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1ヶ月のロングランを完走して、2022年12月25日、第1回ジャパンウィンターリーグ閉幕

広尾晃のBaseball Diversity:11

ジャパンウィンターリーグは、高校、大学、社会人、独立リーグなどで野球をしてきた選手たちが「次のステージ」を目指すために野球をする「トライアウトリーグ」だ。

日本でいうトライアウトとは、たった1日選手が球場に集まって投手は3人程度、野手も3打席程度プレーを披露してスカウトなどに評価してもらうイベントだが、ジャパンウィンターリーグはほぼ1ヶ月、20試合以上を戦って実力を披露する。

アメリカではこうしたリーグは盛んにおこなわれているが、日本では初めてだ。

公式戦の様子

第1回ジャパンウィンターリーグは、2022年11月26日に開幕し、12月25日に無事閉幕した。当初は120人の選手の参加を予定していたが、実際に参加したのは69人だった。

今回のリーグの最大の売りは、選手のパフォーマンスをYoutubeを通じてオンタイムで発信するとともに、パーソナルデータや成績も詳細に紹介したことだ。

現地には多くのスカウト、野球関係者が集まったが、データをオンタイムで発信することで「リモートスカウティング」も実現した。この試みも大きく注目された。

投打の成績

参加選手の各部門の投打成績を紹介しよう。()は所属または最終に所属したチーム。

■打撃成績各5傑

〇安打数

三浦良裕(Honda)23歳 27安打

峯村貴希(Honda)23歳 25安打

Lピーターズ(ワーナー大)23歳 25安打

中川広大(BCL石川)25歳 24安打

岩本久重(Honda)23歳 23安打

〇本塁打

中川広大(BCL石川)25歳 3本

小川龍馬(明治学院大)31歳 3本

甘露寺仁房(日本海L滋賀)27歳 3本

2本 6人

〇打点

岩本久重(Honda)23歳  22点

上村広野(関西独L堺)24歳 19点

三浦良裕(Honda)23歳 18点

中川広大(BCL石川)25歳 16点

甘露寺仁房(日本海L滋賀)27歳 16点

〇盗塁

三浦良裕(Honda)23歳 13個

峯村貴希(Honda)23歳 12個

浦谷怜旺(追手門大)23歳 6個

岩本久重(Honda)23歳  5個

今野尋斗(帝京大)21歳 5個

佐藤勇基(トヨタ)24歳  5個

〇打率(50打席以上)

三浦良裕(Honda)23歳 .474(57打27安)

岩本久重(Honda)23歳  .418(55打23安)

小川龍馬(明治学院大)31歳 .400(50打20安)

峯村貴希(Honda)23歳 .391(64打25安)

中川広大(BCL石川)25歳 .381(63打24安)

打者は成績上位に社会人野球から派遣された選手が並ぶ。中にはすでにNPB球団からドラフト指名のための「調査書」を貰っている選手もいる。ドラフト候補のポテンシャルは高い。

また独立リーグから挑戦している選手も成績を残している。

公式戦の熱戦

■投手成績各5傑

〇投球回

 幸地亮汰(ビッグ開発)24歳 31回

 嘉陽太一(てるクリニック)20歳 31回

 大城蓮(美里工高)21歳 31回

 北方寛大(REXパワーズ)23歳 29回

 西川貴雅(関西独L堺)24歳 25.1回

〇勝利数

 田邊駿典(相洋ソフトボール)20歳 3勝

 北方寛大(REXパワーズ)23歳 3勝

 西川貴雅(関西独L堺)24歳 3勝

 2勝 6人

〇防御率(15回以上)

 山下拓馬(Honda)22歳 1.06

 松川竜之丞(沖縄電力)25歳 2.25

 今西拓弥(Honda)24歳 2.38

 橋本隼(四国IL徳島)33歳 2.72

 山城悠輔(沖縄電力)25歳 3.00

〇奪三振数

 幸地亮汰(ビッグ開発)24歳 40三振

 北方寛大(REXパワーズ)23歳 32三振

 大城蓮(美里工高)21歳 31三振

 西川貴雅(関西独L堺)24歳 24三振

 橋本隼(四国IL徳島)33歳 23三振

〇WHIP(15回以上)

 松川竜之丞(沖縄電力)25歳 0.94

 山下拓馬(Honda)22歳 1.06

 橋本隼(四国IL徳島)33歳 1.18

 山城悠輔(沖縄電力)25歳 1.19

 藤淵優大(京都城陽ファイアバーズ)25歳 1.22

リーグ全体はやや「打高投低」で、打撃戦が多かった。社会人から派遣された選手は野手が多かったので、投手は様々なキャリアの選手の名前が並んだ。

彼らの多くは、この成績をアピールして、新たなステージに進もうとしている。

様々な成果が上がる

筆者は開幕直後と終幕直前にジャパンウィンターリーグを訪れた。開幕直後の段階では、まだ選手同士のコミュニケーションもぎごちなく、チーム全体もこなれていない印象だったが、終幕直前になると選手は互いのキャラクターも知って、チーム、そしてリーグに参加している選手全体に一体感が出ていた。

こうした長丁場のイベントでは、人間関係が悪化してぎすぎすした空気になることもあるが、そういう空気は全く感じなかった。それよりも同じ目的を持つ若者同士の連帯感が強まったような印象を持った。

社会人野球や独立リーグ、クラブチームなど野球のキャリアは様々だったが、選手たちは互いに技術を教え合い、切磋琢磨する雰囲気が生まれていた。

これは、チームの監督に相当するゲームディレクターや、リーグ運営をするスタッフのマネジメント、オペレーションが優秀だったことが大きいのではないか。

今回はウガンダからボゲラ・ムサ、エドリン・カトゥーという16歳の選手が参加していたが、捕手のムサは人懐こい性格で、チームのアイドル的な存在となっていた。

最終日の試合は、ある野手のエラーがきっかけで勝負が決まった。ロッカールームでその選手は泣き崩れたが、アンバサダーの斉藤和巳氏が、その選手の肩に手を置いて30分も彼と話をしていた。このシリーズに臨む選手たちの真摯な姿勢を象徴するようなシーンだった。

前回、このコラムで、アナリストの星川大輔さんの指導で、データの計測や分析に挑戦する東京スポーツ・レクリエーション専門学校スポーツ科学トレーナー科スポーツアナリスト専攻の3人の学生を紹介したが、その中の一人岡田潤君が、トラッキングシステム「ラプソード」のインターンになることが決まった。選手だけでなく、様々なスタッフにとっても貴重なトライアルの機会になっているのだ。

アナリストの卵たち。北林慎之介君(左)、岡田潤君 

根鈴雄次氏の体験談を聞く

ジャパンウィンターリーグでは、夜に「レベルアッププログラム」を開講していた。MLB選手の身体のメンテナンスもするトレーナー、データアナリストなどが、レベルの高い専門的な話をした。

任意参加だったので、試合で疲れて出席しない選手もいたが、熱心にメモを取り、積極的に質問をする選手もいた。

12月24日には、「レベルアッププログラム」の最終講座として、根鈴雄次氏が講演をした。

根鈴氏は法政大学を卒業後、単身アメリカに渡り、トライアウトを経てMLBのモントリオールエキスポズに入団。1シーズンのうちにマイナーリーグのA、AAを経てメジャーの一つ下のAAAまで昇格。日本人選手でマイナー契約からAAAまで昇格した選手は3人いるが、AAAで中軸打者として活躍したのは根鈴氏だけだ。

惜しくもMLB昇格はならなかったが、その後もアメリカ大陸や日本の独立リーグで活躍。現在は横浜市で「アラボーイ根鈴道場」を開き、アメリカ野球に挑戦する若者にバッティングを教えている。またオリックスの杉本裕太郎などプロ選手も指導している。

根鈴氏は選手を前に、自らのキャリアを紹介し、20代のうちは積極的に世界の野球を体験して経験値を高めていくべきと話した。

またNPBを頂点とする日本野球とは異なるMLBの打撃技術なども具体的に紹介した。

選手からは技術論や、海外で挑戦するための心構えなどの質問が相次いだ。

こうした講演も非常に有意義だった。

根鈴雄次氏の講義

みんな明日からはバラバラに散っていく

2022年12月25日、沖縄県読谷村のオキハム平和の森球場で、ジャパンウィンターリーグ最終日を迎えた。

4つのチームに分かれて行われたリーグ戦は、ストリングスが優勝。MVPにはストリングスの捕手でHondaの岩本久重が選ばれた。大阪桐蔭、早稲田大からHondaというエリート選手だが、打率.418(2位)、2本塁打(5位タイ)、22打点(1位)と打撃でも目覚ましい活躍だった。

MVPを受賞した岩本久重

閉会式ではアンバサダーの斉藤和巳氏、GMの大野倫氏、沖縄県知事代理、読谷村村長もコメントして。1ヶ月に渡った長いリーグ戦の成功を祝福した。

閉会式には根鈴雄次氏、マック鈴木氏も姿を見せた。

メッセージを寄せる斉藤和巳氏、左は大野倫氏

最後に演壇に上がった鷲崎一誠代表は

「満足できた人も、悔しい思いをした人もいたと思いますが、チャレンジですから皆さん、卒業生として羽ばたいていってほしいと思います。

僕もカリフォルニアのウィンターリーグに参加して、副代表の山田京介さんと出会いました。そして8年後にウィンターリーグを実現させました。

卒業する皆さんは、世界の野球界をプレーで、またビジネスで背負ってくれる人たちだと思います。がんばってください」

会場のあちこちでは記念写真を撮るグループができた。1か月間、家族のように過ごした選手たちは、明日からはまた各地に戻り、各々の野球人生を生きていく。

また今年11月も元気な選手たちの姿を見たいと思う。

鷲崎一誠氏のあいさつ


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