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「スポーツは地域にあり」がキーワード、日本アイスホッケー界には可能性がある

「スポーツは地域にあり」を掲げアイスホッケー界のレベルアップのために作られた施設。
CCM Experience Center TOKYO(以下CXC)では前向きな取り組みが行われている。

住宅地の中にそびえ立つCXCはインラインホッケーリンクを中心とした現代版『虎の穴』の雰囲気が漂う。

~縦40×横20mのインラインホッケー公式サイズコート

埼玉県戸田市にCXCはある。東京から荒川を渡ってすぐの好立地で徒歩圏内にはNPBで日本一となったヤクルト戸田グラウンドもある。大型倉庫だった場所を全面改装して造った建物には秘密基地のような雰囲気が漂う。

「建物自体は2010年10月から前保有者がインドアスポーツの場所として使っていて、弊社は17年に譲り受け20年8月から現在の形となりました。縦40×横20mのインラインホッケー公式サイズのリンクがメイン。他にもスケート靴を履いて乗るシンセティックアイスリンク、トレーニング施設、ミーティングルームなどを備えています。年間を通じて活動できる場所です」(ネクストワンスポーツプロダクト・高山智宏氏)

メインリンクにはスポーツ床材として世界トップシェアを誇るアイスコート社『マルチスポーツコート』を採用。コンクリート上で行われることも多いインラインホッケーだけに安全性を高めるなど、競技者の側に立って造られた環境だ。シンセティックアイスリンクは9.5m×7.0mの大きさで氷上と同じ環境でシュート練習等ができる。トレーニング施設等も充実しており野球、ラグビーなど様々な競技のアスリートも通っている。

「インラインホッケーをできる場所というのがスタート地点。コロナ禍が重なり練習が十分にできないアイスホッケーや他競技選手が集まり始めた。トレーニング施設やメニューも豊富というのが口コミでも伝わり、実業団や大学生選手も時間を見つけて足を運ぶようになりました。その他にもフットサル、バスケット、ラクロス、インラインフィギュア、ランニングバイク(ストライダー)などでも使用してもらっています」(同・高山氏)

建物内は想像以上に広く競技を問わず活用できるように設備を備えている。

~身近な場所でインラインホッケーをプレーできて上達できる場所

かつてはアイスホッケーに火がつきかけた時期があった。98年長野五輪やキムタク(木村拓也)主演ドラマ『プライド』が放送された頃は町中でインラインホッケーをする姿も見かけた。しかし昨今はアイス、インライン共にホッケーのプレー場所すらなくなりつつある。女子スマイルジャパンの健闘はあるが、日本アイスホッケー界全体では実力、人気が右肩下がりなのは明白。CXCはユース年代などのボトムアップ、指導者育成など全体のレベル向上を目指している。

現在開催されているインラインホッケーのリーグ戦には少年、女子などを含めた90チームが参加、カテゴリーに応じて13クラスがある。1年2シーズン制で開催しており最低でも1シーズンで1チーム8-10試合できるようにしている。プレーすることが一番のレベルアップにつながる、という考えが根底にあるからだ。試合での成功、失敗体験があるからこそ練習を続けられ上達する。そしてスポーツ自体を好きになれる。

「アイスホッケーがうまくなるには氷に乗る、パックをスティックで叩く、そして試合に出ることが欠かせない。例えば野球で素振りだけしていても打てる可能性は低い。実際にボールを打ったり実戦経験から打撃を覚えることが大事。欧州や北米では家のすぐ近くにリンクがあり簡単に氷に乗れてホッケーができる。ジュニア、ユース世代はできるだけアイスホッケーに触れて欲しい」(ネクストワンスポーツプロダクト代表取締役・橋本謙介氏)

アイスホッケーだけでなく日本のすべてのスポーツに共通していることだが、スポーツができる場所(=箱、ハード)が限られている根本的問題がある。そして『部活』という日本独自のスポーツシステムとの兼ね合いもある。特にアイスホッケーで使用するアイスリンク数は減少しており練習、試合で使える頻度が極端に限られる。だからこそプレーする場所を作りたいという思いは揺るがない。

「部活は素晴らしいシステム。でも勝利至上主義になりがちで高校3年間やっても試合に出られず応援だけで終わることもある。個々の秘めた可能性が引き出されないことも多く、競技への気持ちが冷めてしまったりする。アイスホッケーの場合、特に関東地方ではその傾向が顕著だった。リンク自体の数が少ないため所属チームではレギュラー中心での練習が主体になってしまう。誰もが好きな時にプレーできれば技術力も上がりアイスホッケーをもっと好きになる。その上で部活、クラブなどの所属チームに集まれば技術力、メンタル力など高い状態の選手が増え勝利にも直結する」(同・橋本氏)

『シンセティックアイスリンク』は氷上と同じような状況下で練習できる。

~『Bring Upアカデミー』で効率的にパフォーマンス向上を目指す

プレー場所の提供のみでなく『Bring Up Athletic Society』というアカデミー形式の指導も始まった。好きな時にプレーできる場所でパフォーマンスも効率的に上げることを目指す。アイスホッケーでは元日本代表監督・鈴木貴人(現東洋大学監督)が中心となり共通メソッドでの技術指導を行う。ラグビーで以前から同様の試みをしていた元日本代表・小野澤宏時、菊谷崇、箕内拓郎らとも連携。その他、野球では内竜也(元ロッテ)、的場寛一(元阪神)などがコーチとなって指導をしている。

「CXCは小さな箱ですけどプレーができる場所。自分の住んでいる場所の近くで好きな時にプレーする際に技術を的確に伝えられる指導者もいれば文句なし。当初はインラインホッケーからスタートしたがトレーニング環境の充実などから他競技のアスリートも訪れるようになった。ビジョンに賛同してくれる人が増え、『Bring Up Athletic Society』も広がっていった」(同・橋本氏)

『Bring Up Athletic Society』へのビジョンが様々なアスリート、競技指導者へ広がっている。

例えば米国球界ではジュニア、ユース世代における個人コーチ・システムが一般的。日本の部活同様、学校や地域単位のチームに在籍している選手でも個人コーチをつけることが多い。技術力習得に最も重要な時期には正しい形で数多く野球に接する必要があるという考え方からだ。個人レッスン日は所属チームの練習を休むのが許可されている場合もあるから浸透度の高さがわかる。かかる費用も驚くほど安価だ。

「米国の個人コーチ・システムと同じような考え方です。アイスホッケーで言うと日本でも北海道では似たような環境の場所もあるので選手が育ちやすい。リンクの数、アイスホッケー経験者も多くて指導を受けやすい。関東地方などはそういう部分でハンディがあった。ホッケーリンク自体の数が少なく使用料金が高額になることもある。使用時間も限られチーム練習が主になるから個々のスキルアップが遅くなる。まずは関東からトップレベルのアイスホッケー選手を出したい」(同・橋本氏)

現場からの意見を活かしたトレーニング器具を備え多くのアスリートが足を運んで活用する。

~方法次第ではアイスホッケー界の可能性は無限に広がる

まもなく開幕の北京五輪に男子アイスホッケーは出場できない。出場国が全世界で12カ国と狭き門ではあるが、98年長野五輪に自国開催で出場して以降は予選敗退が続いている。

また国内中心で行われているアジアリーグも縮小化が年々進む。スポーツ界にはコロナ禍でも盛況で終わった五輪、パラの余韻が残るが、アイスホッケー界が立ち止まっている時間はない。

「CXCの実験期間は過ぎている。需要も多く形もできているので実用段階に入っている。1人でも多くの人にアイスホッケーをプレーしてもらい世界に通じるようなレベルの高い選手を輩出したい。まずは関東地区で思い切りプレーできる環境を整える。そこから少しずつ全国的にも広げ、競い合ってアイスホッケーのレベル向上を目指す。実力が上がり人気も出ると思います」(同・橋本氏)

メインリンクにはLEDビジョンも設置され各種演出への対応も可能だ。

「スポーツは地域にあり」

環境に恵まれた一部地域だけでなく日本中どこでもアイスホッケーができること。住んでいる場所のすぐ近くでパックを叩ける場所作りが必要だ。

閉鎖感すら漂うアイスホッケー界だが方法次第では大きな可能性も残されている。CXCの取り組みが未来へ向けての道標になるかに注目が集まる。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・株式会社ネクストワンスポーツプロダクト)

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