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「淡路島生まれの超変則」樫本旺亮は自己流を貫く〜仙台大に現れた”個性派”ルーキー左腕コンビ(前編)

 仙台大からプロ入りした初の左投手・大関友久投手が、一軍の舞台で快投を続けている。強力投手陣を誇る福岡ソフトバンクホークスの先発ローテーションに定着し、ここまで5勝3敗、防御率1.94(6月30日現在)。6月25日の日本ハム戦では、今季2度目の完封勝利を挙げた。

 仙台大からプロ野球選手が輩出され始めたのは、意外にもここ10年以内のことだ。2015年に当時のエース・熊原健人投手がDeNAからドラフト2位指名を受け、仙台大初のプロ野球選手が誕生。その2年後には、馬場皐輔投手が阪神からドラフト1位指名を受けた。大関は19年ドラフトの育成2位指名でソフトバンクに入団し、21年に支配下登録を勝ち取った。

 近年は野手の指名も増加し、次々と逸材が集まってきている仙台大。この春は大関同様、プロで活躍するポテンシャルを秘めた二人の左投手が現れた。オーバースローとサイドスローを使い分ける超変則左腕・樫本旺亮投手(淡路三原)と、最速151㌔のストレートが武器の速球派左腕・渡邉一生投手(日本航空/BBCスカイホークス)。樫本は仙台から遠く離れた兵庫県・淡路島の公立校出身で、渡邉は強豪高校を辞めクラブチームを経て入学した。

 異色の経歴と確かな実力を持つ、注目のルーキー左腕コンビを取材。前編では樫本に、自身で生み出した独自の投法へのこだわりを聞いた。

超変則左腕が開幕戦で奪三振デビュー

 4月9日。仙台大と宮城教育大による春季リーグ戦の開幕カードは、仙台大が序盤から大量リードを奪う展開に。9-0で迎えた6回二死走者なし、左の好打者が打席に入るところで、樫本の名前がコールされた。身長181センチの高身長左腕は、「1年生からリーグ戦に登板できる喜びと、ゲームを崩したくないというプレッシャー」を感じながら、マウンドへ向かった。

サイドで投げる樫本(仙台大野球部提供)

 強烈なインステップで投げる独特なフォームに、観客の目が釘付けになる。初球、2球目はサイドで1ボール1ストライク。3球目はオーバーで空振り。早速“投げ分け”を披露し追い込むと、その後カウント2-2とし、最後はオーバーのストレートで攻め切り見逃し三振を奪った。この日投じた6球のうち4球がサイド、2球がオーバーで、いずれもストレートの球速は140㌔近くを計測。打者は全くタイミングを合わせることができなかった。

 その後は登板機会がなく、開幕戦が唯一の登板となったが、樫本の存在を印象付ける圧巻の6球だった

淡路島で完成した“二刀流”投法と強烈インステップ

 サイドとオーバーの比率は「7:3くらい」で、球種はサイドがストレート、スライダー、ツーシーム、チェンジアップ、オーバーがストレート、チェンジアップ。オーバーのストレートは「変化球の1つ」と捉えており、オーバーで投げるタイミングは他の変化球同様、捕手の判断に任せている。樫本の代名詞とも言えるこの投法が確立されるまでには、紆余曲折があった。

オーバーで投げる樫本(仙台大野球部提供)

 淡路島で生まれ育った樫本が本格的に野球を始めたのは、小学4年の時。小学6年になる前頃から投手としてプレーしたが、当時からインステップ(投球時、軸足と反対の足が軸足のつま先寄りに着地する状態)で投げる癖があった。インステップは体に負担がかかる上、コントロールが乱れやすいことから、若い内に修正するケースが多い。樫本も修正を試みたが、なかなか直せずにいた。一時は所属チームのコーチに「投手失格」の烙印を押され、外野手への転向を余儀なくされた。

 そんなある日、別のコーチから「サイドで投げてみないか」と提案された。実戦の中で打者が打ちづらそうにしているのを見て、インステップの続行とサイド転向を決意した。高校は地元の淡路三原に進学。入学直後、「打者を打ち取るために上と横を投げ分けてみたらおもしろいんじゃないか」と自ら思い立ち、オーバーでも投げるようになった。こうして試行錯誤の末、“二刀流”投法が誕生した。

充実の高校生活、元プロコーチの目にとまり杜の都へ

 淡路三原では、1年秋からエースナンバーを背負った。着実に力をつけ、3年の夏は4試合すべてで先発、完投。チームを創部初の県ベスト16入りに導いた。特徴的なフォームと投法に実績が伴ったことでプロ球団からも注目されるようになり、自身も「思っていた以上に結果を残すことができ、得るものが多かった」と手応えを感じていた。

 一方、3年夏の5回戦では滝川二高の加藤洸稀投手(現・ソフトバンク)に投げ負け、ボールの質や投球術の差を痛感。プロに行きたい気持ちもあったが、「大学4年間で力をつけて、もう一度プロ野球に挑もう」と、次なるステップでの成長を誓った。

仙台大第二グラウンドで笑顔を見せる樫本

 「変な左ピッチャーがいるな」。仙台大の坪井俊樹コーチは、樫本の投球をネット上の動画で見つけ一目惚れ。これまで淡路三原から仙台大に進んだ選手はいなかったが、直接高校に赴き誘った。坪井コーチはロッテに3年間在籍した元プロ野球選手で、現役時代は左投手。樫本と同じ兵庫県出身ということもあり、共通点の多い教え子への期待値は高い。“二刀流”投法については、「サイドだけでもいいが、オーバーも魅力的。長い時間をかけて判断していきたい」と話す。

独自のスタイルにこだわる理由

 当の本人は、「野球人でいる限り、引退するまでこの投球スタイルを続けたい」ときっぱり。その理由は、「サイドもオーバーも、自分が成長するのに必要な技術だから」だ。サイドに転向したからこそ、諦めかけていた投手としての道が見えた。この投法にたどりついたからこそ、プロに注目されるほどの投手になった。

新人戦決勝後の樫本(右端)。新人戦では登板機会がなかった

 仙台大投手陣は、大関に続けと左の好投手の成長が著しい。春季リーグ戦で5勝1敗、防御率1.13と安定した投球を披露したエース長久保滉成投手(4年・弘前学院聖愛)、仙台育英で活躍した向坂優太郎投手(2年)、新人戦決勝で先発に抜擢された池田亮太投手(2年・千葉敬愛)ら、実力者が名を連ねる。

 ただその中でも、磨き続けてきた唯一無二の個性を発揮する自信がある。「大学でも野球を続けるからにはエースになりたい。4年間で怪我をしない体づくりをして、自分の持ち味を生かして戦っていく」。力強くそう宣言した。

 後編では、樫本の最大のライバル・渡邉の野球人生に迫る。

(取材・文・写真 川浪康太郎/一部写真提供 仙台大野球部)

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