DDTプロレス KO-D無差別級王者 樋口和貞 1.29後楽園 6度目の防衛戦に挑む!
昨年7月、DDTプロレスが開催するシングルトーナメント「KING OF DDT 2022」で初優勝しKO-D無差別級王座を戴冠した樋口和貞。タイトル獲得を境に樋口のレスラー人生は一変。KING OF DDT決勝で戦った吉村直巳と「ハリマオ」を結成するとKO-Dタッグ王座を奪取し2冠王者に。今回王座戴冠後、樋口曰く「人生で最も濃い7ヶ月間」を振り返るとともに1.29後楽園で行われるKO-D無差別級王座戦について聞いた。(取材/文:大楽聡詞、取材協力/写真:DDTプロレスリング)
KO-D無差別級王座戴冠後の7ヶ月間は、これまでの人生でもっとも濃密な時間
樋口和貞(ひぐち かずさだ)1988年10月24日生まれ。2013年12月まで大相撲の八角部屋に所属していた。2014年11月28日に若手主体のプロジェクト「DNA」の旗揚げメンバーとしてデビュー。2017年7月にDDTへ移籍。これまで何度もKO-D無差別級王座に挑戦しチャンスを手にするもベルトに手が届かなかった。
だが2022年7月3日後楽園、DDTの頂点を決めるKING OF DDTトーナメントで初優勝を果たし悲願のKO-D無差別王座初戴冠。以前、樋口は「トーナメントやリーグ戦は苦手」と話していた。彼の中でどんな変化が起こったのか。2022年7月のKING OF DDTを振り返ってもらった。
「1回戦が最近力をつけている納谷幸男、かなり手強かった。2回戦は高梨将弘さん、力では自分に分がありますが一瞬の隙をつく能力に優れている選手。それを乗り越えた上で因縁の相手・秋山準との戦い。でもここを勝たないと『レスラーとして上に上がるチャンスはない』と考えました」
2021年3月、樋口は当時KO-D無差別級王者だった秋山に敗れ、秋山の腰にベルトを巻いた。正確にいうと「巻かされた」。負けた相手の腰にベルトを巻くことは敗者にとって屈辱的な行為。観客席から「樋口、巻くな!」との声も上がった。
2022年6月KING OF前に話を聞いた際、樋口は「2021年3月の秋山戦から自分の中の時計が止まっている」と語った。
だが今回トーナメント準決勝で秋山と対戦した時、「秋山さんを苦手としていた自分はいなかったかも知れない。純粋に準決勝まで勝ち上がってきた秋山さんとぶつかり倒すことしか頭になかったです」と話す。
実は「秋山に対する苦手意識」を忘れるくらい大きな出来事が昨年6月に起きた。DDTプロレスはサイバーエージェント傘下の「株式会社サイバーファイト」に所属。ここにはDDTプロレスの他、プロレスリング・ノア、東京女子プロレス、ガンバレ☆プロレスが属している。2021年から4団体合同のイベント「サイバーファイトフェスティバル(以下 サイバーファイトフェス)」が開催されている。
2022年6月のサイバーファイトフェスでDDTプロレスとプロレスリング・ノアの対抗戦が6人タッグマッチにより行われた。その試合でノアの中嶋勝彦の張り手が当時KO-D無差別級王者の遠藤哲哉の顔面を捉え脳震盪でレフェリーストップ。「プロレスとはなにか?」を突きつけられた試合だった。
プロレスファン以上にDDTのレスラーは考えさせられたはず。そのサイバーファイトフェス直後に開催されたのがKING OF DDT。サイバーファイトフェスで遠藤のタッグパートナーだった樋口は責任を感じていたのかもしれない。
そして秋山戦の勝利に浸る間もなく同日行われる決勝戦に頭を切り替えた。
決勝の相手は苦楽を共にした仲間DNA出身の吉村直巳。「俺がDDTを背負う」という2人の覚悟がぶつかる一戦は樋口に軍配が上がった。樋口はトーナメント初優勝、そして前王者・遠藤哲哉のベルト返上で空位となったKO-D無差別級ベルトを手にした。KO-D無差別級王座初戴冠、名実ともにDDTのトップに立ったのだ。試合後、因縁の相手・秋山が登場し樋口の腰にベルトを巻いた。
「これまでの思いが報われましたね。とにかく結果が出なかった。30年以上生きてきた中での集大成が、昨年7.3後楽園でのKO-D無差別級ベルト戴冠でした。『2021年3月、秋山さんの腰にベルトを巻かされたこと』『8年間プロレスを続けながら大切な場面で結果を出せなかったこと』『相撲を中途半端に辞めたこと』、これまでの人生が浄化された気がしました。やっとEruption(イラプション)のメンバーに晴れ姿を見せることができたし、本当にこれまでの人生が報われました」
Eruption(イラプション)を脱退、新ユニット「ハリマオ」のリーダーに!
Eruptionは樋口が2022年7月まで所属していたユニット。2019年9月、樋口は右膝後十字靭帯断裂で欠場。復帰に向けたリハビリ期間中、いろいろアドバイスをくれたのが坂口征夫だった。同じように欠場中、樋口を心配してご飯に誘ってくれた赤井沙希。彼らと同じ時間を共有し「DDTの景色を変えたい。新しいものを出したい」と意見が一致。2020年1月Eruptionが結成された。現在は若手の岡谷英樹も加わった。
樋口は7.3後楽園でKING OF DDT決勝を争った吉村と7.7新宿でタッグを組んだ。
「吉村は後輩とはいえ、元々DNA時代に苦楽を共にしたメンバーです。だから彼と組んだら、『DDTの中で新しい戦いを見せられるのかな』と思いました」2人の戦いを見た坂口は「樋口、もういいだろう。今日でEruptionから巣立て」と卒業を告げた。同じようにDISASTER BOX(ディザスター・ボックス)に所属していた吉村もユニットを卒業。吉村と2人で新ユニット「ハリマオ」を結成した。
DDTトップの証「KO-D無差別級王者」だけではなくユニットのリーダーになった樋口。吉村とのタッグ「ハリマオ」は7.24後楽園でKO-Dタッグ王者MAO・朱崇花組に勝利しベルトを奪取、樋口は2冠王に輝く。
KO-D無差別級王者とKO-Dタッグ王者・樋口和貞、2022年防衛ロード
KO-D無差別級王座戴冠後、樋口は8.20大田区大会で前KO-D無差別級王者・遠藤哲哉を迎えた。樋口が初防衛戦の相手として遠藤を指名したのだ。
「自分はKING OF DDTトーナメントで優勝したけど、遠藤哲哉に勝ってKO-D無差別級王者になったわけではない。だから復帰した遠藤を待ち、最初の挑戦者として彼と戦いたかった」
真のKO-D無差別級王者になるため、樋口は遠藤とぶつかり合い、最後は必殺技ブレーンクロー・スラムで初防衛に成功した。
その後アメリカから一時帰国した竹下幸之介、総合格闘家・青木真也、Eruption時代の盟友・坂口征夫、DDT最強を決めるリーグ戦D王GP2022覇者・上野勇希らの挑戦を樋口は立て続けに退けた。
KO-Dタッグ王座は2度防衛後、吉村直巳の怪我によりタイトルを返上した。
7月以降、2冠王者として樋口はタイプの異なる様々な挑戦者と戦った。
「2022年を振り返ると7月以降の半年間は人生で1番密度が濃かった。夢と現実を行ったり来たりしていた。防衛戦で1番キツかったのはEruption坂口さんとの戦いです。メンタル的にも身体的にも自分の弱いところを知り尽くしている。そこを攻めてきた。(勝因は)自分の我を通せたところ」
樋口は半年間、王者としてベルトを死守。レスラーとして確実に成長している。
DDT強さの象徴KO-D無差別級王者 樋口和貞の2023年の目標
2022年KO-D無差別級タイトルを獲得した樋口の今年の目標はなんだろうか。
「正月、実家の北海道に帰りました。その時、柔道を教えて頂いた先生に『お前、チャンピオンになって夢叶ったじゃん』と言われたんです。自分は現在夢が叶っている状態。ですから夢や目標がない。今年はDDTという団体をもっと世間に広めていきたい」
自身の夢が叶い、より大きな目標として「DDTプロレスリング」という団体の成長へと視点が変わったという。KO-D無差別級ベルトを巻く前と現在、樋口の心境に大きな変化があったのだろうか。
「正直、チャンピオンになって人として何も変わらなかった。いろいろ悩んで動いて発言したけど、34年間生きてきた『樋口和貞』はそうそう変わるものではない。結局は『原点に戻るものなのか』と気づきました」
そこには以前「秋山さんに敗れた時から時計が止まっている」と話した樋口の姿はなかった。あの時の気持ちは浄化されたのだろうか。
樋口は穏やかな表情で「悔しかった気持ちは覚えています。ただあの気持ちは浄化されました。今考えるとレスラーとして成長する上で秋山さんとの戦いは必要な試練でした」と言葉を紡ぎ出した。
2023年KO-D無差別級初のタイトルマッチ1.29後楽園 火野裕士戦
1.29後楽園ホールで今年初のKO-D無差別級タイトル戦を控える樋口。挑戦者は元KO-D無差別級王者、昨年末D王GPで樋口と30分フルタイムドローの火野裕士だ。すでに前哨戦として何度か戦っているが勝つイメージが浮かばないらしい。これまでの戦いでもイメージは浮かばなかったのだろうか。
「これまで戦った相手全員に言えることですが、試合前『勝つイメージ』はない。勝つか負けるかなんて、当日リング上に立たないと分からない。もちろん試合前、対戦相手を想像しイメージトレーニングをします。でもイメトレ通りに試合は進みません。試合当日、リング上で相手と対峙し肌を合わせないと分からない部分が大きい」
レスラーは見え方が重要視される。「どんな発言をするのか」でファンの印象も変わる。だが正直に樋口は分からないことを「分からない」と話す。
最後にこの戦い、勝てるかどうか聞いてみた。
「それは分かりません。これまで火野さんとの戦績は2戦0勝1敗1引分け。シングルマッチで勝ったことがない。ただ1.29後楽園のタイトル戦は、昨年のD王GPとは違った戦いになると思います。とにかく自分がやれることは1試合1試合集中して『いいプロレス』をお客さんに提供するだけ。その思いは火野戦でも変わりありません」
試合終了後、樋口和貞の腰にベルトは戻ってくるのだろうか。1.29後楽園ホール、6度目の防衛戦はまもなくゴングだ。
<おわり>