昨春2部優勝・法政大女子ハンドボール部…分け隔てなく、明るく全員で楽しむチームを継承する

 法政大女子ハンドボール部は昨年、大きな一歩を踏み出した。関東学生ハンドボール連盟春季リーグ戦の2部リーグで初優勝。入れ替え戦は惜敗し1部昇格こそならなかったものの、東日本学生選手権大会への初出場を果たし、秋のリーグ戦も2位に入るなど、飛躍の1年となった。

 2015年創部で、1939年創部の男子ハンドボール部と比べると歴史は浅い。OGが少ない分、ボールや備品の補助は十分とは言えず、遠征費に充てる予算も不足しているため男子部のように校外で練習試合をする機会もない。また昨年の4年生が多く卒業し、現在の部員数は男子部が39人いるのに対し、13人(3月時点)と少数。しかも、うち3人はマネージャー、トレーナーで、選手登録されている部員は10人にとどまっている。  

 決して恵まれた環境とは言えないが、選手たちは1部昇格、初の全日本学生選手権(インカレ)出場を目指し、日々練習に励んでいる。新チームのキーマンとなりうる3人を取材した(選手の学年は新学年)。

昨秋の得点王はあるべき主将像を模索中

 新チームで主将に就任した山田和津実選手(4年=高津高)は、エースポジションでシュートを多く決める役割が求められるフローターとして、下級生のうちから攻撃の軸を担っている。昨年は春のリーグ戦で得点ランキング2位に入り、秋は得点王に輝いた。今年も自他共に認めるチームの顔だ。  

 中学1年からハンドボールを始め、高校ではインターハイや国体に主力選手として出場するなど実績を積んだが、これまで主将を務めた経験はない。主将就任当初は、少なからず戸惑いを感じていた。昨年結果を残し、新チーム内でさらに上を目指す機運が高まった一方、屋台骨を支えていた4年生が抜けたことで雰囲気は一変。チームを作り直すことの難しさを痛感した。

チームに欠かせない存在となっている山田

 同期やOGに相談しながら、主将としての在り方を模索してきた。今は「同期や後輩に信頼してもらえる、困ったときに頼れる主将になりたい」と考えており、中心選手であるという自覚を例年以上に持ちながらチームメイトと接している。

 「先輩たちが築いてくれた法政大女子ハンドボール部の雰囲気やチームカラーは崩さずに、目標達成に向けて頑張りたい」。昨年のチームには先輩、後輩間の厳しい上下関係がなく、「ハンドボールを楽しむ」雰囲気が漂っていた。結果を求めつつ、明るいチーム作りは引き継ぐつもりだ。歴史を紡いでいくため、試行錯誤の日々は続く。

大学ラストイヤーに燃える選手兼主務の新4年生

 山田と同じく最終学年を迎える鈴木優乃子選手(4年=東大和高)は、新チームから主務と選手を兼任し、部員数が少ない中、チームのために奔走している。

 高校3年間はハンドボール部で過ごしたが、大学に入学したばかりの頃は体育会に入るつもりはなく、サークルに所属していた。しかし、新型コロナの影響でサークルでの活動は制限され、時折参加した食事会も心から楽しむことはできなかった。

 思うように進まない大学生活にもどかしさを感じていた大学1年の冬、「体育会に入ったら就活で有利になるかもしれないという安易な考え」で、女子ハンドボール部の練習をのぞいた。サークルに所属している期間は体を動かしていなかったため、マネージャーとして正式に途中入部することに。だがコートの外側から選手たちを見ていると、プレーヤーに戻りたいとの思いが再燃した。

 マネージャーは約2か月で辞め、大学2年の4月からは再びコートに立った。ブランクを感じながらも、ハンドボール未経験の先輩らとともにゼロから鍛え直し、競技と本気で向き合った。また主力メンバーとして試合に出場できない時も、懸命に声を出してチームを盛り立てた。

コート内外でチームに貢献する鈴木

 そして新チームでは、大役を任されることとなる。例年はマネージャーが主務も兼ねるが、今年の新4年生の代にはマネージャーがおらず、経験のある鈴木に白羽の矢が立ったのだ。体育会幹部が集まる会議への参加、事務局や監督との連絡、リーグ戦の参加申し込み……。主務の仕事は多岐にわたり、練習に遅れることもある。両立は簡単ではない。  

 それでも、鈴木は自らを甘やかすつもりはない。「練習には主務の仕事を持ち込まず、ハンドボールに集中したい。今は後輩に『優乃子さん大変そうですね』と言われてしまう。大変さを見せずに、『優乃子さん主務もやっていたんだ』と言われるくらい両立したい」と理想を語る。昨年までは主力選手という立場ではなかった。今年は最上級生として、コート上では主務であることを忘れさせるほどの活躍を見せると誓う。

大学でバレーボール→ハンドボール転向の下級生も奮闘中

 法政大女子ハンドボール部には、大学からハンドボールを始めた選手もいる。池田愛選手(2年=京華女子高)は、中学から高校までの6年間はバレーボールに打ち込んでいた。

 大学でもスポーツを続けたいと考えていたものの、法政大には女子バレーボール部がなかった。バレーボールサークルの体験練習に参加するも性に合わず、部活動紹介のパンフレットで偶然目にした女子ハンドボール部への入部を決めた。  

 ハンドボールはプレーするどころか、観戦したこともなかった。ハンドボールはバレーボールと違い、接触が許されるスポーツ。「空中の格闘技」とも呼ばれ、危険を伴う激しい攻防が繰り広げられる。競技を始めた当初は、相手との接触に恐怖を感じていたという。プレー経験を重ねる中で徐々に接触に慣れ、また同じポジションの先輩に積極的に質問したり、休憩時間に人より多くボールに触れたりすることで、少しずつハンドボールの技術を身につけてきた。

左利きのサイドプレーヤーとして成長を続ける池田

 ハンドボールを始めて約1年。競技の魅力を問うと、「常に全員が動いていて、声を出していないといけない。チームスポーツならではの良さがある」と答えた一方、「これからもっと見つけていきたい」とも口にした。「ハンドボールを本当に楽しいと思えるようになりたい。今は楽しいけどまだ突き詰められていない気がするので、もっと自分から挑戦して、もっとシュートを入れられるようになりたい」。新たな競技に挑むと決めたからには、大学4年間でハンドボールをとことん楽しむ。

 女子ハンドボール部には、高校時代から全国の舞台で活躍している選手だけでなく、一度ハンドボールから離れた選手や、大学から競技を始めた選手もいる。経歴は様々だが、思いは一つだ。一つになれるのは、先輩も後輩も、熟練者も初心者も、主力選手も控え選手も、分け隔てなくコミュニケーションを取り、全員で楽しめる環境が継承されてきたからこそ。少人数でもチーム一丸となり、未来へと続く、次なる一歩を踏み出す。

(取材・文 川浪康太郎/写真提供 法政大女子ハンドボール部)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

関連記事