「横浜の街で”イノベーション”を」横浜DeNAベイスターズ ビジネススクールで発信するチーム力向上と人材育成
12月3日から、横浜市内で「第3回 横浜スポーツビジネススクール」が開催されている。
横浜DeNAベイスターズが開催しているビジネススクールで、現在29名の大学生・社会人が生徒として参加。
全5回のプログラムではどんな内容が展開されているのか、各回にフォーカスし連載でお送りする。
(取材協力:横浜DeNAベイスターズ、文:白石怜平)
横浜の街で人々が繋がり、イノベーション創出の場に
横浜ビジネススクールは、横浜DeNAベイスターズが運営する会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB(以下、CSL)」で行われている取り組みの一つ。
21年10月に第1回が開催されて以降、昨年3月の第2回そして今回で3回目を迎えた。
12月3日から1月27日の全5回に亘り、ベイスターズの事例や関連する実例などを題材にして展開している。世界のスポーツビジネスのトレンドや、スポーツによるまちづくりなどといったスポーツビジネスの基礎を学ぶカリキュラムとなっている。
またカリキュラムの特徴の1つがグループワーク。参加者同士の繋がりを作りながら各々のモチベーションアップ、そしてキャリアアップを考えるきっかけをつくり出すことが狙いとなっている。
本スクールを1回目から企画・運営しているのが広報・コミュニケーション部の矢野沙織さん。スクールを通じて実現したい想いを伺った。
「ベイスターズという枠にとらわれず、参加者の皆さま同士で新しいものを生み出せることが私たちの目指す一つの形です。この横浜の街で”イノベーション”が起こることを期待しています。
また、これまでの参加者との関係性も構築していくような場でもありたいと思っています。そのために1回目・2回目に参加された方々を交えた交流会も開催しようと思っています」
世界最先端のチームの事例をベイスターズにも導入
第1回のテーマは「ベイスターズの事例から学ぶ、チーム力向上に向けた取組み」。
講義では、まずチーム統括本部 副本部長を務める壁谷周介さんが登壇した。
壁谷さんは、DeNAが球界に参入した12年にベイスターズへ転職。社⻑室⻑兼地域貢献室⻑から始まり、ファーム・育成部⻑兼国際グループリーダー、チーム戦略部長などを経て、1月よりチーム統括本部副本部⻑(兼育成シニアディレクター)に就任した。
講義で説明したのは、「世界最先端のベンチマーク」「国際戦略・海外球団との連携」「最新テクノロジーの導入、R&Dチーム立ち上げ」の3点。
「世界最先端のベンチマーク」では、MLBを始め世界最先端を走るスポーツチームで活用されている事例を参考にしながら、ベイスターズで導入していったものを紹介した。
例を挙げると、現在10球団が導入しているトラックマン(球速や回転数・打球の角度や飛距離などを計測する機器)を15年にセ・リーグで初めて取り入れたのも壁谷さんの提案から実現した。
プレーの数値化・可視化をすることで選手のパフォーマンスアップに繋げていく取り組みを今も球団として日々改善を図っている。
また、世界最先端のベンチマークを実現させた大きな例が育成環境の整備である。横須賀市の追浜公園内に「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」を新設し、19年7月から使用している。
ファームの練習拠点であると共に、秋季トレーニングなどで1軍選手も多く利用するなど、チーム強化の要となる場所となっている。
球団が推進しているIT活用とチーム強化
「国際戦略・海外球団との連携」では主にMLBチームとの提携についての内容に。
ベイスターズはアリゾナ・ダイヤモンドバックス(以下、Dbacks)と19年に業務提携を締結し、以降コロナ禍になる前の20年春までは、チーム間の情報交換や人材交流等を密に行ってきた。
講義では複数球団の中からDbacksを選定したプロセスなどを紹介した。人材交流は昨年までコロナ禍で中断していたが、今年より順次再開する予定である。
そして壁谷さんパート最後のテーマは「最新テクノロジーの導入、R&Dチーム立ち上げ」。
ベイスターズでは前述のトラックマンなど、12年から16年の間で最新テクノロジーを導入し続け、球界でもトップクラスのIT整備を行っている。
17年からはR&D(Research & Development)グループが立ち上がり、育成に繋がる取り組みを強化してきた。
ここで取り組んできていることはパフォーマンスを可視化させることで、その向上や調子のバロメーターとして活用することである。
打撃や守備にも活用されているが、ここでは投手陣における事例を紹介する。
選⼿・コーチ・AT(アスレティックトレーナー)・R&Dグループの4者で理想的な投球やその実現可能性を前もって議論し、その選手のスタイルを確立する「ピッチデザイン」の取り組みを本格的に開始した。
ここでの成功事例が20年に初の2桁勝利である10勝・防御率2.53、昨シーズンも自己最多の11勝・防御率2.77をマークした大貫晋一投手。
当時プロ2年目でブレイクを果たし、現在も先発ローテーションの一角を担うまでに力を伸ばしていった。
ベイスターズが行っている人材開発とは?
第1回の2つ目のプログラムは「ベイスターズの行う人材開発」。ここでは、チーム統括本部チーム育成部部長の桑原義行さんが登壇した。
桑原さんは、ベイスターズで外野手として7年間プレーした元選手。05年から11年まで在籍し、同年引退後に球団職員としてのキャリアをスタートさせた。
桑原さんが講義で紹介したのは、「ベイスターズの人材開発の歴史」の講義と「人材における考え方・作りたいチーム」について講義+ワークショップを行った。
「ベイスターズの人材開発の歴史」では12年から現在までのプロセスを解説。
参入当時は池田純球団社長や高田繁GM、そして中畑清監督というカリスマ性をもった方々のリーダーシップで現場そして職員全員の意識改革を行っていったという。
14年ごろから徐々に成果が表れ始め、チームビルディング研修の導入も開始した。15年以降、観客動員が増えていきチーム力が上がっていったことに伴い、コーチ向け・部門向けといったより細部に向けた研修も導入していった。
球団は16年に球団初のクライマックスシリーズ(CS)進出、17年にはDeNAとなってから初の日本シリーズ進出を果たす。
ベイスターズの取り組みは、スポーツ界にとどまらず多方面から常に注目の的となった。
この日本シリーズ進出を契機とし、翌18年以降は人材育成についてさらに加速させ、更なる研修を企画していった。
具体例としては、「スポーツ心理学」「スポーツ栄養」「バイオメカニクス」など、専門家を招いたカリキュラムなどを幅広く導入していった。
20年にはチームMVV(MISSION・VISION・VALUE)を制定。昨年には木村洋太社長が、
「20年後に世界一のスポーツチームとなることを目標に、まずは5年間で世界最先端の取り組みをしているスポーツチームになっていくことを改めてここで皆さんと共有して、進んでいきたいと思います」
と年頭挨拶で語った通り、”世界一のチーム”になるべくさらに組織づくりの仕組みを整備している。
全員が真に一体となって選手と向き合うチームに
桑原さんはつくりたいチーム像として、「監督・コーチ・スタッフ全員が真に一体となって選手と向き合うチーム」と掲げた。
チーム像の実現のために必要なファクターとして、「自身の自己肯定感と向き合える人」「コミュニケーションを持って『創発』を生み出せる人」の2点を設定している。
ここに至った理由として、18年から行っている数々の研修が当初浸透しきれていない課題があったという。
「伝えたけど伝わっていない…」
「チームとして一体感を構築するまでに至っていない…」
在籍している社員は元々コンサルティング会社や人材開発、そして元選手などさまざまなバックグラウンドを持った方が在籍している。そのため、視点や考え方も異なってくる。
ここで、桑原さんらが着手したのがコミュニケーションの在り方であった。
「自分の心を理解できているか」・「相手の意見を受け入れているか」
上記2点を社内で行い、相互理解を深めた。お互いの視点を尊重、引き出しを増やし合うことで円滑なコミュニケーション、そしてチームビルディングの構築という好循環を生み出すことに繋げていった。
本講座でも参加者間で”自己理解”・”他者理解”を通じたコミュニケーションを行うべく、ワークショップを通じて講義の内容を実践した。
講義時間を超えた受講者の方々からの質問
第1回を終えてから、両講師に講義を振り返ってもらった。2人とも共通した回答は、「みなさん積極的に学ぼうという意志を強く感じた」ことだった。
特に壁谷さんの回では、質疑応答を最後に設けられていたが講義時間を超えるほどの質問が寄せられた。終了後に個別に挨拶を受けた際も「ぜひスポーツ業界に挑戦したい」という熱いメッセージを直接かけられたという。
壁谷さんはこの講座を通じ、「初回はチーム運営についてですが、2回目以降ビジネス側の話にも広がっていきます。5回トータルを通じ、スポーツビジネスの魅力を学んでもらうとともに、今いるご自身の業界でも活かせるようにぜひつなげていただけたら嬉しいです」と語った。
また、桑原さんは「みなさんには”モヤモヤ”して持ち帰ってもらいたい」という意外とも言える表現をした。その心をこう説明した。
「今回のテーマは抽象的で正解がないものです。なので、『弊社はこういう考えで人材開発をしています』と言うことで、それをご自身や所属する組織・会社に当てはめてみてくださいと言う意味を込めています。
人としての本質と向き合うテーマなので、ご自身で考えてもらって、自分なりの正解を見つけてもらうきっかけになればと思っています」
第2回のテーマは「球団経営から学ぶ、スポーツの新たな魅力作り」。昨シーズン行われた施策などを例に、スポーツの魅力を発信する講義になった。
(つづく)