢二氏(球団提供)

獅考トレーニングは全3回で構成され、第1回で目標設定・第2回で実践の振り返り・最終回ではシーズンを総括し、自身の成長を言語化して発表する。

前半では「考える→鍛える→試す→振り返る」という成長サイクルや、主体性の重要性について講義が行われた。

「皆さんはプロであり、一人一人が経営者です。周りにも皆さんを支えるプロがいます。ただ、それを生かすかどうかは皆さん次第です」

さらに坂田氏は自ら情報を集めて考え、最後は自分で決断する姿勢の大切さを強調した。

「アドバイスはもらっても周囲に任せっきりにはしない。ここに大きな差があります。皆さんの人生は皆さんがオーナーであり、主役なんです」

5年間継続しアップデートされている(球団提供)

「目的」と「目標」を整理し、行動へ落とし込む

後半は、初回のメインテーマである目標設定へと移った。

坂田氏はまず「目的は最終的に成し遂げたいこと。目標はそこへ向かう道しるべ」と説明。一軍で活躍することだけでなく、その先にどんな人生や価値を描くのかまで考える重要性を伝えた。

さらに、プロ野球選手は地域や社会に影響を与える存在であることにも触れ、「何のために野球をするのか」という原点と向き合う時間を設けた。

選手たちは現在地と理想像を書き出し、今季そして数年後の目標を具体的な言葉や数字で整理。その後は実現に向けたアクションプランづくりへと進んだ。

坂田氏の講義で現状と向き合い、未来を自らつくる時間となった(球団提供)

ここで坂田氏が繰り返し伝えたのが「選択と集中」の考え方だった。

課題を一度に解決しようとしても、人の時間も脳の容量も限られている。だからこそ、本当に重要な課題へ集中することが成長への近道になるという。

ワークの最後には「完成したらコーチやトレーナーにも見てもらい、他者の力を活用してください」と呼び掛けた。

2時間近く行われたワークを終えた選手たちは後日それぞれの目標と行動計画を決め、このシーズンに向けリスタートを切っている。

育成ルーキーは三軍で実践し、成長の過程を踏む

昨年ライオンズは6名の支配下選手・7名の育成選手を指名した。その育成選手たちは、支配下登録そして一軍の舞台を目指して奮闘している。

その中で一際大きな体格で見る者を惹きつける選手が背番号「135」を背負う安藤銀杜(ぎんと)。

昨年のドラフト会議で育成7位とチームで最後に指名された23歳は、198cm/110kgと恵まれた体格の持ち主。城西国際大から独立リーグ・徳島インディゴソックスを経て、ライオンズの一員となった。

大学時代から投手だったが、球団は打者としてのポテンシャルを評価し指名し、未来の主軸候補として育成する方針を掲げている。

将来の一軍の主軸を狙う安藤銀杜

安藤は今シーズンの目標を「二軍戦で本塁打を打つ」、3年後には「一軍でクリーンアップを担う」ことを設定した。

練習や試合の際にもテーマを掲げており、ここでは「センターに強く打つこと」を挙げている。その根拠について、キャンプから取り組んできたことと合わせて明かしてくれた。

「相手投手は自分を崩してくるので、そうなったとしても粘れたり、詰まって野手の前に落としてヒットにすることを今後やっていけたら、打率も上がってくると思います。

崩されてもホームランにする力は自信があるので、自分のタイミングや形を習得するために取り組んでいます」

安藤は現在三軍で2桁本塁打を記録しているなど、早くもその片鱗を見せている。

試合後も青木チーフコーチの直接指導を受ける

投手では現在三軍で先発ローテーションの一角を任され、実戦経験を積んでいる一人が斎藤佳紳である。

昨年のドラフト会議で育成3位指名を受け、安藤と共に徳島インディゴソックスから入団した背番号「118」は、最速152キロの直球とキレのある変化球が武器の右腕。

斎藤は「3年後の自分はどうなっていたいかという目標設定の中で、僕は一軍のリリーフ投手として定着する目標を立てています。今は先発で投げていますが、自分の希望はリリーフです」と目標を明かしてくれた。

「独立リーグ時代は先発での最速が152km/hでした。試合前に目標設定をするのですが、それを超えるために前回登板から今日まで過ごしてきました」

一軍のリリーフを目指している斎藤佳紳

現在務める先発とリリーフでは役割は異なるが、自身の中で明確な軸を持って己と向き合っていた。5月下旬に三軍戦で先発登板した後、このようにコメントしている。

「1イニング、1イニングをどう抑えるか。どういうパフォーマンスを出していくかは、先発でも中継ぎでも変わらないと思っています。そこはすごく意識しながら、今の先発のマウンドでも毎イニングを投げています」

両選手とも明確に課題を設定し、自らの言葉で目標や振り返りを語っているが、共通して「(言語化するのは)難しいですね」と答えていた。

安藤は「考えていながらできないこともありますし、言いたいこともまだまだ表現しきれていないので、『どういう意識で打ったのか?』と聞かれた時に明確に答えられるように高めていきたいです」と日々課題と向き合う。

また斎藤はシートを記載するのに1時間以上かかったこともあったそうだが、着実に成長に繋がっていると実感を語った。

「自分の気持ちや技術的な課題をどう簡潔にまとめたらいいのかがすごく難しかったです。コーチや人財開発の皆さんに伝わるように伝えなければいけない。ただそれを毎日続けることでまとめられるようになっています」

マウンドそしてその外でも成長を実感する

目標を立てることがゴールではない。その目標を日々の行動へ落とし込み、振り返りを重ねながら修正し続けることでライオンズは一軍の戦力へと繋げている。

言葉にすることへ難しさを感じながらも、自らの現在地と向き合って一歩ずつ前進する若獅子たち。積み重ねる「考える習慣」を武器に、将来一軍の舞台でその才能を開花させる。

(了)

関連記事