東京理科大スキー部が挑む 大学スキー最大の大会「岩岳」の頂点へ

雪のない東京にある大学のスキー部が、白銀の世界へ挑み続けて67年。

総勢22名が所属する東京理科大学スキー部では、全員が出場する全国学生岩岳スキー大会に向けて、熱のこもった練習が続けられている。

車ほどのスピードで雪上を滑走するアルペンスキー。そこに魅せられたスキー部の部員たちに話を聞いた。

創部67年の歴史あるスキー部

話を聞いたのは、宮澤大翔さん(みやざわひろと・3年生・部長)、栗原小桜さん(くりはらこざくら・3年生・副部長)、熊井七星さん(くまいななせ・4年生)、飯塚岳大さん(いいづかがくと・院生)、大川瑚夏さん(おおかわこなつ・院生)の5人。

東京理科大学では、8割ほどが大学院へと進む。院生となっても部活動を続けられるため、6年間在籍する学生もいるという。

大学からスキーを始める初心者も多いが、中には小1からスキーを始めたというベテランもいる。雪のない東京からアルペンスキーに挑戦する魅力はどんなところにあるのだろうか。

「基礎スキー(正確さや美しさを競う採点競技のスキー)も楽しかったんですが、ワールドカップなどを見ていると速度感が違う。視界が開けたところを全速力で、しかも生身で滑るというのがとても魅力的で、大学からアルペンスキーを始めました(飯塚さん)」

「基礎スキーの大会は基本的に人が採点する競技。でもアルペンスキーは本当にタイムだけの競技です。下手であろうと速ければ勝ちという、本当に分かりやすい勝ち負けの世界です(大川さん)」

車ほどのスピードで滑走するアルペンスキー

理科大の二刀流は楽じゃない

東京理科大スキー部の特色としては「サークルではなく部活動。体育会であっても勉強と両立できる。大会にも多く参加できて、適度な自由さもあります(大川さん)」。

だが東京理科大では、必修科目が多く進級条件が厳しい学部・学科があったり、実験やレポートが多かったりで、そもそも部活をする人自体が少ないという。その中で続けている部員たちの意志の強さが窺える。勉強には隙間時間を使うなど工夫をし、先輩たちの経験も参考に乗り切っていく。

また、スキー部の活動には車移動が多く荷物も多いため、レンタカー代や交通費などの負担も大きい。大学で一から始めた部員は道具を揃えるだけで一苦労だ。物価の上昇や円安で用具費や遠征費が年々増加してくる。

部活と勉強を両立しながら、さらにアルバイトもしなければならない。

「みんな夏に稼いでおくという感じですね(飯塚さん)」

冬に雪の上で滑ることを思い描きつつ、彼らは毎日の練習を続け、レポートや試験をこなして単位を取得する。やがて待望の雪山合宿へと突入するのだ。

一回の滑走は1分ほど。1試合2本の滑走で2分。そこにすべてを賭ける

12月から初滑り開始

スキー部の練習は、雪の上でない期間の方が長い。講義の終わった夜6時頃からキャンパス内で集まって練習したり、各自でトレーニングをしたりする。インラインスケートを使って滑りの感覚を練習することも多い。

12月頃に「初滑り合宿」を主に長野県で行うが、11月頃から自主的にスキー場へ赴く部員もいるそうだ。試験を避けて何度も行われる合宿だが、一つの合宿が2週間以上に及ぶこともある。

冬季の合宿では「雪の中にいるので毎日がレクリエーション」だといい、練習時間以外もみな雪の中で遊んでいることが多いという。

待ち望んだ雪上は、彼らにとって勝負の場でもあり、雪とスキーを楽しむ場なのだ。

「全国学生岩岳スキー大会」で優勝したい理由

アルペンスキーにはいわゆる「公式戦」もある。だが、公式ではない大会である「全国学生岩岳スキー大会」が、部にとって一番重要なのだという。

1974年から始まった同大会は、国内屈指の規模と伝統を誇り、毎年2~3月に日本中の学生スキーヤーが白馬岩岳に集まってくる。

種目は基礎スキーとアルペンスキーがあり、アルペンスキーはスピード系・技術系の部門で競う。

「公式大会などは経験者や希望者が出場するという感じですが、岩岳には理科大スキー部の全員が参加します。恐らく全国で一番多くの人数が参加する大会で、ここで優勝するのが日本一といっても過言ではありません(熊井さん)」

1チームは最大で6人。部内で何チームか作って全員が出場し、タイムを競う。それぞれのタイムが個人成績にもなり、団体の成績にも反映される。シンプルに得点が合計されるので、人数は多い方が有利だ。

東京理科大スキー部の歴史の中で、かつて男子団体では一度だけ優勝したことがある。2013年、第40回大会でのことだ。近年は男子が上位に食い込むことも多く、昨年は4位の成績だった。

「ここ数年あと一歩のところで届かなかった過去があり、悔しい思いをしています。岩岳に向けて部員たちが一生懸命練習しているので、それが結果に結びつくことが部として一番の目標です」と部長の宮澤さんは熱く語る。

「また、これからも理科大スキー部が活気あるチームとして続いていくために、入部して来る新入生にとって魅力的な部活であることが重要です。そのために、岩岳総合優勝というワードを通して期待感を持ってもらいたい。何としても今回の大会で優勝したいと思います」

「今は明らかに部内の雰囲気が一番いいと感じています」と飯塚さんの言葉も力強い。

「今このメンバーでいられるのがすごく幸せなので、このメンバーで勝ちたいという思いが強いです」

女子部員が少ない中で、今年は女子の団体出場も可能になり、栗原さん、大川さんも意気込んでいる。

「男子はこれまでも団体優勝目指してという感じだったんですが、途中で女子部員が一人になってしまって。女子はなかなか団体で目指せる状況ではなかったんですけど、今年やっと5人部員が増えたので、男女ともに優勝を目指せたらいいと思っています(大川さん)」

岩岳では個人の成績が団体にも反映される

今回話を聞いた5人もみな参加経験者。

「一年目はガチガチでした」「各選手のタイムがリアルタイムで団体の順位に反映され、その順位を見ながら滑るのが団結感があって楽しい」「ゴール地点でみんなが声を出して応援してくれるのが聞こえる」という声が上がる。学生たちが全力で滑り、一喜一憂を仲間と分かち合う様子が分かる。

「ゴールしたら自分が嬉しいだけでなく、良い結果が出たらみんなが喜ぶ。みんなのために頑張ろうと思えるところが岩岳のいいところ(栗原さん)」

毎年チャレンジを続ける中で、新たな取り組みも始めている。

「ビデオでスロー再生をしながらみなで動きを分析しているのが、このところの成績向上に結びついていると思います(飯塚さん)」

「自分たちの力だけでなく他のチームと切磋琢磨することも大事だと感じ、他大学のスキーチームに声をかけて合同練習をしました(宮澤さん)」

目指す大会は3月。それに向けて部員たちのボルテージは上がる一方だ。

OBOGとのスキー大会で安全への想いを受け継ぐ

東京理科大スキー部では、67年という伝統があるだけに、OBOGとの繋がりは大切にしている。毎年のOB総会などで接するOBOGからは、社会人の先輩として得るものも大きい。

年に一度、OBOGを招いて現役の部員が主催する大事な大会がある。係員まで部員が務め、OBOGに部員と一緒に滑ってもらうスキー大会だ。賞品を賭けて盛り上がるこの大会だが、実はかつて部活の練習中に起きた部員の事故死を受け、安全講習とともに始まったものだ。大会名には亡くなった部員の名が冠せられている。

「現在も1日目に安全講習を行っています」

時速100キロに達する高速で滑るアルペンスキーの魅力は、事故の危険と隣り合わせでもある。それを忘れず安全を誓う心構えも、東京理科大スキー部が先輩から後輩へ受け継いでいる大切なものの一つだ。

大自然の中で味わう非日常性もスキーの魅力の一つ

伝統を受け継ぎ新たな高みを目指す東京理科大スキー部

「レストランで話しているときにも、ついスキーの動きが出てしまってすごく変な目で見られたこともあります(飯塚さん)」というほど、スキーに没頭している東京理科大のスキー部員たち。

スキーは個人スポーツだが、個人が競いながらも、力を合わせて団体で勝つ喜びも味わえる。勉学と両立しながら練習を積み、合宿で長い時間をともに過ごす日々は濃厚だ。

これまで以上に一致団結して大会の優勝を目指す東京理科大スキー部。ほんの1分の滑りが集まって、大きな結果となるのを見届けたい。

(取材・文/井上尚子 写真提供/東京理科大学スキー部)

関連記事