町田から広がるBaseball5の輪 大学と高校それぞれの”初”がつながった「フレッシュマンカップ」
7月25日、桜美林大学でBaseball5の未来を創る取り組みがスタートした。この日開催されたのは、高校生と大学生が集った交流大会「フレッシュマンカップ」。
コートに立ったのは、大学の部活動として国内初のBaseball5部を持つ桜美林大学と、同じく同競技では国内初である高校の部活動として今春スタートを切ったばかりの東京都立山崎高校の生徒たちである。
日本選手権に参加した選手から、スポーツへの本格挑戦が初めてという選手が混じった大会は初々しい光景が随所で見られ、大会名の通り”フレッシュ”さ溢れる1日となった。
(写真 / 文:白石怜平)
フレッシュマンカップ誕生の背景
Baseball5は野球・ソフトボールの国際振興を目的に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が考案し、2017年に誕生した5人制のアーバンスポーツ。現在は世界80以上の国・地域で普及し、26年にはユース五輪の正式競技としても採用されている。
最大の特徴は、グラブやバットが不要でゴムボール一つで行える点にある。打者は自らトスを上げて手で打ち、ホームランや三振という概念は存在しない。
1チームは控えを含め8人で編成され、実際にコートに立つのは5人。守備には投手や捕手、外野手はおらず、内野手4人に加えて独自のポジション”ミッドフィルダー”を配置する。
5イニング制で行われ、試合時間はおよそ20分。フィールドは野球場の約5分の1というコンパクトさで、安全面からスライディングも禁止されている。道具も場所も選ばないその手軽さが、ベースボール型スポーツの競技人口を広げる一助となっている。

山崎高校のBaseball5部は、部活動として正式発足する前に挑戦の歴史がある。かつて日本代表として日の丸を背負った宮之原健さんが創設した「Spirit Bonds」のユース部門として、24年9月に同校のメンバーを中心とするチーム「Spirit Bonds YAMASAKI」が始動。
12月の予選を勝ち抜き、25年1月には創設から半年足らずで日本選手権本戦にも出場し全国ベスト4という成績を挙げた。
この挑戦の積み重ねが、学校として正式なBaseball5部発足へとつながる原動力になった。そして今年、部活動として新たなスタートを切った生徒たちを迎え入れる形で実現したのが、今回の「フレッシュマンカップ」だった。
同校がBaseball5に取り組み始めた背景には、現在小学校教職員でもある宮之原さんならではの教育的な視点があった。
「これからの社会を担う生徒に、新しい選択肢のひとつを与えたいと考えたときに、誰にでも楽しめて地域との根付きも視野に入れつつ、また個人的な成長を感じやすいBaseball5はもってこいと感じました」

誰もが参加しやすい間口の広さや地域とのつながりやすさ、個人の成長を実感しやすいという特性が、高校生への”新しい選択肢”として選んだ理由だった。
初めてスポーツに打ち込む生徒たちが見せた、新たな一歩
また、宮之原さんがこの大会を企画した理由には桜美林大学と山崎高校、それぞれの歩みへの思いがあった。
「大学の部活動としての初のベースボール5部誕生の桜美林大学と、高校の部活動としてベースボール5が誕生した山崎高校のこれからの発展を願い、大会開催をしました」
大学と高校それぞれの場所で新たに芽吹いたBaseball5を、一つの舞台でつなぎ合わせる。その発想が今回の大会につながった。
大会名に「フレッシュマン」と冠された通り、参加した山崎高校の生徒たちの多くにとって、これは特別な意味を持つ大会でもあった。
「ほとんどの生徒がスポーツに力を入れるのが初めてです。そのため、ユニフォームを揃える・みんなで一緒にウォーミングアップをするといったことが初めてなので、チームスポーツで大切なことをイチから伝えています」
これまでスポーツにあまり馴染みがなかった生徒たちにとって、Baseball5はチームで動くことの意味を学ぶ入り口になっている。大会当日の手応えを、宮之原さんはこう振り返る。
「大会名の通りみんながフレッシュな気持ちで臨んでおり、運営で携わったジャンク5エレメンツとSpirit Bondsはこれからの競技の未来に向けてワクワクしています。Baseball5の魅力のひとつであるスピード感あるプレーもたくさん見られました。ナイスプレーでした!」

教育から生まれた部活動、環境が心技体を育てる
今回参加した桜美林大学Baseball5部。大学では日本初の部活動でもある同部が誕生した背景には、24年に侍ジャパンBaseball5の代表監督も務めた若松健太・桜美林大教授の発想と行動力があった。
2021年に開催された「東京2020ファンパーク」にゼミ生と共に参加したことをきっかけに、教授会の場で「授業として取り入れられないか」と提案した若松さん。
この動きが実を結び、23年度には桜美林大学で日本初となるBaseball5の授業が開講した。同時に部活動としてもBaseball5部が発足し、教育現場からBaseball5を広げるという全国でも類を見ない取り組みが始まった。
この部の強みが、若松さんが代表を務めるチーム「ジャンク5エレメンツ」との合同活動である。日本代表として世界を戦ってきた選手たちと日常的に練習を共にできる環境は、桜美林大生にとって大きな財産となっている。
その成果は結果にも表れた。1月の「侍ジャパンチャレンジカップ 第3回Baseball5日本選手権」では、日本一に輝いたジャンク5エレメンツに加え、桜美林大学もベスト8に進出。
若松さんが築き上げてきた”環境”で強化された複数のチームが名を連ねる結果となった。

発足から3年間、発展を遂げている桜美林大学Baseball5部であるが、若松さんはこの参戦の狙いをこう語る。
「少なくとも関東には我々に続く教育機関がない中、同じ町田市にある山崎高校が今年部活動を発足してくれました。町田市のスポーツを盛り上げる意味でも、今回のマッチアップをやらない理由はなかったです」

先駆者としての自負を持ちながらも、若松さんの視線は「今回をきっかけに、始めてくれる大学や高校が一校でも増えてほしい」と先を見据えていた。
「今までと一緒で、日本選手権で一つでも上に行くこと。そして新たな地域貢献や社会貢献活動を実施すること。あとは挨拶をするなど人として当たり前のことをきっちりやらせたいです」
「自主性」を育む場としての責任
若松さんが部員たちを見ていて特に感じるのは、日々の練習を通じて培われてきた“自主性”だという。
その舞台の一つが「さがまちコンソーシアム(相模原・町田大学地域コンソーシアム)」。
相模原市・町田市エリアの大学や専門学校などが加盟し、市民向けに「市民大学」や「さがまちカレッジ」といった生涯学習講座を展開する組織で、桜美林大学もその一つに名を連ねている。
ここで部員たちは市民講座の講師という立場を任され、教わる側から教える側へと役割を広げてきた。
「『さがまちコンソーシアム』という市民講座で学生が講師を務める講座があり、今年で3年目になりましたが、指導力や対応力も着実に付いてきています」
そして今後の展望を尋ねると、若松さんは「継続」という言葉を強調した。
「毎年毎年『継続』すること。大学スポーツのパイオニアとしての責任もあります。学業と部活の両立をしっかりこなし、大学卒業後も社会に貢献し、リーダーシップを持った学生を数多く輩出したい。やはり大学スポーツの意味はこのようなところにあると思います」

競技の普及・地域貢献・そして人材育成。桜美林大学Baseball5部が積み重ねてきた歩みは、山崎高校という新たな仲間を得たことで、また一つ広がりを見せようとしている。
最後に、大会を主催した宮之原さんはフレッシュマンカップを起点とした今後について以下のように語った。
「高校生や大学生といった若い世代の方々にとって、Baseball5というスポーツが素敵なものであるということを発信し続けて、その環境を作るお手伝いを全国各地で行っていきたいです。
長く競技に携わってもらう人を作るためにもこの世代からスタートできるように、周知と環境作りに力を入れます」
町田の地から始まった新たな挑戦は、桜美林大学が大切にしてきた”継続”の姿勢とも重なりながら、次の世代へと広がろうとしている。
この日コートに立った選手たちがこの先も競技を続け、いつか次の世代へBaseball5を伝える側になるような大会へと今後も育んでいく。
(了)
