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「バウアーと和牛JB」サイ・ヤング賞投手と宮崎発野球メーカーの素敵な関係とは

トレヴァー・バウアー(DeNA)の活躍は今季NPBの大きなハイライトだろう。MLBのサイ・ヤング賞を獲得した男は噂に違わぬ投球を見せた。その活躍の裏には日本で戦うために選んだ「和牛JB」グラブの存在もあった。

今季開幕直後の4月、バウアーは横浜市内の野球専門店を訪れた様子を自身のYouTubeチャンネルで公開した。その際に「とても軽い」と気に入り自腹で購入したのが和牛JBグラブだった。

ボールパークドットコム社・山内康信社長(写真左)とバウアー(同右)。

~サイ・ヤング賞右腕は紳士的な男だった

和牛JBは宮崎県で野球用品の製造・販売を行うボールパークドットコム社のオリジナルブランド。同社・山内康信社長にバウアーと共に歩んだ1年間を振り返ってもらった。

「スゴイ選手というのは誰でも知っています。和牛JBを購入して使ってくれたと聞いた時は本当に信じられなかった。初めてお会いした時にはドキドキしましたが、すごい紳士的で感じが良い人でした」

2011年ドラフト1巡目(全体3位)でダイヤモンドバックス入団、インディアンズを経てレッズ時代の2020年にサイ・ヤング賞を獲得。同年オフにドジャースと契約するも個人トラブルが発覚、今年1月に契約解除となりDeNA入りした。MLB通算222試合登板、83勝69敗を記録している大物右腕だ。

バウアーがクロスポベースボールショップで購入した定番品『JB-001Y』。

バウアーがグラブを購入したのは横浜市金沢区にある「クロスポベースボールショップ」。野球人たちに愛される穴場的ショップでは、2018年にブランドを立ち上げた和牛JBも取り扱っていた。

「『バウアーが来店して買っていきました』とお店から弊社営業スタッフに連絡が来ました。和牛JBへの知識はなかったようですが、お店の方が丁寧に説明してくれて気に入ったようです。和牛という素材が米国にない素材なので興味や好奇心をそそられたのではないでしょうか」

「DeNA球団の知人に『何かあれば言ってください』と話をしました。世間話程度でしたが通訳の方を介して連絡が来ました。代理人の方からは『グローブ工場を見てみたい』というメールまでいただきました。和牛JBを想像以上に気に入ってくれているようで驚きました」

YouTubeチャンネルでも話しているが、バウアーはグラブにとても興味があり自分自身で製作するために革の手配まで行っているという。和牛JBのこともグラブ購入後にホームページ等で色々と調べたということも後日、明らかになった。

青色にソード、ヒモ、縁取りが白色はボールパークドットコム社が提案したグラブは、バウアーから「ナンバーワン」のコメントをもらった。

~ソード(刀)がトレードマーク

「市販品ではなく新しいグラブが欲しい」ということで、インターネット上のオーダーページを見ながらメールでやり取りをした。その中でオリジナルグラブを製作する流れになった。

「ウェブ部分に入れるソード(刀)のデザインを提案してくれた。日本文化を象徴するデザインを自身のトレードマークにしたいと考えていたようです。ウェブに入れる際の大きさや方向もあるので、直接会って希望をヒアリングすることになり横須賀の球団施設へ行きました」

初対面で真っ先に質問されたのが、今年1月からの1年契約で和牛JBを使用するドリュー・ポメランツ(パドレス)のこと。バウアーとポメランツは2009年の日米大学野球でチームメートという間柄であり、バウアーはUCLA、ポメランツはミシシッピ大に在籍していた。

「『ポメランツとはどこで知り合ったんだ?』といきなり聞かれました。グラブ購入後にホームページ等で調べた時に契約の件を知って驚いたそうです。弊社はポメランツがレッドソックス時代に同球団の日本人スタッフを介して知り合いました。人と人との縁を感じました」

ポメランツの話で場が盛り上がりグラブ製作の話も和やかに進む。バウアーのグラブに対する思い入れや知識が強いことに驚かされた。

薄茶色にソード、縁取りがエメラルド色(スパークルイエロー)は、バウアー自身がオーダーしてきた縦トジのもの。

~和牛JBの市販グラブで選手紹介映像を撮影した

「以前購入したグラブは『JB-001Y』というオーソドックスな投手モデル(色はオレンジ)。型はすごく気に入っているが少し大きくしたいという要望がありました。ベースはそのままで大きさを11.5インチから12インチに。色も弊社オーダーシステムから選んでいたので、あとはウェブ部分へソードを入れました」

「メールでやり取りをしていたので話し合いでは細部を詰めました。4月13日に会ってから職人さんに全力で頑張ってもらい16日にはグラブを渡しました。その際にはリクエストのものに加え、米国時代の動画を参考に作ったものをもう1つ持参しました」

シーズン中に別途ボールパークドットコム社から提案したオレンジ色にソードのタイプ。

バウアーがオーダーシステムで選んでいたのは捕球面下部のヒモを閉じる部分が『縦トジ』と言われるもの。しかし動画を確認すると米国時代は『横トジ』を使用していた。

「ウェブサイト上のオーダーシステムなのでわかりにくい部分もあったと思います。2つのグラブを両方、気に入ってもらえたのですが『横トジの方がベスト、ナンバーワンだ』と大喜びしてくれたのが印象的でした」

自身がリクエストした黄色の『縦トジ』、動画を参考に作った青色の『横トジ』。両方のグラブを気に入って気分によって使い分けていたという。

「4月に作ったものばかりでなく、最初に購入してくれたものも大事にしてくれた。球場等で流れる選手紹介映像でも使ってくれています。『オレンジ色が綺麗だったからこれで撮影したよ』と笑っていました」

白色にソード、ヒモ、縁取りが青色のオールスターゲーム使用モデル。

~野球用品を大事にするという理念も共有

日本初登板前に2つのグラブを届け、その後のシーズン中にさらに2つのグラブを用意した。そのうちの1つはオールスターゲーム出場時に着用した記念モデルだった。

「グラブを送ると試合ですぐに使ってくれます。大手メーカーさんからもグラブが届いたということですが、そのような状況下でも和牛JBを使ってくれる。『グラブのメーカー契約はしない』と本人は言っていましたので、単純にグラブを気に入って使ってくれたのが嬉しかった」

「今季は4月に渡した黄色と青色、オールスターモデルの白色、そして水色のグラブを渡しました。水色のものは紐が金色だったので審判からNGが出て話題になったものです。こちらの調査不足で迷惑をかけましたが、「カッコいいから試合で使いたかった』と本人は言っていたそうです」

スカイブルー色にソード、ヒモ、縁取りが金色のグラブは審判から注意をされた。

また欠かさず渡しているのがグラブトリートメント用品『プロティオス』だ。「野球用品を大事にする」というボールパークドットコム社の理念にも共感してくれたという。

「『裕福な家庭ではなかったのでモノを大事にする環境だった』ということ。YouTubeでもプロティオスを使った手入れの仕方まで紹介してくれました。用具担当に手入れを任せきりの選手もいる中で素晴らしい姿勢だと思いました。手入れもそうですが、何に対しても好奇心旺盛で徹底するタイプに感じました」

グラブ製作までも志す中で細かい部分まで徹底的に情報収集する姿には、ある種の『オタク』感が漂う。しかし『オタク』というのはクールジャパン要素の1つであり褒め言葉。バウアーの物事を突き詰める姿勢にはカッコ良さを感じさせる。

緑色にソード、ヒモ、縁取りがピンク色はCSでの使用可能性があったが実現しなかった。

~米国進出は野球メーカーとしての大きな夢

ちょっとした縁からバウアーが和牛JBを使ってくれた。世界中の野球ファン注目の右腕が使ったことで注目度は右肩上がりだ。

「インターネットのセッション数が昨年比3倍くらいに増えました。米国からの購入オーダーも20件近く来ました。グラブ単価は決して安いものではないのに日本からダイレクトで購入するのには勇気がいるはず。改めてバウアーの影響力の凄さを感じます」

日本球界に多くの影響と印象を与えた投手の来季去就は全くわからない。NPBでプレーするにしてもDeNAではなく他球団となるかもしれない。もちろんMLB復帰になる可能性もある。

「日本でプレーするのなら今年と同様にグラブをお渡しできれば嬉しいです。バウアーが使ってくれたことでNPBの他選手も興味を持ってくれているという話も聞きます。本当に感謝しかありません」

バウアーの活躍は横浜のみでなく、日本中の野球ファン、関係者を熱くさせてくれた。

ボールパークドットコム社としてもメジャー屈指のスター選手が気に入ってくれたことで、米国進出に関しての手応えや自信も得たという。

「台湾での商品展開もやっていますが今後は米国にも進出したいです。野球人としての挑戦でもありますし宮崎を世界に向けて発信したい気持ちも強い。ポメランツとの契約もそういう部分からでしたし、バウアー効果の手応え、追い風に乗って米国にアプローチしたいと思います」

「『1年通して良い仕事をありがとう。本当に良かった』とバウアーが感謝を述べてくれた。最大の褒め言葉であり我々の背中を押してくれます」

野球の本場である米国への進出は選手だけの思いではない。ボールパークドットコム社は野球メーカーの立場から、アメリカンドリームをつかもうと挑戦を続けている。そして今後もバウアーとの関係を大事にしていきたいと強く願っている。ソードが刻まれた和牛JBを使った剛腕が野球界を席巻するシーンを数多く見られるはずだ。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・ボールパークドットコム)

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