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「中学部活の地域移行」に貢献する、奈良教育大硬式野球部の取り組み

広尾晃のBaseball Diversity

奈良教育大学硬式野球部は近畿学生野球連盟に加盟してリーグ戦を戦っているが、同時に地元奈良市で、野球普及活動にも取り組んでいる。

2022年まで、山口裕士氏が学生監督を務めていたが、卒業後は、山口氏は神奈川県の横浜商業高校でストレングスコーチを続けながら、月に1回奈良に帰り大学の指導も続けている。

中学生相手の野球教室

今年、奈良教育大学硬式野球部は奈良市の支援(奈良市地域に飛び出す学生支援事業)を受けて、中学生向けの野球教室を全5回の日程で行った。

対象は、中学校の野球部員だ。

文部科学省は昨今、中学校教員が授業や生活指導だけでなく「部活」に大きく時間や手間を割かれている現状を問題視し「ブラック部活」状態を改善するために、中学部活を「地域移行」する方針を打ち出した。

奈良教育大の取り組みは、こうした方針を受けて「大学野球部員が中学野球部員を指導する」と言う試みだ。

奈良教育大の選手の多くは、学校の教員になる。「部活」を指導することになる機会もあることから、その予行演習的な意味合いもある。

募集チラシ

しっかりとした目的意識をもって

2月16日に行われた第4回の教室は、奈良教育大のグラウンドで行われた。

午後3時過ぎ、大学生たちが、グラウンドにラインを引いたり、用具の準備をしたのちに、今日の教室の手順を確認し合っている。

午後4時になって、授業を終えた中学生たちがやってきた。道を隔てて西側にある奈良女子大付属中等教育学校前期課程(中学生)の野球部員たちだ。他の中学校からの参加もあるが、今回はこの学校だけだった。

すでに何回か参加しているので、手順はだいたいわかっている。

アップ、ランニングの後はキャッチボールが始まった。

今回の野球教室のリーダーを務める高岸誠君(4回生)は

高岸誠リーダー

「奈良市の支援もいただいて、奈良教育大と言うことで将来は教員になって子供を教えることを目指す人が多いので、中学生と野球を通して教育できると言ういい機会じゃないかなと思います。

中学生に教えるときは感覚だけじゃなくて、この練習の目的は何かと言うことをちゃんと話したうえで、体験してもらっています。

事前にアンケートをとっているので、どれくらいのレベルかはわかっています。基本的なことを中心に、これを中学の部活にも生かしてほしいですね」

と語る。

キャッチボール

留意点もある大学生の指導

体が温まると、中学生たちは大学生の指導の元、トスバッティング、タイムを計測しての走塁、ジャンプマットでの計測、などを順番に経験していく。計測データは最初から記録しているので中学生個々の「成長」もわかるようになっている。

中学生たちを引率してきたのが奈良女子大付属中等教育学校の教員で、後期課程(高校)の野球部監督の山口琢士氏。奈良教育大野球部を指導する山口裕士氏の兄だ。二人はともに奈良県立郡山高校、大学(兄は大阪教育大、弟は奈良教育大)を通じて野球をし、その後、野球指導者の道に進んだ。

「中学生を大学生が指導するうえで、注意するのは怪我ですね。怪我した時に我々だとすぐに病院に連絡して、悪いときは救急車を呼んだりすると思うんですが、大学生だけだと判断に迷ったりして、対応が難しいかもしれません。今回は指導者である弟が保険のことなどもしっかり対応しているので安心ですが、今後、大学生が中学の部活を指導する機会が増えると思いますが、そういう部分の準備をしっかりしないといけないでしょう。

中学部活の外部委託については、いろいろなやり方が考えられます。例えば拠点校を作って、そこに何校かの部員が集まるクラブチームのようなものを作って、それを大学生が指導するのも一つの考え方ではないでしょうか?」

トスバッティング

すぐに打ち解ける大学生と中学生

小学校の野球教室の場合、体格や習熟度が異なる子どもたちを相手にするので、一番レベルの低い子に合わせた指導になる。少しできる子は別メニューを考えるなど、いろいろな配慮が必要だが、中学の部活の「外部委託」を前提とした指導では、ある程度レベルが揃っているので、効率よく練習ができる。

また、中学生と年齢が近い大学生は、すぐに打ち解けることができるし、後輩が先輩に話を聞く感覚でコミュニケーションもできるようになる。

「部活のアウトソーシング」に大学野球部を活用するのは有効な手段だと思う。

ただ、高校時代に強豪校で指導を受けた大学生の中には、自分の小中学時代のように、中学生に過度なハードワークを科したり、厳しい指導をするようなことも考えられる。

アウトソーシングを実施するに際しては、大学、中学間の綿密な打ち合わせが必要だろう。また保険関係や救急体制などに万全を期すことが必要なのも言うまでもない。

走力測定

いろんな世代が一緒に練習できる素晴らしさ

山口裕士氏は今回の教室の企画の背景をこう語った。

「僕は、大学3回生の時にドミニカに留学して、小学生とメジャーリーガー、マイナーリーガーが一緒に練習をしているのを見て、いろんな世代が一緒に練習できるのってすごいなと思ったんです。

そこで4回生のときに大学生による野球教室を企画しました。これは、学生事業として大学で承認され予算もついたのですが、コロナ禍で十分に実施できなくて、そのうちに僕も卒業して、今の横浜の仕事に就いてなかなか自分の考えが実現できていなかったのです。
今回、奈良教育大野球部の選手たちから、奈良市の学生支援事業に応募したいと言う話があって、それに応募して採用になったので、この教室を実施することになりました。

奈良女子大付属中等教育学校だけでなく、近隣の中学の野球部の選手がやってきているのですが、例えばある中学の場合は、顧問の先生が大会の運営に行かなければいけなくて、練習を見れなくなった。また、もう一つの中学は指導者の野球経験が浅いので、専門的な指導を大学生にお願いしたいということでした」

跳躍力の測定

実績を積み上げて継続させたい

この教室を実施するうえで重要なことは?

「大学生たちと一緒に準備して、トラブルが起きそうなことも想定して安全管理の部分も指導してきました。

この奈良市の支援事業は、3月までになっています。それまでの成果を3月の下旬に奈良市に向けて成果発表をしました。

今後も、恒久的にこうした野球教室を続けることができればと思います。

3月までのスタイルと完全に一緒ではなくても、ちょっと形を変えてでも持続させていきたいと思っています。

選手も言っていましたが、奈良教育大の野球部員の多くは指導者になることを目指しています。そういう意味では、この教室はすごく有意義ですね。

中学部活のアウトソーシングは今後進んでいくでしょうが、奈良の場合は外部委託先が、限られていると言う印象です。

でも奈良教育大なら、教える人材もいて、グラウンドなど場所も確保できているので、格好の委託先になるんじゃないかと思います。それで中学教員の負担を減らすことにつながっていけばと思います」

大学生たちは中学生の目線で、子どもたちに接し、声を荒げることなく指導をしていた。中学生を「乗せるのがうまい」、さすが将来の先生だと思えた。

夕闇が迫り、教室は終了した。大学生も中学生も満足そうな表情だった。

「懸念材料としてはうちの野球部の信頼度、信頼感ですね。うちは正直言って、それほどの強豪校ではありません。また、そもそも大学生に指導をまかせると言うのも、世間的にはまだハードルが高いかな、とは思います。

それだけに今後も、実績を作って地域の信頼に結び付けたいと思います」

山口裕士氏(左)と山口琢士氏

楽しい野球教室が終わって

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