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サッカーで地域活性化を目指す「SETAGAYA UNITED」 代表・地頭薗雅弥が考える、街に彩りを与えるスポーツの役割

 東京都世田谷区を拠点とするフットボールクラブ「SETAGAYA UNITED」は今年1月、設立から1年の節目を迎えた。代表を務めるのは、国内外でMFとして活躍した地頭薗雅弥(じとうぞの・まさや)氏。チーム設立当初、「『SETAGAYA UNITED』を、世田谷で暮らす人たちの生活に『彩り』を与えられるような存在にしたい」との目標を掲げていた。期待と不安を抱えながら臨んだ1年目、世田谷にどんなかたちで『彩り』を与えてきたのか。地頭薗に振り返ってもらった。

「ゼロから作ったチーム」を引っ張ることの難しさと楽しさ

 「SETAGAYA UNITED」は昨春から、東京都社会人サッカー4部リーグに参戦した。始動時に集まった選手は18人。地頭薗の元チームメイトや世田谷生まれ世田谷育ちの選手、大学を卒業したばかりの若手など、多種多様なメンバーが揃った。地頭薗は選手としてプレーする傍ら、チームマネジメントや他のメンバーへの指導など、様々な役目を担った。  

 2022年4月23日、初陣を迎えた。「11人全員でボールをつなぎながらゴールに向かっていくパスサッカー」を徹底し、3-0で快勝。Jリーグや海外での豊富なプレー経験を持つ地頭薗だが、自分がゼロから作ったチームで戦い、勝利するのは初めての経験だった。

ユニホーム姿で試合に臨む選手たち

 「集まってくれた選手やスタッフ、応援してくれている人や企業のことを思うと、しっかり試合ができるのかなという不安もあった。それでも無事に試合が終わって、安堵感が強かった」。ピッチ上で一人、胸をなで下ろした。

 リーグ戦は6勝2分けの2位で終え、優勝、昇格はかなわなかったものの存在感を示した。選手は働きながらプレーしているため全員で練習できる時間は限られており、やむを得ずチームを離れる選手もいる。チームマネジメントの難しさも痛感したが、どんな時でも先頭に立ち目的を掲げ続けることで、全員が同じ方向に向かうよう、日々のトレーニングから取り組んだ。

 「難しいから面白い部分もあるし、すごく難しいけどすごく楽しい」。充実の1年目をそう笑顔で振り返る。

世田谷でのイベントを積極開催、広がりつつあるファンの輪

 公式戦同様に力を入れたのが、チームの本拠地である世田谷での活動だ。昨年は計6回、世田谷区内でのイベントを開催し、地域との繋がりを深めた。まずは5月、フットサルコートで選手とファンが一緒にボールを蹴る交流会を開催。6月以降も、駒沢公園にJクラブのU21カテゴリーや高校サッカー強豪校を招いて試合をし、試合前にサッカー交流会などを通してファンと触れ合うイベントを定期的に実施した。

サッカー交流会で子どもたちに指導する地頭薗(左)

 SNSやホームページ上での呼びかけで集客し、世田谷周辺の飲食店にチラシを貼って告知した。口コミも広がり、5月の交流会では約50人だった参加人数が、10、11月のイベントでは約300人にまで増えた。参加者は男女問わず、年齢層は幼稚園生から70歳代と幅広い。参加者からは「アットホームな雰囲気が良い」「Jリーグの試合よりも選手との距離が近く、間近で試合を観られて、臨場感があって楽しい」などの声が聞かれた。イベントを通して、世田谷区内外でファンの輪が広がっている。

サッカーを通して伝えたい東京23区最大の街・世田谷の魅力

 「世田谷は渋谷や新宿にすぐに行ける立地でありながら、広い畑や昔ながらの商店街もある。今時の若者もいればおじいちゃん、おばあちゃんもいる。東京のど真ん中なのにローカル感があるのが一番の魅力。世田谷の人には『やっぱり世田谷って良いね』と思ってもらい、世田谷に馴染みのない人には『世田谷ってこんなに良い街なんだ』と知ってもらいたい」。  

 積極的にイベントを開くのは、大好きな世田谷という街の魅力を伝えたいからだ。大都会・東京の中でも都心に位置する世田谷の人口は23区でも最多の約90万人。これだけの人数がいながら、アクセスが良く、娯楽の選択肢が多岐にわたるゆえに、地域の人と人がつながるきっかけが少ないのではないかと感じていた。

ファンと触れ合う地頭薗

 そんな世田谷に誕生したのが「SETAGAYA UNITED」。地頭薗は、サッカーの試合やイベントを通して人と人の繋がりを生み出そうと試みている。  

 「サッカーは娯楽であって、なくても人が死ぬわけではない。だけど僕らの人生にとってサッカーの存在はものすごく大きい。自分たちが大好きなサッカーを通じて表現して、『SETAGAYA UNITED』というサッカーチームが一つこの街にあることで、地域の人に繋がりができれば僕らがいる意味、価値があると思う」。自分たちのサッカーを観に来たファンの笑顔を見ることで、確かにその意味、価値を感じた。

応援してもらえるチームを作るための条件は「貫いて続ける」

 「『貫いて続ける』ことに価値がある。貫いたところでそこで終わったら終わり。貫いて続けることができれば、必ずみんなで新しい景色や面白い景色を見ることができる」。

 思い描く未来に向け、歩みを止めるつもりはない。ただ、継続するのが容易ではないことも理解している。地頭薗は、チームづくりを建築に例える。  

 「プレハブを作るのは簡単だけど、100年、200年と立っていられる良い家を作るのは大変。ただ家を作るのではなく良い家を作るのには時間がかかる」。

イベントに集まった多くの参加者

 優勝や昇格にこだわるだけでは、良いチームは作れない。自分たちのサッカーを成熟させ、「試合を観たい」「イベントで選手と触れ合いたい」といった声を広げていくことが必要となる。だからこそ、1年目から最大約300人の集客を達成したが、この数字に満足はしていない。今年は500人、来年は800人、再来年は1000人、いずれは数万人…と応援してくれる人の数を増やしていくのが今後の課題であり、目標だ。  

 「優勝、昇格だけを追い求めて、うしろを振り返った時に中身が何もなかったら意味がない。一人でも多くの人に応援してもらい、僕らの活動を喜んでもらえるクラブにしたい。世田谷区の10分の1の人に応援してもらうだけでも9万人。それでもまだ、あと80万人いるので」。そう言葉に力を込める。

「本気」で表現するサッカーが人々の生活を彩る

 昨年末、ワールドカップが開催され、日本中が熱狂に包まれた。地頭薗は「選手たちの『本気』が伝染し、いろんな人が巻き込まれて、それが大きな熱量、パワーになるのがサッカーだ」と実感した一方、ワールドカップが終わると国民のサッカー熱が冷める事実にはもどかしさを覚えた。

ユニホーム姿でサッカーボールを手にする地頭薗

 「日常にサッカーがあったらもっと面白い」。例えば平日働いている社会人が「今週末『SETAGAYA UNITED』の試合を観るのを楽しみに頑張ろう」と自らを奮い立たせる。家庭で「今度みんなで『SETAGAYA UNITED』の試合を観に行こうね」という会話が生まれる。日常にサッカーがあることで、生活が豊かになる。それこそが「『彩り』を与える」という言葉の真意だ。

 2年目の今年も試合やイベントを通じて「本気」を伝え、世田谷を「SETAGAYA UNITED」色に彩る。

(取材、文 川浪康太郎/写真提供 SETAGAYA UNITED)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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