早慶レガッタ、元甲子園球児の主将率いる慶應が連覇に挑む!

 早慶レガッタは1905年(明治38年)に第1回が行われた117年の歴史を持つ大会だ。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止とされたが、昨年の第90回大会は無観客で開催された。今年の第91回大会は4月17日(日)、今回も無観客で開催される予定だ。ライブ配信には高精度GPS「HAWKCAST」を導入し、両校艇のレート(1分間に漕ぐ回数)や速度をリアルタイムで表示する。さらにドローン2機を使った空撮も予定している。
 早慶レガッタ応援コラム2回目は、対校エイト連覇を狙う慶應義塾端艇部・石田新之介主将(法学部法律学科4年)に、早慶レガッタへの思い、ボート競技の魅力、今回のみどころなどについて語ってもらった。

甲子園球児が大学でボート競技に転向

 石田は父の仕事の都合で5歳から12歳までを海外で過ごした。中学校入学のタイミングで帰国し、慶應義塾中等部へ進学。中学、高校では野球部に所属し白球を追いかけた。野球部では主に外野手としてプレーし、慶應義塾高3年のときには春夏連続で甲子園大会に出場。春の選抜甲子園大会では、プロ注目左腕と言われた彦根東高(滋賀)・増居翔太(現・慶應義塾大4年)からヒットも放っている。
 大学進学の際には当然野球部からも入部を期待されたが、石田が選んだのは未経験のスポーツであるボート競技だった。
「野球部に入ることも考えて、かなり悩みました。でも自分のポテンシャルは、野球とは違うスポーツの方が生かせるんじゃないかと思って、ボートに転向することを決めたんです」
 大学入学直後の4月に観戦した早慶レガッタで感じた『熱量』が、石田の背中を強く押したという。
「たまたま友人に誘われて早慶レガッタを応援に行ったんです。ボート競技を見ること自体が初めてだったので、正直、全然分からなかったんですけど、ボートを漕いでいる選手の熱量がまず伝わってきて、応援する部員、サポートする部員もすごく熱を持っていて。こういう熱量を感じられるような場所で4年間を過ごしたいと思ったんです。ボートの持つ『熱量』が最大の決め手になりました」

慶應義塾端艇部・石田新之介主将

ボート競技は究極のチームスポーツ

 春夏の甲子園という大舞台まで経験した石田を惹きつけたボート競技の魅力とは、どんなところにあるのだろう。「ボート競技は『究極のチームスポーツ』」と石田は言う。
「例えば野球だと、チームスポーツとは言うものの、ゲームの中では投手と打者の対決であったり、ボールと自分一人の瞬間であったり、一対一の瞬間瞬間で構成されていると思うんです。これに対して、ボート競技では一瞬たりとも一人で船を進めるという瞬間はない。そこがボート競技の特徴であり、魅力であり、一番難しいところであると感じています」
 ボート競技の魅力に惹かれた石田は端艇部への入部を決意。2年目の早慶レガッタの前には対校エイトの選手に選ばれるまでに力をつけた。しかし、2年の春、隅田川で石田がその『熱量』を思い切り発揮する機会は訪れなかった。2020年、新型コロナウイルスの感染拡大への懸念から、春先に予定されていたスポーツ競技会、大規模イベントはのきなみ中止に。早慶レガッタも中止となってしまったのだ。
「2年の春は、本当に直前で中止が決まりました。先輩たちから、早慶戦がどれだけ重みのある大会なのかも聞いており、強い緊張感と覚悟を持って練習に励んでいたところの中止だったので、自分自身も残念でした。それよりも覚えているのは、当時の4年生が、最後の早慶戦が中止になってしまって涙を流していたことです。その姿を見て、早慶戦がボート部にとっていかに大きなイベントなのかを改めて痛感しました」
 翌2021年4月、隅田川では無観客ながらも2年ぶりに早慶レガッタが開催された。対校エイトでは2017年から2019年まで早稲田が3連覇していたが、この日は慶應義塾が接戦の末に勝利を収めた。3750メートルという長距離を競った上で、わずか1秒差での勝利だった。対校エイトのメンバーとして戦った石田は、昨年のレースをこう振り返る。
「早慶戦に出られなかった先輩の思いも感じていましたし、早稲田に5年間勝てていない状態だったので、その分、勝てたときの喜びはひとしおでした」

前回大会、レース前に円陣を組んで気合を入れる対校エイトのメンバー

自信はある。同時に相当な覚悟が必要

 いよいよ今年も早慶レガッタの日が近づいてきた。石田に自信のほどを聞いてみた。
「自信はあります。ただ、同時に相当な覚悟が必要だということも分かっています。昨年の早慶レガッタでは早稲田になんとか競り勝つことができましたが、9月の全日本大学選手権の決勝でまた早稲田と対戦したとき、早稲田は相当気持ちが入っていました。今回も、目の色を変えて慶應を食いにかかってくると思いますから。慶應が去年と同じことをやっていたらやられてしまう」
 そう言って石田は表情を引き締める。慢心を許さず、自分たちも攻める気持ちでレースに臨む。石田はそういう意味で「覚悟」という言葉を用いた。
 早慶レガッタの花形は大会最後に行われる対校エイトだが、石田にそれ以外の見どころを教えてもらった。
「男子の第2エイトには今年、新2年生の選手が多く乗ります。若い選手たちによる勢いのあるところに注目してほしいですね」
 女子エイトは31年連続で早稲田に敗れているが、着実に力をつけていると石田は言う。
「女子部は早慶戦に関しては連敗中ですが、去年のインカレ、全日本大学選手権では好成績を残していますし、着実にステップアップしています。それが今年、実を結んで早稲田を倒すという形で結実できればと思います」
 慶應義塾の今年のチームスローガンは「王者」。第一応援歌『若き血』で歌われる「陸の王者 慶應」のフレーズが思い浮かぶが、このスローガンにはまた違う意味が込められている。
「王者の政治は王道政治と言われるもので、簡単に言うと、力でねじ伏せるのではなく、仁義をもって集団をおさめる、そういうチームを作って早慶戦に臨みたいと思います」
 コロナ禍で思うように活動が進まない中、それでも石田はじめ首脳陣はチーム全員が足並みをそろえ、一つの方向に向かうよう意識し部を引っ張ってきた。王者・慶應が連覇に挑む。

着実に力をつけている女子エイト。打倒早稲田に燃える

(取材・文/小川誠志、写真提供/慶應義塾端艇部)

北海道札幌市出身。スポーツライター。日刊スポーツ出版社などを経て2018年よりフリーランスに。

プロフィール

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