• HOME
  • コラム
  • パラスポーツ
  • 「第30回全国身体障害者野球大会」決勝戦は昨秋以来の両軍エース”力投再戦”の末、名古屋ビクトリーが大会連覇

「第30回全国身体障害者野球大会」決勝戦は昨秋以来の両軍エース”力投再戦”の末、名古屋ビクトリーが大会連覇

5/14(土)〜5/15(日)の2日間、「第30回 全国身体障害者野球大会」が開催された。全国16チームが神戸に集結し、各試合で熱戦が繰り広げられた。

最終回の本編は、白熱した試合となった決勝戦の模様をお届けする。※以降、一部敬称略

(取材協力 :NPO法人 日本身体障害者野球連盟 、取材 / 文:白石怜平)

決勝は昨秋の選手権の再戦に

第30回大会を締める決勝戦は名古屋ビクトリーvs岡山桃太郎の対戦。昨年秋に行われた「全日本身体障害者野球選手権大会」の決勝でも対戦しており、全国大会決勝が再戦の舞台となった。

決勝は名古屋ビクトリー(ユニフォーム:紺)と岡山桃太郎(同:白)の対戦に

名古屋は春の選抜・秋の選手権ともに第1回大会から出場を続け、30年近く全国大会に進出し続けている名門チーム。

立浪和義監督とはTV番組を通じての交流があり、山﨑武司氏と野球教室を行うなど同じ地元の中日ドラゴンズとも関わりがある。

昨年5月の第29回選抜大会では、優勝20回の王者である神戸コスモスを破り、創設初の優勝を果たした。

昨年の決勝戦で完封勝利を飾りMVPに輝いた水越大暉投手は、脚に4か所にメスを入れる手術を行い、2年以上に及ぶリハビリで現在復活を目指している最中である。

岡山は84年に創設(当時はソフトボールチームとして誕生)し、88年から連盟に加盟している古豪チーム。

昨年秋の選手権大会で名古屋を破り優勝、同大会では直近4大会中3回優勝している強豪。ただ、春の選抜は優勝経験がなく今回初制覇を狙う。

地域との結びつきが強く、地元の高校やグラブ職人が結束して選手それぞれの障害に合った特注グラブを製作するなど、県を挙げてチームの支援を積極的に行っている。

秋の選手権でも早嶋(写真:打者)、藤川(同:投手)が投げ合った

この日の先発は名古屋が藤川泰行投手、岡山が早嶋健太投手と発表され、15:10にプレーボールのサイレンが鳴った。両投手は昨秋に投げ合っており、投手戦を繰り広げながら早嶋が1-0の完封勝ちを挙げている。

藤川は左足が義足のサウスポーで、20歳の時に事故で左の膝から下を失った。18年に名古屋へ入団し、軸足が義足でも体重を残して投げられるよう猛練習を積み、チームでは”二刀流”として打撃でも主軸を担っている。

早嶋は左手首から先がない先天性の障害を持っており、中学時代から健常者のチームで野球を続けてきた。

16年に岡山へ入団後はエースとして活躍するとともに、”もうひとつのWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)”と呼ばれる「世界身体障害者野球大会」では18年の第4回大会にて日本を世界一に導くなど、日本代表のエースでもある。

両投手(写真上:藤川、同下:早嶋)が最終回まで安打1本すら許さない投球を見せた

試合は、3回までお互いに無安打ながら守備の乱れを突き名古屋が2−1とリード。その後も両先発が互いに無安打投球を続け、5回まで両軍0を刻む接戦となった。

動きを見せたのは6回表。本大会規定で7回ないしは試合時間100分で終了となるため、後者の適用でこの回が最終回に。

この回先頭の1番・松田が放った右翼線への飛球が落下点に入った右翼手のグラブをすり抜けた。後ろに転々とする中、打者代走(※)・飼沼が快速を飛ばし3塁へ。1死後、岡山は3・4番を連続敬遠で満塁策を取った。

(※)主に下肢障害の選手に適用される制度で、打者の代わりに打者走者として走る選手のこと。

そして5番はここまで力投を続ける藤川。打席では右で立つ藤川は、打率もチームトップクラスでクリーンアップを任されている。ここでは外角球を右方向へ流し打ち二塁手を強襲、両チーム通じて初安打となった。走者2人が還り2点を追加し4−1と試合の主導権を握った。

名古屋が試合の主導権を握った(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

裏の攻撃で岡山は1点を返し2死3塁と追いあげるも、最後の打者が三振に倒れゲームセット。名古屋が選抜大会2連覇を達成した。

「連覇は意識せず、目の前の試合をとにかく勝つ」

試合後、今大会のMVPに輝いた藤川と荻巣守正監督に話を聞いた。両者とも連覇についての意識は「全くなかったです」と即答し、そして「この試合にとにかく勝つ」と共通して語っていた。

「小学3年から野球を始めてから、一番幸せだと感じています。両親や家族・チームに関わるみんながいてくれたからこそ獲れた賞だと思っています」

まず藤川は仲間たちへの感謝の気持ちを真っ先に述べた。また、昨年の選手権で早嶋と投げ合い惜しくも敗れたことは鮮明に残っていた。

「早嶋君については、正直意識していました。昨年投手戦で負けたので『絶対に勝たないといけない』と。この試合・今日とにかく勝つ。そのつもりで試合に臨みました」

MVPのトロフィーを掲げる藤川

荻巣監督は、最後まで手に汗握る試合を終え「疲れましたね(笑)」とほっとした表情で第一声を吐き出した。実は高校の後輩だという藤川投手の好投を労いつつ、昨秋から取り組んできたことについて話した。

「岡山さんにリベンジができたのは大きいです。(昨秋選手権で0−1だった結果を踏まえ)練習からどんどん打たせました。試合では『三振してもいいから振って来い』と。あとは自分たちの野球をするだけでした」

夏の地方大会、勝ち抜けば秋の選手権が控えている。チームとしては春の選抜連覇に加え、秋も制覇すれば年間総合で優勝を狙える唯一のチームである。それぞれ今後について意気込みを語った。

「脚の状態や気候・環境など日々コンディションが変わるので、”今と変わらずに”ではいけないと思っています。常に進化を求めて工夫して練習に励み、夏以降の大会にベストの状態で臨んでいきます」(藤川投手)

「勝負事は勝たないといけない。負けたら何も意味はないので、とにかく秋の選手権も優勝して年間優勝を獲りに行きたいです」(荻巣監督)

表彰式での名古屋ナイン(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

昨年の復活開催に続き、今年は前々の目標の通り全16チームで完遂した。

「新型コロナウイルス感染症の影響により出場できないチーム、また決定後もやむを得ず交替となったチームもありましたが、3年ぶりに16チームがほっともっとフィールド神戸に集い、無事に大会が開催出来たことを嬉しく思います。ご協力いただいた関係者の皆様、選手の皆様、応援サポーターの皆様に感謝しています」

山内啓一郎 連盟理事長は安堵を交えてこう述べた。

今年に入りコロナ禍で活動を中断していたチームも再開した動きもあり、徐々に以前の様子が戻ろうとしている。さらには、今年開催予定から延期した「世界身体障害者野球大会」もこのまま順調に行けば、来年にも行われる見込みである。

ただ、まだコロナ禍が完全に終息したわけではない。山内理事長は今後に向けて早くも気を引き締め直した。

「引き続き感染対策を行いながら、障害者が安心して野球を楽しめる大会にしていきたいです。また来年度の世界大会の開催も見据えて、障害者野球をますます盛り上げていけるよう頑張ります」

各地で動きを取り戻しつつある身体障害者野球は、今後”リスタート”を切りさらに活気付けていく。

(おわり)

関連記事