ジャパンウィンターリーグで「明日」を目指す選手たち
広尾晃のBaseball Diversity:09
今年から始まったジャパンウィンターリーグは、高校、大学、社会人、独立リーグなど様々なキャリアを持つ野球選手たちが沖縄に集結し、11月末から1か月をかけて22試合のリーグ戦を戦うトライアウトリーグだ。
トップ画像 ジャパンウィンターリーグ公式戦
日本で初のトライアウトリーグ
主催者の弱冠30歳の鷲崎一誠氏。鷲崎氏は佐賀西高校、慶應義塾大学で野球をしたが、大学在学中は出場機会に恵まれず、4年生のときにアメリカのカリフォルニアリーグと言うトライアウトリーグに参加し達成感を得た。卒業後はアパレルメーカーに就職したが当時から「30歳で起業」を心に秘めていて、沖縄に株式会社ジャパンリーグを設立し、ジャパンウィンターリーグを創設したのだ。
たまたまこの時期に、同じ沖縄県を舞台として、独立リーグ琉球ブルーオーシャンズが「アジアウィンターリーグ」の開催を発表していたが、直前に中止した。
その影響もあってか、120人の予定に対し、参加した選手は66人だった。選手たちは、4チームに分かれて11月26日からほぼ1ヶ月にわたって22試合を戦う。参加費は選手が支払う。フル参戦は35万円、半期でも24万円。小さくない金額だ。宿泊はアトムホームスタジアム宜野湾(宜野湾市民球場)に隣接するラグナガーデンホテルだ。参加費は高額だが、野球をする環境としては理想的だ。
通常、日本のトライアウトは1日限りで、選手に与えられるのは投手は打者3人、打者は5打席程度だが、ジャパンウィンターリーグは打者はフル参戦で60打席、半期でも30打席以上。投手も10イニング以上が与えられる。実力をアピールできるのだ。
開幕からNPBのスカウトや独立リーグ、MLBの関係者の姿もあった。注目度は高いのだ。
リーグ参加には様々な目的が
ただしこの時期は、NPBのドラフト会議は終了している。仮にスカウトの目に留まった選手がいたとしても、翌年はどこかのチームで1シーズンプレーしなければならない。
アメリカのドラフト会議は毎年6月であり、指名された選手は速ければ翌年夏にはプロでプレーできる。
日本でトライアウト目的のウィンターリーグがあまり盛んにならないのは、こうした日程上の問題があったのだ。
ただ今回のジャパンウィンターリーグは「プロに行く」だけでなく「自分のスキルアップをする」と言う目的もある。また鷲崎代表がそうだったように「好きな野球をやり切る」ことを目的にする選手もいるのだ。
精細な情報発信も特長
ジャパンウィンターリーグは、選手のパーソナルデータをオンタイムで発信している。試合の模様はYoutubeで配信される。ラプソードを使った投手の球速、回転数、打者の打球速度の数値の他、打撃を数値化できる「BLAST」のデータなども計測し、発信している。
開幕2日前の11月24日には、選手のパーソナルデータの計測が行われた。助走をつけてボールをネットに投げ込み、球速を計る「プルダウン」ではトヨタ自動車の坂巻尚哉が161㎞/hと言うすごい数字を出した。
こういう形で、選手の情報をこれまでになく精細に発信するのもジャパンウィンターリーグの特色だ。
参加している選手に話を聞いた。発表されたパーソナルデータも付ける
新しい環境で何かをつかみたい
稲葉直哉 投手 東京ガス
26歳 182㎝86㎏ 左投げ左打ち
50m走6.87秒 プルダウン未計測 垂直跳び51.2cm
西武文理高校 – 琉球大を経て2021年、東京ガスに。
「実戦を経験したい、新しい環境で新しい何かをつかみたいと言う思いで参加しました。
新しい環境で試合をして、何かをつかみたいですね。
社会人で野球をしていますが、やるからにはプロに行きたいと言う思いを持っています。
大学時代は社会人に進むことを考えていました。安定した環境で野球をさせていただいていることには感謝していますが、やっぱりうえでやりたい気持ちが強いですね。またジャパンウィンターリーグも出張扱いで、お金を出していただきました。感謝しかないですね。
持ち球はまっすぐとスライダー、コントロールより球の勢いで抑えるタイプです。
試合ではどうしても気負ってしまうのですが、気負わなくて自分のできるプレーをしっかり出していければ、成果も見えてくるのではないでしょうか。
いいものを持ち帰って、チームで活躍してドラフトにかかりたいですね」
オファーがあればどこでもプレーしたい
陣野哲聖 外野手、三塁手
23歳 172㎝78㎏ 右投げ両打ち
50m走6.80秒 プルダウン127㎞/h 垂直跳び49.1cm
新居浜商業高校出身
「高校時代は野球部に入っていましたが、途中でやめてテニスをやりました。
でも卒業後、また野球がしたくなって自分で体を作って、体の動きの仕組みを理解して自分なりに努力してきました。
でも、なかなかユニフォームを着てプレーする機会がなかったんです。
プロを目指すと言うより、どこでもオファーをいただければそこでプレーしたいと思っています。一番の売りはバッティングです。
チームメイトになった社会人の選手とは違うなと思うことがたくさんありますが、歯が立たないかどうかはやってみないとわかりません。
やってみた結果、明らかに通用しなければ、諦めようかなとも思っています。 参加費は親に頼んで出してもらいました。ダメなら働いてすぐに返すつもりです」
自分のポテンシャルを引き出したい
梶 颯馬 遊撃手、二塁手
21歳 172㎝72㎏ 右投げ右打ち
50m走6.33秒 プルダウン146㎞/h 垂直跳び56.2cm
慶應義塾高校 – THINK フィットネス GOLD’S GYM ベースボールクラブ – 慶應義塾大学
「大学までの一貫校で、大学でも野球ができるのですが、もっと高いレベルで野球がしたいとクラブチームで野球をしています。社会人野球を経てプロに行きたいと考えています。
ジャパンウィンターリーグは、たくさん試合に出ることができる環境があると聞いて応募しました。両親は“頑張ってこい”とお金を出してくれました。しっかり感謝していい報告をしたいと思います。
社会人選手の人は本当にすごいポテンシャルを持っていると思います。周りのレベルは凄く高いですね。売りは守備です。スローイングと肩が持ち味です。
アドバイスも貰って自分のポテンシャルを引き出したいと思います。スカウトの声がかかればいいなと思います」
井の中の蛙を脱したい
二瓶洋輔 外野手、一塁手
22歳 172㎝96㎏ 左投げ左打ち
50m走6.6秒 プルダウン117㎞/h 垂直跳び51.5cm
東海大学付属静岡翔洋 – 横浜中央クラブ – レラハンクス富良野BC – 兵庫ブルーサンダース – 神戸三田ブレイバーズ – 和歌山ファイテングバーズ
「今独立リーグの和歌山にいますが、チームの雰囲気は割と気に入っています。自分の可能性を知りたくて、ジャパンウィンターリーグに来ました。今年1年やってきたことを表現出来たらな、と思っています。
高校を出てからクラブチームや独立リーグで野球を続けてきましたが、井の中の蛙だと思っています。
社会人野球の選手は刺激になります。いいものを吸収したいですね。
選手としては足が速くてミート力があると思っています。ジャパンウィンターリーグの選手は球の切れがあるので、早さに負けないようにスイングしたいと思います。
参加費用は自分で出しました。来季の予定は決めていません。和歌山はいてもいいよと言ってくれていますが、良い結果を出したいと思います」