自分たちは全日本大学駅伝、出雲駅伝を目指すチーム ~岐阜協立大が挑む東海学生駅伝~

12月11日(日)、東海学生駅伝が知多半島で行われる。東海四県の大学駅伝王者を決める大会だ。2023年の出雲駅伝の予選も兼ね、優勝校に出雲駅伝の出場権が与えられる。

2022年は例年以上の混戦が予想されている。昨年まで5連覇の皇學館大が圧倒的な選手層で優勝候補の筆頭だが、全日本大学駅伝では愛知工業大が先着した。そしてその2校を追うのが昨年3位岐阜協立大と4位名古屋大。

「自分たちは全日本大学駅伝と出雲駅伝を目指すチーム。優勝して出雲駅伝の出場権を掴みたい」と意気込む岐阜協立大は優勝すれば6年振り。岐阜県出身で駒澤大やヱスビー食品で活躍した揖斐祐治監督が率いる岐阜協立大の取り組みに迫る。

2013年から本格的に始動、いきなり全日本大学駅伝出場を果たす

岐阜県大垣市の北部にキャンパスを構える岐阜協立大が駅伝の強化を開始したのは2012年。当時の大学名は岐阜経済大学だった。

岐阜県出身で当時東亜大(山口県)の女子を指導していた揖斐氏を監督として招聘。選手の勧誘からスタートして、2012年に勧誘した選手が入部した2013年が本格的なスタートとなった。しかしその2013年にいきなり全日本大学駅伝出場の目標を達成。その当時を揖斐監督はこう振り返る。

「初代(2013年入学)の選手は練習熱心で生活もきちんとした良い選手が揃っていました。彼らが作ってくれたものが大きいです。当時の選手たち、送り出してくださった高校の先生方に感謝しています」

その世代が4年生となった2016年、岐阜経済大(当時)は東海学生駅伝で初優勝、大会新記録での栄冠だった。

2016年12月 岐阜経済大学(当時)は東海学生駅伝で初優勝した

ライバルの台頭、コロナ禍での活動制限

2017年以降は皇學館大が大エース川瀬翔矢選手(現ホンダ)の入学をきっかけに力をつけ連覇が続く。大会記録も4分以上更新されている。

そして2020年以降はコロナ禍で思うように活動できなくなった。その影響の一つが故障の増加。揖斐監督は大学時代から故障に苦しんだ。その経験から故障防止には気を遣っていたが、それでも故障者が増えてしまった。「(地面からの反発が大きい)厚底シューズと動き作りや体幹トレーニングを全体でできなくなった影響」だと言う。

「コロナ禍前は、全員でやっていた動き作りや体幹トレーニングは、感染防止のため少数のグループ別や個別にしました。全員を見られない事もあるので、動きが悪くても修正ができないことがあります。その結果バランスの悪いフォームで走ることになり、故障が増えたのだと思います」と分析する。

それでも、2021年は全日本大学駅伝選考会で2位となり5年振りに全日本大学駅伝に出場できた。しかし、2022年の選考会は4位で連続出場を逃す。主力選手を故障で欠いたことも響いた。

11月に新体制へ移行、新体制で戦う東海学生駅伝

コロナ禍でチーム運営に苦しんではいるが、チームは前を向いて着実に進んでいる。11月に主将を交替、新体制に移行した。岐阜協立大では毎年11月に主将や副将、主務といった主要な役職を交替している。

「12月の東海学生駅伝は来年の出雲駅伝の予選。来年に向けたレースなので、次の世代が主体で臨む方がよいと考えています。11月の全日本大学駅伝が終わった後、翌年に向けて4年生から3年生に引き継ぎをしながら、3年生にチーム運営を学んでもらう時期にしています」と揖斐監督はその意図を話す。自分だけで決めたのではなく「初代の選手たちと話し合って決めた」のだという。

主将は立候補した部員の中から部員の投票で決めている。以前は前主将や監督で話し合って決めていたが「自分たちで選んだ主将の方が支えようという気になる」と考えてのことだ。

新主将の天野佑哉選手(益田清風)は2年生だが、自分の意思で立候補した。「高校時代は仲間と良いこと、直した方がよいことをお互いに言い合い、切磋琢磨して全国高校駅伝に出場できました。自分が先頭に立って練習を引っ張り、そういう雰囲気を作っていきたいです」とその理由を話した。

そしてこう続ける。「高校では決められた練習をこなすことが多いですが、大学では個人に任されている部分が多く、空いている時間に自分で練習をプラスしやすくなります。自分が率先して練習量を増やしチームに刺激を与えたいと思っています。また食事や体のケアも大事にしていきます。寮の食事が食べられないときに食べるものや、サプリメント、寮にある器具を使った体のケアなど。そういう面でもチームを引っ張っていきたいです」

取材当日の練習では熱い想いとは逆の冷静な姿を見せた。事前に決めたペースで淡々と走り、同じグループで練習した中尾啓哉選手(4年・高岡向陵)がペースを上げても自分のペースを守って練習を終えた。そして練習後に行うクールダウンのジョグを誰よりも長くこなした。

ライバル皇學館大には益田清風高時代に切磋琢磨した岩島昇汰選手(2年)がいる。かつてのチームメイトの活躍も刺激になっている。

コロナ禍でチーム運営に苦しんではいるが、チームは前を向いて着実に進んでいる。11月に主将を交替、新体制に移行した。岐阜協立大では毎年11月に主将や副将、主務といった主要な役職を交替している。

「12月の東海学生駅伝は来年の出雲駅伝の予選。来年に向けたレースなので、次の世代が主体で臨む方がよいと考えています。11月の全日本大学駅伝が終わった後、翌年に向けて4年生から3年生に引き継ぎをしながら、3年生にチーム運営を学んでもらう時期にしています」と揖斐監督はその意図を話す。自分だけで決めたのではなく「初代の選手たちと話し合って決めた」のだという。

主将は立候補した部員の中から部員の投票で決めている。以前は前主将や監督で話し合って決めていたが「自分たちで選んだ主将の方が支えようという気になる」と考えてのことだ。

新主将の天野佑哉選手(益田清風)は2年生だが、自分で主将に立候補した。「高校時代は仲間と良いこと、直した方がよいことをお互いに言い合い、切磋琢磨して全国高校駅伝に出場できました。自分が先頭に立って練習を引っ張り、そういう雰囲気を作っていきたいです」とその理由を話した。

そしてこう続ける。「高校では決められた練習をこなすことが多いですが、大学では個人に任されている部分が多く、空いている時間に自分で練習をプラスしやすくなります。自分が率先して練習量を増やしチームに刺激を与えたいと思っています。また食事や体のケアも大事にしていきます。寮の食事が食べられないときに食べるものや、サプリメント、寮にある器具を使った体のケアなど。そういう面でもチームを引っ張っていきたいです」

取材当日の練習では熱い想いとは逆の冷静な姿を見せた。事前に決めたペースで淡々と走り、同じグループで練習した中尾啓哉選手(4年・高岡向陵)がペースを上げても自分のペースを守って練習を終えた。そして練習後に行うクールダウンのジョグを誰よりも長くこなした。

ライバル皇學館大には益田清風高時代に切磋琢磨した岩島昇汰選手(2年)がいる。かつてのチームメイトの活躍も刺激になっている。

同じグループで練習する中尾啓哉選手(4年・左)と天野佑哉選手(2年・右)

新副将の高橋昂太郎選手(3年)は揖斐監督の駒澤大時代の同僚・高橋正仁氏が監督を務める秋田工高出身だ。「天野が1つ下なので、やりたいことをサポートしたい」と気遣いを見せる。

そして「コロナ禍前を知っている世代なので、それを伝えたい」という自分たちの世代だからこその思いを語った。「新型コロナの状況次第ですが、全員で補強運動(器具を使わない筋力トレーニング)や動き作りをやりたいです。士気の面に加え、全員でやることで監督にやり方が正しいのかチェックしてもらえるので」

コロナ禍で始めた取り組みで続けたいこともあるという。「(全員で集まれないため)目標や月間走行距離、他大学も含めた大会結果などを寮で張り出していました。これからも続けていきたいです」という。

新副将 高橋昂太郎選手(3年・左)は新主将 天野佑哉選手(2年・右)を支えるつもりだ

4年生の最後のレース、後輩たちに「出雲」を

4年生にとっては最後の大会となるが、それよりも「来年の出雲駅伝の予選」という意味の方が大きいようだ。

昨年の東海学生駅伝1区区間賞、6月の全日本大学駅伝選考会では全体トップの記録で走った中尾選手は「優勝して後輩に来年の出雲出場を残したいです。そのために1区を走って区間新を出したい。昨年は実習の影響で練習量が減っていたのですが、今年はしっかり練習ができています」と言う。

「最後なので(富山から)家族が見に来てくれるから」と家族への感謝も忘れない。卒業後は故郷の富山県のクラブチームで競技を続け、マラソンにも挑戦したいという。揖斐監督は「まだ走りに粗削りな面があり、まだ伸びると思います」と言う。

前主将の木村海光選手(4年・愛知総合工科)は「我々は全日本大学駅伝と出雲駅伝を目指すチーム。先輩から受け継いだものを後輩につなぎたい。4年間の集大成で後輩のために優勝して出雲の出場権を残したい。スローガンの『自利利他』の通り、後輩たちのためになることが自分のためになると思っています」という。

「主役は学生」、学生主体に方向転換

コロナ禍で全員が集合する機会が失われ、チームメイトとの関わりも変わる中でも「全日本大学駅伝、出雲駅伝を目指すチーム」という軸は変わらない。

だが運営方針は大きく変えた時期があった。幹部交替の時期など一部例外あったが「部の状況を見ながら主将の意見を参考に、GM(ジェネラルマネージャー)・監督・スタッフで活動の方針を決め、部員に監督から意図を説明し落とし込んでいくスタイル」だったという。だが「2018年ごろから学生の意見をより尊重し学生主体の運営スタイルに変えました。主役は学生」と大きく方針転換を図った。

「競技に対して本当に学生がやりたい事、やらないといけない事など学生ミーティングを経て挙げてもらい、再度主将を中心とする幹部から私にその意図の説明をしてもらって学生と一緒に方針を決めます。駅伝部の指導方針から逸脱した意見などはその場で修正し意見を言おうと思うのですが、そのような事はなかったので今まで反対した事はありません」と言うように学生は自分たちのやるべきことを理解して行動している。

「学生がやりたいことを形にし、実行させてあげる事も監督の大事な役割だと思います。私が学生のやりたい事を全力で取り組めるようにサポートする。そう決めました。学生達が自ら決めた事ですので、取り組みに対して責任をもってやれるようになりました」と語る。

「自分が思っていた監督のスタイルとは違う」という揖斐監督。学生の気質が変化している中、「本当に学生のためになっているのか?学生のために何が必要なのか?」と自問自答し、様々な葛藤を経て自分を変えた。

「監督が近くにいると嫌だろうと思って気を使って必要以上に寮にあまり行かないようにしたりして学生との距離感にも注意していた」が、最近では「自分から毎日なるべく部員全員に話しかけるようにし、学生の近くで寄り添う形を心掛けている」と言う。

選手として実績を持ち、名将と言われる監督の指導も受けた。その成功体験の押し付けにならないか、そんなことも意識しつつの行動だろう。

練習を終えた選手に声をかける揖斐監督

関東勢とは大きな差、まずは関西勢との差を埋める

11月6日に行われた全日本大学駅伝(8区間 106.8km)は関東勢以外にとって厳しい結果だった。揖斐監督の母校・駒澤大が高速レースを展開した結果、関東地区以外の大学は全て繰り上げスタートとなった。駒澤大と東海地区の代表校では10000m8名平均で2分以上の差がある。100km走れば20分の差がつく計算だ。実際に駒澤大と東海地区トップの愛知工業大では25分55秒の差がついた。岐阜協立大の当面の目標は東海地区のライバル校に勝つこと、そしてその先の関西勢となる。

そして東海地区のライバル校との真剣勝負となるのが東海学生駅伝。10000mを8人が走る全日本大学駅伝選考会から1名少ない7名で戦う。さらに区間ごとに距離が異なるため、距離が長い区間を走るエースの走りが勝敗を分けるだろう。

東海地区からも川瀬翔矢選手のように全国の舞台で活躍する選手も出てきた。

卒業後に実業団で活躍する選手もいる。八王子ロングディスタンスで10000m27分台に迫る28分02秒22で走った服部大暉選手(トヨタ紡織・愛知工業大出身)、2020年の全日本実業団駅伝7区区間3位の中西玄気選手(愛三工業・静岡大出身)だ。

大半が箱根駅伝経験者のチームの中で重要区間を任されている。一般社員と同様に勤務しながらマラソンで2時間10分切りを達成した中村高洋選手(京セラ鹿児島・名古屋大大学院出身)もいる。

岐阜協立大もそういった選手を輩出することが目標の一つだ。中西選手は新主将・天野選手と同じ益田清風高出身。実業団で活躍する先輩の存在はモチベーションの一つになるだろう。

出雲駅伝、全日本大学駅伝の常連に。そして全国で通用する選手、卒業後も活躍する選手を輩出する。それを岐阜の地で。強化開始から11年目を迎えた岐阜協立大、そして揖斐監督の挑戦は続く。

(取材・文 坂下しん/取材協力 岐阜協立大学駅伝部)

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