現役選手とOBとの絆を作りたい! 苦境でも前を向く 神奈川大学アイスホッケー部
1945年創部という長い歴史を持つ、神奈川大学アイスホッケー部。現在関東大学アイスホッケーリーグの一部に所属する強豪チームである。しかし、新型コロナウイルス蔓延の影響による部員数の減少や物価高そして円安などにより、部の活動が苦境に立たされている。
だが、そのような状況でも、現役のプレーヤーとしてこの歴史ある部を引っ張る学生たちの熱意が消えることはない。
今回の記事では、主将の水野侑武(あつむ)さん(東北・4年)と副主将の吉原虹輝(こうき)さん(水戸啓明・4年)に、神奈川大学アイスホッケー部への思いと、部の将来について話を聞いた。
夏でも氷上でトレーニング
この4月、神奈川大学にもたくさんの新入生が入学したことと思います。アイスホッケー部には、何人くらい新入生が入部しましたか。
水野侑武主将(以下、敬称略)「今年は、2人が推薦入試でアイスホッケー部に入ることになりました。また、一般入試で入学した1年生で、小学生の頃にアイスホッケーをしたことがある人がいて、その方も入部が決まりました。
実は、今まで高校からの推薦で入部する人ばかりだったのですが、今年から初心者も入部できるように部の方針を変えました。その第1号の入部となります。」
では、もし、アイスホッケー部に入部を迷っている新入生がいたら、どのような言葉をかけたいですか。
水野「もしアイスホッケー部に入ろうかどうしようか迷っている人がいたら、アイスホッケー部は体育会系の部ではあるけど、上下関係も厳しくないし、楽しくプレーができる部だよ、ということを伝えたいです。また、練習回数も多くはないので、学業やアルバイトとの両立もしやすい部ですし、実際に両立している部員もたくさんいることも伝えたいですね。
そして、多くの方にとって、大学は最後の学生期間となります。この4年間をアイスホッケーに夢中になって過ごすことができれば、大学卒業後もアイスホッケーのゲームを見たりというような楽しみ方ができて、人生の楽しみが一つ増えると思います。」
吉原虹輝副主将(以下、敬称略)「私は新入生の方には、アイスホッケーの楽しさを最初に伝えたいと思います。アイスホッケーって、日本ではマイナースポーツなので、プレーしたことがある人は少ないですし、ゲームを見に行ったことがある人も、それほど多くはありません。そんなスポーツを大学でしっかりと4年間経験できるのは、人生の中でも貴重な機会になるのではないかと思います。」
お二人が考えるアイスホッケーの楽しさは、どのような点だと思いますか。
吉原「アイスホッケーはスケート靴を履いて動くスポーツなので、選手のスピードがとにかく速いんです。それに加えて、フィジカル・コンタクトも多いスポーツなので、日常生活では体験できない感覚を体験することができます。そうした点が、このスポーツの魅力です。」
水野「攻守の切り替えが目まぐるしく変わることが、このスポーツの魅力だと考えています。また、マイナースポーツのためか選手と観客との交流がしやすく、物理的にもゲーム中は選手のプレーを間近で観戦できる競技であることも、アイスホッケーの魅力ですね。」
アイスホッケーのポジションですが、大雑把に分けると、フォワード・ディフェンス・ゴールキーパーの3種類になるかと思います。フォワードはこんな人が向いている、というような、ポジションによる性格の違いというのはありますか。
吉原「やはりフォワードは、自分が前に出て点を取ってやる、という若干エゴイスト的な性格の人が向いているのかなと思います。ディフェンスは、フォワードにパスを出すのが大きな役割なので、献身的なプレーが好きな人、人の役に立つのが好きな人が多い気がします。ゴールキーパーは、自分の失敗が失点に直接つながる孤独なポジションということもあるのか、ちょっと変わった人が多いように感じています(笑)。」
水野「私はキャプテンとして私たちのチームを見ていますが、個性的なメンバーが多く、良い意味でまとまっていないところがあるので、ポジションごとに共通の性格的な特徴を見つけるのは、とても難しいですね。特にフォワードの選手は、個性的な人が多いです。ディフェンスは自己主張が少ないというか、相手の出方を見てから自分の動きを考える感じの選手が多いかもしれません。」
アイスホッケー部の1日のスケジュールは、どのような感じなのでしょうか。
水野「通常、朝から午後5時くらいまでは、それぞれが大学の授業に出席しています。午後5時から10時くらいまでの時間帯では、アルバイトをしている人が多いですね。そして午後11時くらいから午前2時までがアイスホッケー部の練習時間で、大学の近くにあるリンクで練習しています。」
アイスホッケーは冬のスポーツというイメージなのですが、夏の間でも氷の上でトレーニングされているのでしょうか。
水野「はい。というのも、大学のアイスホッケー界では、5月・8月・10月・12月にそれぞれ大きな大会があるので、基本的に夏でも氷の上でトレーニングしてます。
でも、毎週土曜日の午前中は陸上でのトレーニングをしています。その時は、大学の近くの公園でインターバルや体幹トレーニングのような、身体能力を高めるためのトレーニングをしています。」
円安で防具が値上がり
現在、神奈川大学アイスホッケー部の部員の方にとって、部の活動をするのが非常に難しくなっている、ということを伺いました。詳しく聞かせていただけますか。
水野「はい、まず、アイスホッケー部の部員の数が減ってしまったため、部の活動に影響が出ているという実情があります。というのも、今まで私たちは大学からスポーツ推薦の枠を頂いていたのですが、来年度からそれがなくなってしまいました。また、コロナウイルスの影響もあり、アルバイトの時間を増やす必要があるなどの理由で、かなりの数の部員がやめてしまいました。こうした理由から部員の数が一気に減り、現在は部員が13人しかいない状況になっています。部員が少ないと、それに比例して部費も少なくなってしまうので、経済的にも苦しくなっています。
加えて、円安の影響でプレーヤーの防具などの価格が上がっているという問題にも直面しています。実は私達のチームには今季ゴールキーパーがいないため、初心者を0から育てることになりました。でもゴールキーパーの防具などは輸入品なので、最近の円安の影響で防具の価格が上がってしまってます。
また、私たちは学校の近くにあるスケートリンクで練習をしているのですが、そのスケートリンクの使用料も急激に値上がりしているため、思うように練習ができない日が続いています。
自分たちでもSNSなどを通じてご支援をいただけるように色々動いてみましたが、多くの方に私達の現状をお伝えすることはかなり難しいと感じています。」
先程、ゴールキーパーの防具のお話がありましたが、アイスホッケーの防具やスティックのような道具は、輸入品が多いのでしょうか。
吉原「アイスホッケーの道具はほぼすべてがアメリカやカナダなどからの輸入品です。そのため、大学スポーツの中でも、アイスホッケーはこの最近の円安の悪影響をまともに受けてしまっているスポーツの一つだと思います。」
現役選手とOBとの絆を作りたい
今お二人は、かつて神奈川大学アイスホッケー部に所属されたOBの方と、現役の大学生の選手たちが互いに連絡を取り合えるような体制を作りたいと考えているそうですね。
水野「私たちの世代が大学に入った頃にちょうど新型コロナウイルスの蔓延が始まったこともあり、試合の数自体が本当に減ってしまったんです。同時に、それまで試合の応援や練習に来てくださったOBの方々とお会いする機会も、一気に減ってしまいました。当時はOBの方々の連絡先などをアイスホッケー部として記録しておくということもなかったため、今OBの方とは全く連絡が取れない状況です。
社会のいろいろな分野で活躍されているOBの方々は、歴史ある神奈川大学アイスホッケー部の財産だと思います。そんなOBの皆さんにアイスホッケー部の方からご連絡させていただけるような体制を作ること、そしてOBの方々同士が神奈川大学アイスホッケー部についてお話ししていただけるような機会を作ることが、私達の世代が未来のアイスホッケー部のためにできることかな、と考えています。」
OBの方と連絡が取れたらこんな事をやってみたい、というような計画はありますか。
水野「OB戦を開催してみたいです。また、現在部員が13人と少なくて、試合形式の練習がなかなかできないので、OBの方に練習に参加していただければ、もっと実戦形式の練習ができてチームも強くなると思います。また、たくさんのOBの方にゲームの応援に来ていただけるようになりたいですね。
もし、神奈川大学アイスホッケー部のOBの方がいらしたら、部のSNSなどを通じてご連絡をいただければ嬉しいです。」
日本学生選手権でのベスト16が目標
今季のアイスホッケー部の目標は。
吉原「12月の日本学生選手権でベスト16に入ることが、今年の最大の目標です。しかし、今の状態のままでは非常に難しい目標であることは、チーム全体として理解しています。
例えば、個人のスキルをもっと上達させること、アイスホッケーに関する知識を増やすこと、そして戦術の理解と実戦能力を向上させること、こうしたことすべてができないと、全国でベスト16以内に入ることは難しいと考えています。そのためにも、OBの方のお力を借りることができたら嬉しいです。
また、今私たちは関東13位のグループなのですが、このまま12月の日本学生選手権に行くと、対戦する相手は関西の1位や2位といった大学になります。いわば格上のチームに勝てるようにしないとベスト16に入ることはできません。
私たちの部がもっているアイスホッケーに関するすべての要素を向上させ、すべての逆境をひっくり返して勝つことができるチームになろうと思っています。」
新型コロナウイルスや物価高といった社会情勢の変化は、スポーツの場に大きな影響を与えている。特に活用できる人的・社会的・経済的資源が限られている大学スポーツは、こうした社会の影響を受け一旦活動が縮小してしまうと、以前のような活動状況に戻すことは難しい。加えて、道具のほとんどすべてが輸入品というアイスホッケーのようなスポーツは、円安というハンディキャップを抱え、学生たちが必要な装備を揃えるのも苦しい状況が続いている。
そうした状況の中でも、今のチームを強くすることはもちろん、将来のアイスホッケー部のためになることも考えて行動しようとする神奈川大学アイスホッケー部の動きは、他大学のスポーツ系の部活やサークルの参考となるであろう。
(インタビュー・文 對馬由佳理)(写真提供 神奈川大学アイスホッケー部)