大学野球の「2部、3部制」「入れ替え戦」がもたらす“精神的な強さ” 過去最高タイの3位…盛岡大躍進の理由
東北地方の北部3県(青森県、岩手県、秋田県)に所在する15大学の硬式野球部で構成される北東北大学野球連盟は、「3部制」を敷いている。現在は1部、2部に6校ずつ、3部に3校を配置。春秋のリーグ戦終了後に1部6位校と2部1位校、2部6位校と3部1位校による入れ替え戦を実施している。
宮城県の6大学が加盟する仙台六大学野球連盟、東北地方の南部3県(宮城県、山形県、福島県)の6大学が加盟する南東北大学野球連盟は1部制(南東北大学野球連盟は1995年~2017年は2部制)のため、北東北大学野球連盟は東北の大学野球リーグでは唯一、2部、3部がある。
今春の2部リーグで優勝した盛岡大は入れ替え戦で勝利して昇格を決め、今秋、2022年春以来となる1部リーグでの戦いに臨んだ。ノースアジア大との開幕戦で白星スタートを切ると、その後も春王者の八戸学院大を破るなど勢いに乗り、5勝5敗と大健闘。「1部での5勝」は2011年春以来で、富士大、八戸学院大に次ぐ3位は過去最高タイの順位だった。そこには、2部を経験したからこその強さがあった。
4年生が投打に躍動、ルーキーも「うまく機能」
9月15日、青森中央学院大に連勝し「5勝」を達成した試合後、盛岡大を20年以上率いる藤澤弘樹監督は「5勝というのはなかなかなかったことですし、いいかたちできている」と充実した表情を浮かべた。
「4年生がよかった。また1年生の立花一星と佐々木優太(ともに盛岡中央卒)がうまく機能して、去年足りなかった勝負強さが増した。若い二人のコーチに任せた部分も多かったですが、松田(優作コーチ)がしっかり技術面の指導をしてくれて、芳賀(勝コーチ)が選手と指導者の距離を縮めてくれました」。今秋の飛躍の要因を問うと、指揮官はそう口にした。
投打の中心を担ったのは4年生。投手陣では10試合中9試合に登板した村上真羽投手(4年=岩手)や、計19回を投げ防御率1.42と安定した投球を続けた新沼晟投手(4年=高田)がブルペンを支えた。野手陣では3割を超える打率を残した佐々木歩希内野手(4年=高田)、小田島捷翔内野手(4年=専大北上)らが打線を引っ張った。
限られた時間で…元花巻東コーチが伝えた練習の重要性
藤澤監督の言うように、コーチ陣の存在も大きかった。花巻東でのコーチ経験を持つ松田コーチはその一人。高校野球の強豪校で培った指導方法を大学野球でも活用している。
例えば、選手たちには「試合重視」から「練習重視」に考えをシフトチェンジさせた。盛岡大の監督、コーチは大学職員として勤めているため、平日の練習は始業前の約1時間半で行う朝練習がメインで、指導時間はそう多くない。限られた時間の中、練習試合の結果に左右されるよりも、試合に生かすための練習を充実させた方が得策、との考えだ。
練習試合でも単純に勝敗にこだわるのではなく、「2死から点を取れないとしても走者を出して少しでも点を取る確率を上げて、何か流れを変えるようなことをしてイニングを終わらせよう」などと公式戦を意識した声かけを心がけた。練習での指導時間が少ない分、試合中に直接修正点を指摘し“宿題”を与えることもある。
「格上相手に勝つ」1部の醍醐味を味わうために
飛躍の要因はそれだけではない。主将の佐々木歩は「2部に降格して、入れ替え戦で負け続けて、特にずっと苦しい思いをしてきた4年生は精神的に強くなった。その4年生が責任感を持ってプレーし、チームを引っ張れたことが一番の要因だと思います」と話す。
今年の4年生は1年時から試合に出場していた選手が多かった。1年春に2部で優勝して1部に昇格し、2年春に再び2部に降格。その後は2部で優勝を逃したり、入れ替え戦やプレーオフで敗れたりと苦しいシーズンが続き、今秋ようやく1部の舞台に戻ってきた。単に試合をこなす過程で得られるもの以上の経験値を積んだことは言うまでもない。
「1部はすべてのプレーにおいてレベルが高い。格上相手の勝負に臨む、そしてそこに勝つ楽しさがある。それは1部でしかできないことなので、どうしても1部でやりたかった」と佐々木。優勝のみならず、さらに上を本気で目指す2部チームには、計り知れない底力がある。
途中でやめた4年生も…チームを勢いづけた“一体感”
「5勝」目を挙げた9月15日の青森中央学院大戦では、「7番・指名打者」でスタメン出場した高橋佑外野手(4年=本荘)が均衡を破る先制の2点適時打を放ち、塁上でベンチに向かって拳を突き上げた。1部でのスタメン出場はこの日が初めて。2部時代も主力を張る選手ではなかった。
苦楽をともにし、経験値を積んできた4年生だが、全員が4年秋まで野球を続けたわけではない。就職活動や資格試験勉強に専念するため、途中で部を離れた同期もいる。8月上旬まで教員採用試験を受けていた高橋も一時は競技継続を迷ったものの、練習につきあってくれる仲間に背中を押され秋もバットを握った。
「1年生の頃からどこに行くにも一緒で、遅くまで残って練習するメンバーばかりでした。やめていった仲間も応援してくれていたので、腐らず練習を続けてきてよかったです。仲間に支えられたおかげで打てました。残っているメンバーも、誰が試合に出てもベンチを含めた全員が声をかけ合って一緒に喜ぶ。その一体感がチームの調子につながっているのかなと思います」
4年生の力が大きく影響し、今年は1部で通用するチームができあがった。一方、藤澤監督は「今年は4年生が中心となってやってくれた。来春、3年生以下でどうやって1部に残るかということしか考えていないですね」と本音を漏らす。2部、3部を含めた北東北の火花散る戦いは、すでに始まっている。
(取材・文・写真 川浪康太郎)