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神奈川大、明治神宮大会出場を決めたのは土井克也捕手のサヨナラ弾!

 2021年11月1~4日に行われた、横浜市長杯争奪関東地区大学野球選手権大会(以下、関東大会)。関東五連盟から上位2校の計10校が出場し、明治神宮大会への切符をかけて戦う大会だ。 

 この大会準優勝の神奈川大(神奈川大学野球連盟1位)は、関東五連盟の第二代表として明治神宮大会に出場する。 決勝戦こそ中央学院大に負けたが、初戦の創価大戦は9回表に逆転、準決勝の上武大戦にはサヨナラ本塁打での勝利とドラマチックな展開で11年ぶり8回目の出場を決めた。

 最後に勝負を決めたのは、1年春から四番に座るこの男だった。 

神奈川大の4番・土井克也捕手

真面目で人のいい4番の活躍

 長い囲み取材を終えたヒーローに近づいていったのは、泉水小夏副務(3年・白山)だ。 

「ホームランボール、探したんだけど見つからなくて、違うボールかもしれないけどこれに書いてきたよ。見て、今までで一番上手に書けた!」 

 泉水の手には、大会名・日付などが綺麗に書き込まれたボールがあった。 数十分前まで行われていた上武大戦で、明治神宮大会出場を決めるサヨナラ2点本塁打を放った土井克也捕手(3年・唐津商)へ渡す記念ボール、のはずだった。

「あ、ごめん。俺持っているわ」そう言ってしゃがんだ土井は、地面に置いてあったバッグから本物のホームランボールを取り出す。「え、持ってるの? だから見つからなかったんだ」とまさかの事態に笑う泉水は、隣にしゃがんでいる土井をチラッと見ると「こんな感じですけど、いいヤツなんですよ」とこちらを見上げた。 

 確かに、短い時間接しただけでもそれは感じていた。筆者が「ホームランボールを持った写真を撮ってもいいですか?」と尋ねたときは「(日付などを)書いてくれたこっちの方がいいかな。 でも、本物はこっちだし……」と、ふたつのボールを比べてしばらく悩んでいた。小さなことも真面目に考えてくれる人なのだと思った。 囲み取材では、ときに取材陣を笑わせながら、どんな質問にも丁寧に答えてくれた。 端々に「いいヤツ」がにじみ出ていた。

このホームランボールでチームを明治神宮大会に導いた

 岸川雄二監督も「人が良すぎるんですよ。本当に真面目で、リーダーシップもあって、次の代のキャプテンになるのは間違いない」と、その人柄を評価する。実力についても「高校時代はドラフト候補だった」と岸川監督。

 土井は言う。「高校のときは自分が一番だと思っていました。でも神大に来たら、梶原さんという自分よりすごいバッターがいたんです」。 10月のドラフト会議で横浜DeNAベイスターズから6位指名を受けた梶原昂希外野手(4年・大分雄城台)は、189センチの長身とそれに見合う長い手足でダイナミックな打撃、走塁、守備を見せる選手だ。 そんな梶原を見て、土井は上には上がいることを知った。

 関東大会の初戦、創価大と戦った神奈川大は、5-7と2点ビハインドで9回表の攻撃を迎えた。 敵失で1点差に迫ると、2死満塁、逆転のチャンスで打席に立ったのはその梶原だった。 1ボールからの2球目、梶原のバットに弾き飛ばされた打球は左中間へ。 チームに勝利をもたらす走者一掃の二塁打となった。

 翌日、明治神宮大会出場がかかった上武大戦の9回裏。 1-2とまたもやビハインドの状況だった。野選で同点に追いつくと、1死一塁の場面を迎えた。長打が出ればサヨナラもある。 このチャンスで、打席に向かうのはまた梶原だった。

「昨日も決めてくれたし、今日も梶原さんが決めると思っていました」 

 その梶原が右飛に倒れ、土井に打席が回ってきた。 ヒーローになれるチャンスだ。 「まっすぐを狙っていましたが、浮いた変化球が来たら打つこともチームで徹底してきました。たぶん、浮いたカットボールだったと思います」チームの勝利を願って振り抜いた打球は、ぐんぐん伸びていきレフトスタンドに突き刺さった。

サヨナラ弾にこぶしを突き上げる土井克也

いざ、明治神宮大会へ 

 関東大会の3試合で13打数6安打1四球5打点 打率.462という成績に加え、値千金のサヨナラ弾と、四番にふさわしい活躍を見せた土井。

  明治神宮大会・大学の部は、神奈川大と龍谷大(関西五連盟第二代表)の試合で幕を開ける。 誰よりも早く、捕手として、バッターとして、大きな舞台で輝けるチャンスがやってくる。「尊敬しているが追い越したいライバルでもある先輩」梶原と共にクリーンアップを担ってきた四番のその実力を、今見せるときだ。

梶原昂希と土井克也

 関東大会で、私たち取材陣が監督、選手の取材を円滑に行えるように尽力してくれた海老原匠主務(4年・中央学院)が、上武大との試合のあとにこんなことを教えてくれた。 

「さっき、バスに乗った上武大のみなさんが窓を開けて、神大の選手が乗っているバスに向かって励ましの言葉をくれたんですよ」 

 1点リードで最終回を迎え、逆転負けで明治神宮大会出場を逃した上武大ナインが、悔しい気持ちを抱えていないはずはない。 それでも、勝った神奈川大へ最大限のエールを送った。 谷口英規監督も帰り際、神奈川大の岸川監督のもとへ歩み寄り「いい試合だった。ありがとう」と手を差し出した。

 そんな上武大の思いも背負って、11月20日、神奈川大は明治神宮大会に乗り込む。

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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