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攝津正氏(元ソフトバンク)&石田裕太郎(DeNA)「勝つためのデータとの向き合い方」

元ソフトバンク・攝津正氏とDeNA・石田裕太郎による新旧「精密機械投手」対談が実現。

球のキレと制球力を大事にする2人は、「試合に勝つ」ことを最優先に考える。解析データとの向き合い方や効果的な利用方法について大いに盛り上がった。

DeNA・石田裕太郎(写真左)と元ソフトバンク・攝津正氏。

「高校時代から攝津さんのYouTube動画を見て研究していました」と石田は語る。

高校時代のコーチが攝津と知り合いだった縁もあり、ソフトバンクを支えた右腕の投球に学生時代から熱視線を注いでいたという。

攝津氏はソフトバンク実働10年で282試合登板、79勝49敗1セーブ、防御率2.98を記録。最多勝利、最高勝率、最優秀中継ぎ投手(2度)のタイトルを獲得した。石田は2023年ドラフト5位で中央大からDeNA入団、プロ1年目から12試合登板(12先発)、4勝3敗、防御率3.97を挙げた。

「(攝津氏は)打者の狙いを外してうまく打ち取る。『球質が安定している』と感じた。少しでも近づけるように、いろいろ試しました。データ解析もその1つで、うまくはまった感じです」(石田)

石田は常に試行錯誤を重ね、「打たれにくい投手」を目指す。

~ラプソードが使えるタイミングを見計らってブルペンへ入った(石田)

さまざまな形のデータ解析が可能になった。「トラックマン」や「ラプソード」はその一例で、投手は球質と投球フォームの改善に有効活用することができる。

「トラックマン」と「ラプソード」は、投球の軌跡を捕捉してデータ化するトラッキングシステム。「トラックマン」は主にレーダー技術を用い、「ラプソード」は画像解析がベースとされる。ボールの軌道等を正確に計測でき、球速、回転数(回転速度)、回転効率、変化の大きさ、ボールの位置や変化量等が把握できる。

石田

「高校時代に初めてラプソードを使って球速を測るところから始めました。『どのように活用するのか?』という知識も当時はなかったので、球速を目安にするところからでした」

攝津氏

「現役時代にトラックマンは活用していました。大学の研究チームが協力してくれて測定。球速は気にせず、骨格の動きとボールの回転軸を測るのがメインで、自分のクセや球質を知るために活用しました」

一般的に、「トラックマン」は球場等に設置された大型機器、「ラプソード」は個人練習での使用もできるコンパクト機器とされる。近年ではアマチュア球界でもラプソードを活用するのが当たり前になりつつある。

石田

「大学時代(中央大)には1台しかなかったので、空いているタイミングを見計らってブルペンに入り計測しました。球速、回転軸、力の伝達具合などの数値を確認していました」

攝津氏

「今はしっかり解析できるシステムや体制も整っています。手軽に計測して球質や投球フォームの改良をできるよ。現役時代にラプソードがあったら良かったと感じます」

「自分の特徴や良さを失わないようにして欲しい」と攝津氏は強調する。

~数値を使わず感覚だけに頼るのは効率が悪い(攝津氏)

トラッキングシステムを使って自身の詳細データを手に入れやすくなった。「重要なのはデータをどのように活かすか?」と両者は口を揃える。

攝津氏

「数値によって個性と欠点を履き違えてしまい、長所を失う危険性もある。自分の投球フォームやスタイルをしっかり理解した上で、良い特徴を失わないようにして欲しい。周囲のサポートも重要です」

石田

「僕は高校の1学年下にデータに詳しい後輩がいて、何かあるとアドバイスをもらえました。『シュート回転が長所なので、活かすために腕の位置を少し下げてみれば』と意見をくれて試したらハマりました。野球人生の大きな転期になりました」

攝津氏

「個性が消えなかった素晴らしい例です。石田投手の投球スタイルを熟知した上でデータをしっかり解析、アドバイスをくれた。データの理想的な使い方だと思います」

石田

「『シュート回転はダメ』と言われますが武器になることもある。中途半端なシュート回転になると危険ですが、それも数値に現れるので対応できるようにしています」

攝津氏

「数値があれば原因を突き止めた上での修正が可能。感覚頼りの修正の場合は、映像を見たり捕手と会話した上で1球ずつ試行錯誤するので効率が悪い」

石田

「僕の場合は、指が真っ直ぐボールにかかって力が最大限に伝わった時にシュート回転します。その状態で常に投げられるように心掛けています」

「リリースで最大限の力がボールに伝わった時にシュート回転する」こと特徴を認識している。

~マダックスを達成した日の数値は良くなかったと思う(石田)

トラッキングシステムが常設された球場も増えた。練習中のみならず試合中もデータを参考にできる環境も整い始めている。

石田

「試合中にデータ数値は見ていないです。悪い数値でも打者を抑えられる日もあれば、その逆もあります。数値に左右されるとメンタル的にも良くないと思いますから」

攝津氏

「1球ごとの数値を見て考え過ぎるのは良くない。方法次第では参考にはできると思いますが、『試合中に頼るデータではないのかな』と思います」

石田

「『打者から見てどうなのか?』が大事。良い球だと思っても打者から球筋を見やすければ意味がない。データ数値が理想から遠くても、打者を打ち取れることも多々あります」

イチロー氏が「データだけに頼るのではなく、頭や感覚を使った駆け引きを忘れないで欲しい、と発言したことにも納得した」と両者は語る。

攝津氏

「良い球を続ければプロの打者は対応します。逆に良くない球でも打者の感覚をズラせば打ち取れる。見せ球等も有効活用して、1人ずつ打者を打ち取ることを考えないといけない」

石田

「試合に勝つことが最大目標。マダックス(100球以内での勝利)が話題になりますが自分では考えません。例えば、スゴい球を持っていれば全部ストライクゾーンに投げてマダックスを目指しますが、そうではないから見せ球を活用する必要もあります」

攝津氏

「先発投手は、年間を通じて安定した投球を続けてローテーションを守ることが重要。1人ずつ確実に打者を打ち取っていく積み重ねを考える。それが『試合を作る』ということです」

「マダックスをやった時(2024年6月16日の西武戦、95球で完封勝利)も身体が重く調子は良くなかった。データ数値も悪かったと思いますが、結果が出ましたから」と石田は振り返る。データ数値に表れない感覚部分の重要性が伝わってくる。

勝負のプロ2年目がスタート、さらなる進化を期待させる。

~変化球習得にデータは有効活用できる(石田)

「プロ1年目は全く活躍したと思えない。でも多少の経験は積めたのでそれを活かさないと意味がない」と石田は続ける。

石田

「勝っても負けても、『次を目指す』という意識が強い。結果は終わったことですから…。マダックスをした時も、すぐに『次がある』と考えました。もちろん投げている時には、勝利に強くこだわりたい」

攝津氏

「素晴らしい考え方です。投手なので打たれて忘れられないことも出てくる。これも上手くなるためには必要なことだと思いますが、石田投手の場合はそこもうまく活かせそうです」

「プロで長くやっていくためにレベルをどんどん上げたい」と石田は何度も口にした。そのためにはデータ等、使えるものは何でも活用するつもりだ。

石田

「(データ数値は)変化球習得に使えるはず。感覚ではなく、『この回転数値が出るので握りを変えてみよう』と試せます。その時が来たら、最強の武器を身に着けられるように有効活用したいです」

攝津氏

「ボールの内容を把握しつつ自分を知ることができるから、変化球も効率的に習得できる。データとの向き合い方を理解しているのがわかります」

この先、長く続くはずの投手人生についての話は尽きない。「(石田は)間違いなく一流投手になれる。数年後にどこまで伸びているのか楽しみしかないです」と攝津氏は太鼓判を押してくれた。

データのみに頼ることなく、良好な関係を保てれば投手として成長できるはずだ。

トラッキングシステムによるデータ収集が身近になった。重要なのは両者が強調したように、「数値をどう読んで活かすか?」である。

新旧「精密機械」と呼べる2人。攝津氏の言葉からは、今ほどデータが豊富でなくても結果を残してきた理由がわかる。そして、プロ2年目にして地に足を着けてデータと向き合っている石田には驚かされた。打者の打ち気を外して勝利を目指す右腕の活躍に注目していきたい。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・横浜DeNAベイスターズ、攝津正、鴛海秀幸、グローバルポーターズ株式会社)

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