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仙台大新1年生・佐藤幻瑛が堂々の”大学初先発”  東北公益文科大は投打の柱が活躍〜東北地区社会人・大学野球対抗戦総括(後編)

 3月25日に仙台市民球場で開催された東北地区社会人・大学野球対抗戦。東北のアマチュア野球界を代表する社会人チーム、大学が一堂に会する対抗戦で、大学は仙台六大学野球連盟、北東北大学野球連盟、南東北大学野球連盟から2大学ずつの計6大学が参加する予定だった。2日目は雨天中止となり、初日に仙台大、東北公益文科大、青森大が登場。後編では大学生プレーヤーの活躍ぶりを振り返る(選手の学年は新学年)。

仙台大期待のルーキー右腕が見せた潜在能力

 昨秋のリーグ戦、東北地区代表決定戦を制し、2年連続で明治神宮大会に出場した仙台大。社会人野球の強豪・TDKに2-4で敗れたものの、明るい材料も多い試合内容だった。

   先発のマウンドに上がったのは、高校を卒業したばかりのルーキー右腕・佐藤幻瑛投手(1年=柏木農)。青森の県立高校出身で、柏木農では1年次から「エースで4番」を任された。1年秋、創部初の秋季県大会勝利をもたらす完投勝利を挙げ注目を集めると、3年夏の県大会では140キロ台の直球を連発する快投を披露。1回戦の五所川原商戦では9回16奪三振無四死球完投をやってのけた。

 早くもオープン戦で登板機会を得ており、3月中旬の試合では自己最速の149キロを計測した。仙台大の先輩投手に体の使い方などを質問し、フォームを微修正したことが、短期間での球速アップにつながったという。

社会人相手に力投する佐藤

 この日は毎回走者を出しながらも、140キロ前後の直球と変化球を駆使して4回1失点と粘投した。光ったのはルーキーらしからぬ落ち着いたマウンド捌き。2回、無死満塁の場面で低めに直球を投じ併殺打に打ち取ると、続く打者は空振り三振に仕留め、最大のピンチを併殺打の間の1点のみに抑えた。さらに3回は一死から出した走者を牽制でアウトにし、自ら相手のチャンスの芽を摘んだ。

 大学での初先発、しかもTDK打線が相手という状況で申し分ない投球を見せたが、本人は満足していない。4四球を与えたことを振り返り、「結局自分の四球で走者を出して、自分で追い込んでしまった。もっと球数を少なくして、簡単に抑えられるようになりたい」と課題を口にした。

 直近の目標は球速を上げること。「出せるところまで出したい」と意気込んでおり、まずは150キロ突破を目指す。速球派投手が続々と育っている仙台大に現れたニュースター候補の4年間に注目だ。

仙台大のリードオフマンに芽生えた自覚

 仙台大打線はTDK投手陣を前に2得点に抑え込まれた。そんな中、「1番・左翼」でスタメン出場した川島優外野手(4年=山村学園)は3安打を放ち奮闘した。

 相手先発の佐藤亜蓮投手(22=仙台大)からは2安打をマーク。昨年までの3年間をともに戦った先輩との対戦を「亜蓮さんはすごくいい投手なので、打てば自信がつくと思って初球からガンガンいった」と意識し、その言葉通り積極的にバットを振った。

打席に立つ川島

 最大の武器である俊足も健在。3回は安打で出塁した後すかさず盗塁を決め、5回は単打性の当たりながら快足を飛ばし二塁を陥れた。「出塁したら、相手投手の癖を見ながら常に盗塁のことを考えている」。昨秋のリーグ戦では10試合で12盗塁を記録し、最多盗塁賞に輝いた。タイトル獲得は自信につながったといい、リードオフマンとしての自覚は昨年以上に強まっている。

 仙台大の野手陣は、川島を含めた最上級生の多くが昨年も主力を張っていた。プロ注目の遊撃手・辻本倫太郎内野手(4年=北海)をはじめ、この日代打本塁打を放った三原力亞外野手(4年=聖光学院)、2度盗塁を阻止した坂口雅哉捕手(4年=八王子学園八王子)ら実力者が揃う。川島は「チームワークは例年以上にあると思う。経験値を生かしてリーグ戦に臨むことができれば勝ち進めるはず」と胸を張った。

南東北通算10勝右腕が3年目の飛躍を予感させる好投

 東北公益文科大は、トヨタ自動車東日本に4-3で勝利。3大学のうち唯一、社会人相手に白星を挙げた。打線は4回までに4点を奪い、先発の嵯峨恭平投手(3年=東海大山形)は9回3失点完投。投打が噛み合ってつかんだ白星だった。

 嵯峨は初回、一死二、三塁のピンチを無失点で切り抜けると、2回以降は立ち直り5回まで走者を一人も出さない完璧な投球を続ける。7、8回は長打を許し失点したものの、最終回はスコアボードに0を刻み逃げ切った。

丁寧な投球を続けた嵯峨

 この日奪った三振は2つのみで、ほとんどはゴロアウトかフライアウト。100キロ前後のカーブなど4種類の変化球を駆使し、有利なカウントを作ったり、早いカウントで打たせて取ったりするテンポの良い投球を貫いた。

 スタミナ面でも成長を示した。3日前の練習試合で”大学初完投”したばかりだったにも関わらず、「あまり疲れは感じなかった」と振り返るように無理なく最後まで投げ切った。リーグ戦でも「できれば一人で投げ切りたい」と思い描いている。

 1年秋のリーグ戦で4勝を挙げ、最多勝利投手賞と新人王を獲得。その後も白星を積み重ね、大学2年までに早くも通算10勝をマークしている。昨秋は4勝1敗、防御率1.91の好成績で、2度目の最多勝利投手賞と初の優秀選手賞に輝いた。社会人相手の完投勝利を自信に変え、一段とレベルアップした姿を見せたい。

東北公益文科大主将が示した冬の成果

 東北公益文科大の打線は、足を絡めた攻撃で初回から効率よく得点を奪った。新チームになってからはチーム全体で走塁の意識を高めており、昨年から主将を務める福山凜内野手(4年=日章学園)は「長打を打てる打者が多いわけではないので、足を使ってなんとか二塁まで進んで、ヒット1本で帰る練習を徹底してきた」と話す。

 その福山も俊足巧打のタイプで、昨秋は自身初の盗塁王を獲得した。しかし「3番・二塁」でスタメン出場したこの日は3回の第2打席で右翼ポール際へのソロ本塁打を放ち、長打でチームを盛り立てた。

本塁打を放ち、笑顔でベンチに戻る福山(左)

 試合後、福山は「一冬越えて練習の成果が出てよかった」と笑顔。今オフは個人としては打撃を磨いてきたといい、連続スイングや重さのあるバットを使った練習で習得した「甘く入った球を仕留める力強いスイング」が生きた本塁打となった。

 昨秋のリーグ戦は8勝2敗の2位で、惜しくも優勝を逃した。2敗を喫した相手はいずれも優勝した東日本国際大。福山は取材中、「国際大に勝つために」「国際大には負けたくない」「国際大に勝って優勝するのが一番」とライバル校の名を繰り返し口にした。そのことが、悔しさを忘れずに野球と向き合ってきた日々を物語っていた。主将として、チームのことを誰よりも考えながら、大学4年間の集大成となる1年を駆け抜ける。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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